第十一章:ヒトからモノへ
第151話 防備のかため方も色々です
ブンッ! ブンッ! ブンッ!
王城敷地内の一角にある訓練場で、今日も城勤めの兵士さん達が訓練に励んでる。
お城の2階廊下からその見るその光景はなかなか壮観で、小さい頃からちょくちょく見に来てる。
だけど今日は単なる見物じゃない。
「ほら、レイア。アイリーンがあそこにいますよ」
「ぅ、ぅ……ぁ~ぅ~」
抱っこした娘に訓練場の様子を見せる。今日はアイリーンが練兵師として、産後のリハビリがてら、久々に兵士さん達の前に立って声を飛ばしてるんだ。
「殿下の御身体に凶刃を触れさせるなど、あってはならないことっ! そのあってはならない事を許したのは誰ですか!!」
「「「「我々ですっ!」」」
「殿下を御守りしなければならないのは誰ですか!!」
「「「我々ですっ!!」」」
王城に務めている兵士さん達は当然、王様をはじめ王室の人間を守るのがその存在意義だ。
僕が死の淵を彷徨う事になった時、お城の兵士さん達は誰一人として護衛任務につけられていないから彼らに罪はないけど、僕が重傷を負ったことはその存在意義を問われる……という理屈での声掛けらしい。
「(ちょっと可哀想だけど、強くなってもらわないといけないのは確かだしね)」
何せお城の中にまで魔物が侵入&襲撃してきた事件もあったわけだから、ぼーっとしてもらっていては困る。
ヴァウザーさんの情報から、魔物を用いた " 連中 ” の捜査は進められてるけど、そう簡単に尻尾を掴むことも、
つまり、これからも同じように魔物の襲撃が王城内にまで及ぶことがあるかもしれない。そんな時、兵士さん達の強さは僕達の安全に直結するから、ぜひとも頑張って欲しい。
「殿下、アイリーン様の調子はいかがでしょうか?」
僕達のいる2階廊下に、王都圏防衛網の強化についての会議に出ていたセレナがやってくる。
今、アイリーンに
「うん、健康に心配はなさそうです。ですが……気のせいかもしれませんが、少しだけ武器を振るった時の音が、以前とは違うように聞こえます」
「……。気のせいではありませんね。殿下、さすがです―――アイリーン様はやはり、腕が
僕の隣にきて、木刀が空を切る音に耳を澄ますと、セレナはハッキリと断言した。
「当然でしょう。むしろ懐妊から出産までを経ても、まったく鈍っていないのであれば、驚きを通り越して呆れます。……それでもあのお強さなのですから」
既に呆れる領域の強さに達して久しいアイリーンだけど、さすがに彼女も人の子だ。セレナの言う通り、いくら妊娠中も悪阻があまりなくて平然としてたっていっても、腕が落ちないわけがない。
……それでも眼下を見れば、鎧をフル装備して斬りかかる男性兵士さん10人を、たったの1撃で吹っ飛ばしておられるマイワイフ。
振り抜いた木刀を地面に突き立てて上げた顔はとっても活き活きしてる。
「……ぉぉ~……ぅ…」
僕の腕の中のレイアがあげる声も、なんだか呆れてるように聞こえた。
「それであの強さ……さすがと褒めるべきなんでしょうが、あそこまでいきますと、もはや何をどう褒めるべきなのか困惑しますね」
「はい。部下達にはいい練習になりますから、ありがたいことなのですけれど」
以前、少しだけ聞いたことがある。
言い方は悪いけどアイリーンに対して、強大な魔物と対峙したようなものと思えば兵士達には非常にいい訓練になるらしい。
何せ魔物は人間より強い。
だけど普段の訓練じゃ、実戦に近い模擬戦なんかをしてみても同じ人間の兵士同士。緊張感も臨場感も、本物の魔物に相当するような力もない。
だけどアイリーンのように絶望的にレベル差ある相手なら、かなわなくってもその強さを体感するだけでいい。
すると、いざ実戦で本物の魔物と対峙した時に相手の迫力や、沸き起こる恐怖心に負けない精神力が身に付くんだとか。
「(確かにあのアイリーンと真正面から戦う以上に危険な戦いなんて、なかなかないかもしれないなぁ)」
それこそ魔物渦巻く場所に放り込まれて乱戦状態の方が、まだアイリーンと戦うよりマシかもしれない。
・
・
・
「では、また意見が二分している状況になっていらっしゃるのね」
「ええ。セレナから聞いた王都圏防衛の強化についての会議は結局、多少の強化と通常時の警邏巡回ルートの見直しだけに留まったそうです。……まだまだ王室と軍権力が近づくことに異を唱える声は少なくないですね」
午後。エイミーとクララを伴ってとある部屋に向かう。
以前アイリーンが襲撃を受けた時、魔物との戦いで壁が壊された部屋の修復と改修工事の進み具合を視察するためだ。
(※「第121話 寝室の戦いです」あたり参照)
「(僕もかなり治ったっていっても、ベッドで安静にしてる時間が長かったし。リハビリがてらに、ってことなんだろうなー)」
久しぶりの公務であり、公務という名のリハビリ―――要するに “ 公務 ” ってラベルを貼ってあるだけの城内散歩だ。
歩く速度はすっかり元通り。だけど、まだ身体の感触は本調子じゃないようで、違和感がある。100歩も歩かないうちに、脚の筋肉もすぐに小さな疲労感を感じ始めてしまう。
「(この距離ならまだ何とか……あれ―――)―――なにか、すごい事になっている気がするのですが、僕の見間違いじゃないですよね、アレは?」
見えてきた目的の寝室の入り口付近の光景が信じられなくて、ついエイミーとクララに問いかける。
「壁が、光ってるように見えるのです……」
「金属?? え、金属製?? ……さすがにそんなはずありませんわよね??」
二人も信じられないと何度も目をこすったり、一度
うん、僕達の目がおかしくなっていないなら、あの見えてる壁は間違いなく何らかの金属製だ。
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