第70話 援軍はビキニアーマーです




「間に合ったみたいね、けっこー危なかった感じ?」



 僕達が到着すると、見越していたみたいにヘカチェリーナが騎兵隊に走りよってきた。いつものメイド服じゃなく貴族令嬢の服装でもない、ビキニアーマー姿で。



「どうしたんです、ヘカチェリーナ。その恰好は??」

「フフン、すごいっしょ? 殿下の命で兵士かき集めにいく移動の合間に、アイリーン様から貰ったお古を仕立て直してみたってワケ」

 確かにアイリーンが昔着ていたビキニアーマーだ。といっても二人の力の差は歴然で背丈も違うから、そのままだと重すぎるパーツを減らして軽量化&リメイクされてる。


 それにお古のドレスを使ったのか、随所に布が増やされてた。具体的にはスカートや肩マント、あと随所にフリルが追加されてる。



「殿下っ、ご無事でしたかっ!?」

 遅れてエイミーも走り寄ってきた。さすがにこっちはビキニアーマーじゃない……と思ったら、どうやらヘカチェリーナとパーツを分け合ったらしい。

 アイリーンのお古のビキニアーマーについてたパーツの一部を、戦場に合わせたと思われる動きやすい服をベースに随所に取り付けていた。


 ヘカチェリーナがあくまでビキニアーマー主体なのに対し、こちらは装甲がつけられたバトルドレスとでもいうような仕上がりになってる。



「エイミーもご苦労さまでした。よく僕の無茶なお願いを実現してくれましたね」

 そう言って、僕は彼女の頭を撫でた。


「えへへ……。ですが殿下、まだ戦闘は続いています、殿下が追われているのが確認できましたから、とりあえず魔物の群れに急いで攻撃しましたが、この後はどうしましょう??」

 意外としっかりしてる。エイミーも今は僕のお嫁さんなので、こうして戦場に立つのは本来はよろしくない。

 だけどそんなこと言ってられない。後でアイリーンが羨むだろうけども、まずは魔物の軍団を蹴散らさなくっちゃ。



「ハーイッシュ少尉、ここから戦況をたて直しましょう! 騎兵さん達の中で指揮ができる人を集めてください。緊急で申し訳ありませんが、本職の部隊統率ができる方々と合流するまではこの軍の引率をしてもらいます」


「了解しました! 以後の方針はどのように?」

 こうなったら1秒でも早く行動し、魔物たちを撃退していかなくちゃいけない。この勢いのまま、一気に勝負を決めにいくのがいいはずだ。


「ヒルデルト准将の救出、と言いたいところですが、それは大目標とします。まず手近なところから分断されて孤立状態にある味方を拾い・・ましょう。それでこちらの戦力はさらに固まります。ヘカチェリーナ、この軍の構成は把握できてますか?」


「もち。ルクヴァー(ルクートヴァーリング)全体からかき集めた兵士が8000でしょ? それに獣人の村から1000人にー、ウァイラン領ウチから3000ってとこ。内訳は騎兵が3000でー、歩兵が6000、長距離弓と兵站兼任が2000って感じ。残りの1000は魔法使いチームで移動遅いからまだ到着遅れてる。まー兵站引っ張ってる2000も遅れてるから、今ここにいるのは騎兵3000と歩兵6000……あ、でも歩兵は急がせた分、ちょいお疲れ気味だからそこんとこだけちょい注意してねー」

 一息にスラスラと連れてきた援軍の構成を言ってのけたヘカチェリーナに対して、ハーイッシュ少尉はもちろん、他の騎兵の皆さんも目を点にして驚いていた。


「(やる気になればホントに優秀なんだよなぁ、このコは)」

 能力は高いけどやる気に問題アリの残念ご令嬢にして、現在は王弟付きメイドのヘカチェリーナ。


 まぁ今はとにもかくにも頼もしいから良し。


「はい、では皆さん行動を。なるべく多くの味方を救って、魔物たちを撃退しましょう!!」








――――――最前線。


 ガァンッ! ドシュッ! ガゴォンッ!!!


「ぐぅっ! はぁはぁ、准将閣下、我々が血路を開きますゆえ、何とかお逃げを!」

「馬鹿を言うな、今更お前達が決死で当たったとて逃げられるものでないのは明らか……無駄に死に急ぐな!」

 完全にズタズタにされ、魔物たちの中にバラバラになって飲み込まれていた、無数の小さな兵士の集まりの1つにセレナはいた。


 連れている兵士はわずか30人足らず。周囲はどこを見回しても魔物の群れ。

 何十mか貫き通れば、あるいは他の孤立した味方と合流できるかもしれないが、満身創痍の兵士達と自身もケガを負っているセレナでは、もはやこの場で耐えてるだけで精一杯だった。


 ドシュッ! ガッ! キィンッ!


「ハァハァ、ハァ、ハァ……、くう……ここまで魔物の数が増えるとはっ、くそっ」

 兵士は歯を食いしばりながら剣を振るう。もう全身がバラバラになってしまいそうなほど、痛みと疲労にまみれている。


 ドッ! カカカッ! ブンッ!!


「ちくしょう、こいつらっ……遊んでやがるっ!」

 また別の兵士は悔しさで槍を持つその手を力ませた。

 魔物たちから見ても、セレナとその兵士達はボロボロで、本気で襲い掛からずとも余裕で殺せると踏んでいるのだろう。

 だからなのか、彼女らをジワジワといたぶるように攻め立てている魔物は囲んでいる200体程度でそれ以外は、もはや死に体な獲物には興味もないとばかりに西へ向けて移動している。


 セレナ達からすれば皮肉にも何とか命を繋ぎ永らえられている状況だが、同時に屈辱的かつ絶望的な状況でもあった。打開の目はなく、やがて殺される時がくる。


「(殿下は逃げおおせただろうか? ……はぁ、このセレナーク、今一度殿下のお顔を拝見しとうございました……)」

 ボロボロになった鎧の下で、主に指揮用の将剣をやはりボロボロになっている鞘から引き抜く。

 心を決めると最後の号令を下すべく、その剣を高らかと掲げた。


「……みな、覚悟は良いな? 我ら最後の力でもって1体でも多くの魔物を道連れとし、我らが王国を脅かす者を減らしかん! 全員突―――」

 しかし、セレナが振り上げた剣が振られることはなかった。遠くに見えたからだ、信じられないものが。



「? ……准将閣下?」

「なんだ、あの砂塵は? 誰か確認できるかっ」

 魔物の軍団を切り裂いて移動する砂塵。


 先頭に鎧を着た獣人の群れが走り、勢いのままに魔物たちを蹴散らしている。そして直後の第二陣と思われる騎兵隊の中に、その姿はあった。



「っ!? で、殿下ッッ!??」




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