第77話 ハーレム計画に亀裂が見えます




「おめでとうございます、殿下。その、色々と……」

「うん、ありがとうクララ。僕も色々とありすぎて、さすがに少し疲れました」

 そう言って僕は、作り笑いを浮かべた。



 まず第二妃エイミーとの結婚祝い、次にルクートヴァーリング領有祝い、そして先の魔物の軍団との戦勝祝いに、アイリーンの第一子懐妊祝い……


 お城に帰ってきて数日後。ようやく落ち着いたと思ったら連日連夜のお祝いパーティー乱舞が巻き起こった。


 結果、あの戦いから1ヵ月近く経過してようやく僕は、久々に学校に出ることが出来た。

 学校でクララに会うのも久しぶりだけれど、変わりなさそうで良かった。


「(まぁ、お祝いのパーティーでも顔合わせてるけどもね)」

 一つ変化があるとしたら身体の成長が加速してること。1年前の13歳頃までは比較的緩やかな成長だったクララだけど、この1年での成長はそれまでより大きくジャンプアップしてる。


「(少し前まではBくらいだと思ってたけど……もうC、ううんDはありそう)」

 ドレスの上からでもハッキリ分かるくらい女性らしいラインが明確になってる。それに何だか、今までよりも子供っぽさがなくなってきたような……女の子ガールから落ち着きある淑女レディに変わりつつあるような雰囲気だ。





「そうそう、本日は久しぶりに殿下とご一緒できるということで、新作をご用意してまいりましたの。ぜひ召し上がってくださいな♪」

 満面の笑顔を見せてくれた瞬間には、まだまだ子供っぽさが感じられる。だけどクララも確実に成長していってることに、僕は少し焦りを感じた。


「(エイルネスト卿の考え次第じゃ、それこそ時間はないかもしれない)」

 他の貴族にクララを渡したくないけれどアイリーンが身籠ってる今、彼女をお嫁さんの一人に迎えるのは難しい。第一妃が子を孕んでいる状況で新しい妃を迎えるなんて、対外的にものすごく体裁が悪いだろうし。


「(いくらハーレムを形成できる身分だっていっても、あの王子は節操がないなんて評判が立っちゃうと兄上様達にも迷惑がかかるし……)」

 王家の一員として、王室全体に悪影響が出ることは避けなくちゃいけない。


 だけど、僕が焦るのにはもう一つ理由がある。セレナのことだ。


「(セレナも確か今26歳。早くお嫁に迎えないと……)」

 僕自身は別に相手が30代だろうと構わない。


 だけどこの世界じゃ10歳の時点でお嫁にいくなんていう、若年での結婚が珍しくない。特に貴族の場合、生れた時から婚約者がいるとかもザラなので、20歳の女性ですら、行き遅れてると穿った見方をする人は結構いるっぽい。


 それに当てはめるなら、セレナは完全に行き遅れていると言われる年齢。もちろん僕はそう思わないけど、ここでもまた上流階級の体裁が邪魔をする。


「(行き遅れた女性を娶ることを嘲笑するのが、何ら影響力を持たない人々なら別にいいんだけど、問題はそれなりに発言力ある貴族の中にも、そういう心根の人がいるっていうんだから困る……)」

 苦々しい。そして、忌々しい。



 そうした体裁を気にした場合、次のお嫁さんをお迎えするタイミングは、アイリーンが赤ちゃんを産んで半年から1年ほど間をあけないといけない事になってしまう。

 つまり、最短でもクララにしろセレナにしろ、お迎えできるのは今から1年半~2年近く先になってしまいかねないんだ。


「(そうなるとセレナは28歳、クララも16歳前後でそれぞれの理由からどっちも限界ギリギリだ。きっとエイルネスト卿は、18歳までにはクララの嫁ぎ先を決定する気でいるはず。でも実際はそこまでのんびりと考えるような人じゃないだろうから、16歳の時点でたぶん内々には確定させちゃうはずだ)」

 エイルネスト卿は、貴族としてストイックな考え方の持ち主だ。

 娘の意志を尊重するだとか、焦らずにのんびり決めれば良いだとか、そんな甘いことは絶対言わないに違いない。下手すると、もう頭の中では決定してる可能性だってある。

 その判断は常に " クララの政略結婚 ” のもっとも有効かつ有用な使い方はいかに、だ。


「……クララ、もしよろしければ明日、アイリーンの見舞いにお城に来ませんか?」

「まぁ、よろしいのですか殿下? 私もちょうど、一言お祝いを言いたいと思っていました」

 何気にクララとアイリーンの仲は良好。

 前世で言うところの、近所の幼馴染がウチに遊びにきてお姉ちゃんと話が弾む感じだ。タイプはまるで違うのに気が合うみたい。


「まだお腹も大きくなってはいないのですが、周囲から安静を強いられて退屈していますからね。クララに訪ねてもらえれば、きっとアイリーンも喜びますよ」

 途端に彼女の顔がパァッと明るくほころんだ。


「そうであればぜひに。……エイミー様にもお会いしたいですし!」

 表情が変わる―――明るさを通りこして、いつも僕がドロドロのデレデレ状態にするような顔になった。


「(あ―――)」



  『殿下っ。このコを私にくださりませんか?!』

 


 そういえばクララは、エイミーをすごく・・・気に入っていた。

 (※「第40話 クララ先生のお妃教育です」参照)


 もう僕のお嫁さんになっているから取られる心配はないけども、それでもクララの中の比重のシーソーはたぶん ” エイミーを愛でる >> アイリーン訪問 ” だろう。


 両目が星の輝き、口元に軽くヨダレ、お尻の辺りに見えない尻尾がブンブン振るわれているのが見える気がするクララさん。


「(これはアレだ―――明日、友達にウチに遊びにこない? お姉ちゃんもクララちゃんと久しぶりに会いたいって―――って言われて、内心はその家で飼われてる愛らしいペットを愛玩するのが実は主目的なのを隠して応じる感じだ)」


 とにかく僕は、クララとの交流を強めることにする。それだけじゃほとんど意味はないけれど、もしエイルネスト卿に少しでも父親の情がクララに対してあるなら、知らない貴族よりも仲を深めてる僕を、娘の嫁ぎ先に選ぼうという気に少しはなりやすいかもしれない。



「(ものすごく希望的観測だけど、何もしないよりかはマシだ。それに今はそれくらいの事しか手が思いつかない……)」

 もしかすると、アイリーンに赤ちゃんを産んでもらうタイミングを間違えたのかもしれないと、僕は不安になる。

 実はもう詰んでいるんじゃ? そんな悪い想像が静かに膨らんで……




 ……今はクララとのお昼を楽しもう、嫌な思考を振り払うために。





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