第154話 受け継がれる子供の音色です
今日は久しぶりに離宮を訪れた。
僕が回復しているのを徐々に
「殿下! ご回復のほど、何よりです!」
離宮を守ってくれてる獣人さん達はかなり数が減った。ルクートヴァーリング地方に3分の2ほどが帰って、残りは離宮の守りと管理のために残ってくれてる。
「ありがとうございます。皆さんも僕の療養中、よくこの離宮を守っていてくださいました、感謝します」
歩いてすぐのところだけど、今回はアイリーンとエイミーにクララ、そしてレイアを伴ってるし、護衛を引き連れてわざわざ馬車で訪れた。
「ぁ~、ぅ、ぅー」
アイリーンに抱っこされながら馬車を降りて離宮を目にしたレイアは、ちっちゃなお手てを伸ばしてワタワタ動かす。
はじめてのお出かけに加えて、初めて見る建物……興味津々みたいで、目がキラキラしてる。
「すごいでしょー、レイア。ここは殿下の別荘なんですよー」
「(ちょっと違うけど、まぁ似たようなものかな)」
話しかけるアイリーンは楽しそうで、レイアも喜んでるみたいだし、細かいことはまぁよし。
「クララは中まで入るのは初めてでしたよね?」
「はい、お話には聞いていましたが……何といいますか、すごいですわね」
この離宮が建て直された時の話を、ここに来るまでの間の馬車の中で聞いたクララは、呆れ果てつつも何とか笑顔を顔に張り付けてる。
(※「第92話 お兄ちゃんの愛です」参照)
先だって寝室の壁面工事の時もそうだけど、兄上様達の設備投資へのお金の掛け方には、色々とショックが大きかったみたいだ。
「兄上様たちの厚意ということにして、細やかなことは深く考えないようにしましょう、とにかくまずは中へ」
・
・
・
「ぅ、ぅっ……ぁ~ぅ……、だ~ぅっ」
「お気にいっていただけて何よりなのです。これは私も小さいころ、あやしてもらったオモチャなのですよー」
この離宮にはエイミーの生家跡から発見された品々が保管されてる。
(※「第91話 これはいいモノなのです」参照)
今日はヘカチェリーナがルクートヴァーリング地方の実家に行ってるので、エイミーがみずから何人かのメイドさん達と一緒に、この玩具を引っ張り出してきた。
色とりどりのキャンディーを埋め込んだような模様の球体が数本の糸で吊るされていて、その吊るし糸を垂らす棒を操作すると、吊るされてる球体が回転したり跳ねたりする操り人形的な仕組みだ。
中に何か入ってるらしく、カラコロと不快じゃない綺麗な音がする。しかも動かし方によって音色が変わるものだから、エイミーが慣れた手つきで操作してみせると、ノスタルジックな曲が奏でられて、離宮内にこだました。
「これは素晴らしい玩具ですわね。このような品、初めて目に致しましたわ」
クララが本当に驚いた様子でエイミーの動かすソレを見る。
アイリーンも、その腕の中にいるレイアも、鮮やかな球体の動きと奏でられる演奏に集中していた。
「亡きお母様の手作りなのです。既製品で同じようなオモチャは他には私も見た事はないのです」
つまりハンドメイドの一点もので、作者はこの世になし。玩具とはいえ、なかなかの価値を感じる。
「(うーん、糸とか使ってるし、間違って壊してしまう可能性を考えると直接触れさせる玩具としては、まだレイアには早いかも)」
だけど
さすがにエイミーの思い出と彼女の母親の形見っていう側面があるのを考えると、軽々しく扱いたくないし……さてどうしよう?
「エイミー様。レイア様がお触りになってもよろしいモノなど、この他にはなにかありませんか?」
さすがクララ。どうやら僕と同じことを考えてくれてたみたいだ。
「あ、確かに糸が危ないかもですね。うーん……あ、でしたらアレがあったと思うのですよ」
そう言って、パタパタとかけていくエイミー。
そして僕達が、カップのお茶を半分くらいまで減らした頃に戻って来た。
「ふう、お待たせなのです。こちらならレイア様も安全に遊べると思うのです」
そう言って見せてくれたモノは、前世でいう
「これは……ボール、ですか?」
アイリーンは自信なさげにその球体を眺める。というのも、ところどころに穴が開いていて、そこから見るかぎり中身は空洞。
球体は、極限まで薄くした木の板のようなもので造られていて表面を糸で覆ったもの。一般的なボールと比べるとかなり不思議な造りだ。
「はいなのです。ちょっと変わったものなのですが……」
エイミーは、軽く手の平の上から小さく浮かせる。すると―――
ファー……
「! 音がなりましたわ!?」
「こちらも球の動き方で、色々な音が出るオモチャなのですよ。とても軽いですから、レイア様にも遊んでいただけると思うのです」
そう言ってエイミーは、その球体を優しーく投げる。
ラァーー……
「え、え……と、と、エイミー様、急にこちらに投げないでくださいまし。
「えへへ、ごめんなさいなのですよ。でもこのオモチャは一人でも遊べるですが、他にたくさんの人がいる時はこうして、投げ合いっこが出来るのです」
なんだかますます前世でいう
球体の模様がそんな感じだから余計にそう思うのかもしれないけど、要するに女の子がちょっとした休み時間とかにソフトバレーとかで遊ぶみたいなノリかな?
「ぁー、ぁ、ぅっ、ぅっ、ぅ~」
「あら? どうやらレイア様もご興味がおありのようですわね。でしたら……アイリーン様、上手くサポートしてあげてくださいませっ」
ミィーー……
クララからレイアへ、ふんわりとした軌道でパスされる。レイアのパタパタしていた手足の上へと、綺麗に着地した。
「ぁ~、ぅ……だっ、ぅ!」
シィ……
さすがに力は弱い。
けどレイアが小さくあげた球体は、アイリーンのアゴ近くまで上がった。
「よくできましたー。じゃ、次は殿下にいきますねー、えい♪」
レェェェェーーーーー!!
「! とっ!?」
おかしい。
今、アイリーンは人差し指で、軽く弾いただけに見えたんだけど……向かってきた球体の勢いが、軽くドッジボールレベルで飛んできたように見えたのは僕の気のせいだろうか?
思わずトスで弾くんじゃなく、がっちりキャッチしてしまった。
「ぉー……まっ、ぅ……まっ、ぅうー」
見上げていたところを結構な勢いで玉が横切ってくのを見たレイアは、一瞬キョトンとしたけど、泣きだすこともなく飛んでいった球体の行先を確かめるように僕の方を見てはしゃぐ。
「(レイアが楽しそうなのはいいんだけど……あれ、アイリーンさん?)」
なんだか強くなってませんかね。ほんの数日前に、腕が
……ともあれこの玩具は、エイミーからレイアへと譲り渡されることになった。
レイアはレイアで、この玩具を使って驚くべき才能を後に見せることになるんだけど、それはまだ少し先のお話。
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