第118話 お見舞いにも序列があります



「……と、いうわけで、ファンシア家の方々には序列第三位の一番目にさせていただきました。当日はよろしくお願い致します」

 お茶が4つ乗っているテーブルを挟んだ向こうに、とても穏やかそうな老夫婦が対面してる。僕の言葉にのんびりとした笑みを浮かべながら、小さく了承の意として頷き返してくれた。



 その隣にはシャーロットが座ってる。今回のファンシア家訪問の目的は、ファンシア家現当主夫婦への連絡と打ち合わせだ。


「(お見舞い・・・・ですら序列による順番がある……うーんホント、王侯貴族って大変だなぁ)」

 アイリーンが赤ちゃんを無事出産したら当然、そのお祝いやお見舞いの挨拶に大勢の人がやってくる。

 だけど警備上の理由と母子を刺激しないこと、そして王家の格式にのっとった、粛々とした訪問者の制御と監視を行うために、お見舞いに訪れる順番はあらかじめ決められて、関係各所に通達されるんだ。


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「(序列第一位は僕の直接の家族、つまり兄上様達と父上母上様だ。序列第二位は当代王家筋の家族で、宰相の兄上様と僕のお嫁さん達。序列第三位は王家の親戚筋の家の当主とその家族や、王家の人間と婚約が確定してる者とその付き添い人。序列第四位は貴族の中でも高位の爵位を持ってる家の当主たちと……)」

 僕は入念にリストを確認する。


 すでに該当するお見舞い訪問者への通達と参上確認は終わってるので、リストに載ってる訪問者の名前の横の確認欄には、全てチェックが入ってる。


 ちなみに伝統から、お見舞い訪問者の人数は赤ちゃんが生まれた最初のひと月のみ、条件に合う人の中で序列上位から数えて50人が選ばれる。


 なお条件に合ってても選ばれた中に入ってない人は、どんな地位の人でも赤ちゃんのお見舞いに参上することはできない。無理に押しかければ重罪になる。



「(ま、当然っといっちゃ当然だよね。そもそも呼ばれてもいないのに押しかけて来る時点で怪しさ満点だし)」

 ちなみにファンシア家の3人が序列第三位の一番最初に配されたのは当然意図的にだ。現時点でシャーロットはまだ婚約者としては内々の話で、公的には確定してるわけじゃない。なので一番いい順番がそこになるんだ。




「殿下、失礼しますのです」

 エイミーがヘカチェリーナを伴って僕の執務室に来た。


「やっほー殿下。アイリーン様のお産まであと何日って時でも机仕事? ここんとこ多くない?」

「そのお産に関係するお仕事ですから。机に向かう機会は自然と多くもなりますよ」

 そう言って確認していた見舞い客リストを机の上に置く。二人はそれを、覗き込むように眺めだした。


「この方々が殿下の赤ちゃんを見に来れる方なのです? お二方母子のためとはいえ、お見舞いに来れる方が限定されるのも大変ですね」

「ふっふーん、その点私達は役得よね。いつでも何度でもアイリーン様と赤ちゃんの様子、見に行けるんだし」

 お見舞いに来る訪問客の件は、あくまでも外部に対する話がメインだ。僕のお嫁さんの一人であるエイミーもリストの中、序列二位内に入ってるけど、事前に問い合わせればいつでもお見舞いに来れる。エイミーの立場上、義理の子供になるからだ。


 とはいえ、生れて最初の1週間くらいは訪問客優先。何せ最初の方は序列1位の面々……つまりは彼女達よりも上位にあたる、僕の兄弟父母の訪問だ。


「それはそうですが来客中はダメですよ。僕以外は同時に入室する人数に制限がかけられますからね。おそらくは生まれて一か月間は毎日お客様が来ますので、そうそう何度もお見舞いに訪れることは出来ないと思います」

 基本、アイリーンの寝室へ入るのにフリーパスなのは夫の僕だけ。


 それ以外だと兄上様おうさまがその立場上、多少は融通が利くくらいで、母上様や父上様でさえ見舞い客リストの扱いになってる。かなり厳格だ。


「役得……という意味でいえば、ヘカチェリーナはある程度頻繁には出入りする事になるでしょうね、僕の専属メイドですし」

 彼女はまさしくその役目上、僕がアイリーンのところに行く時に伴うだろうから、ほぼ制限がないといってもいい。場合によっては一人でもアイリーンや子供に付いてもらうよう、僕が命じることもできる。


「ふっふーん、やったね♪」

「う~、私もメイドのままでしたら、たくさんお見舞いにいけたのでしょうか」

 元専属メイドとして、後輩を羨ましがるエイミー。

 そんな頻繁に赤ちゃんを見たいのだろうか?


「まぁ、1、2週間みて産後の肥立ちが良ければ、アイリーンもある程度寝室から出てこれるようになりますし、その時は向こうから会いに来てくれますよ」

 これはちょっとした裏技だ。僕の時も母上様が頻繁に僕を抱いて兄上様達にお見舞いっていう名の見せびらかしに行ってたらしい。


「……先日の件もありますから、警備は厳重になるでしょうけどね」

 僕の一言に、エイミーとヘカチェリーナも少しだけ緊張の面持ちになった。何せあの襲撃事件の黒幕はまだ判明してない。

 (※「第112話 ビキニアーマーと曲者です」参照)


 出産の時もそうだけど、産後も当然油断できない日々が続くんだ。


「二人も十分に注意していてくださいね。アイリーンや赤ちゃんが狙いと見せかけて、別の狙いがある可能性なんかも否定できませんから」

「りょーかーい」「はいなのです」

 早いところ、悪だくみしてる誰かさんをとっちめたい。


 考えてみると、ルクートヴァーリング地方を他国に売り飛ばす気でいた誰かさんから始まって、色々な事件の裏で糸引いてる誰かさん達について明るみになってない人が多すぎる。


 全部の黒幕が同一人物で1人だったら楽なんだろうけど、全部違う人物だったら厄介極まりない。


「(はぁ~、安心安全で平穏な日々を送るのって難易度高いなぁ……)」

 生まれてくる子供のためにも、頑張らないと。




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