第68話 全力を出しきる2日間です
――――――最前線は死闘が続いている。
「ご報告! 中央のゴブリン型4000、左右に別れた模様! 右翼がやや多いようです!」
「中央より兵600を右翼に送らせるよう、左翼には私が直々に
「無茶です、ヒルデルト准将! そのお怪我では……」
「そのような事を言っている余裕はもうない、分かっているだろう」
「……はっ」
「報告!! 魔物の新手来ました! 左翼に
「……というわけだ。これ以上中央から兵は出せない、私が直に指揮をとりにゆかねば抜かれる。ここは任せるぞ」
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「―――このように、最前線では変わらず劣勢を強いられております」
後退した僕の陣は、セレナ達最前線とは8km後方で態勢を立て直していた。といっても戦力の大半にあたる3000を最前線に与えたので、僕の指揮下には2000足らずしか残ってなく、しかも怪我人を中心に残しているから、立て直したからといってできる事はもうほとんどない。
しかも引き取った重傷者の、王都に向けての移送が開始されているけれど、移送のための人手も必要になる。
なので今、この陣には何かあった時すぐに動かせる兵士さんの数は、実質1000人ほどしか残ってない。
「何とか増援の手はずをつけたいですが、現状では厳しいと言わざるをえません……皆さん、常に最悪の事態を覚悟していてください」
「「ハッ!」」
僕も怖いけれど覚悟していなくちゃ。
……再びここに直接襲撃が来る可能性や、セレナが殺されてしまう可能性。
もしもそのどちらか片方でも起こってしまったら、最前線とこの後方陣の両方が一気に崩れてしまう。
なのでセレナ達最前線は隙があるたび、僅かづつでも戦線を後退させていっている。王都との距離を縮め、万一増援が来る可能性を信じて、その到着を早めるためだ。
大きく距離を後退させたいところだけれど、最前線がそれをやってしまうと敵が追撃戦に移って勢いに乗って一気にくる。ただでさえ数で負けてる戦いなんだから、そうなってしまったらもう抑えきれない、おしまいだ。
「しかし殿下……なぜ王都にお戻りにならずにとどまられるのですか? 確かに最前線の裏側に
戦術参謀官のカルカット=メコラウス准佐。少し若いけれど、基本に忠実で正攻法な戦術に明るい参謀官だ。素直すぎるとも言える。
「……僕にはアテがあります。ただ、そのアテが上手くいくかどうかは、現時点でもまだ五分五分で自信はないのですけれども」
「
他の参謀官たちもピンとくるものはないみたい。
当然だ、彼らも王都の貴族達が増援戦力の出し渋りの原因になってることを知ってるし、国境の主力を率いているゴーフル中将が国内での魔物発生を軽視している事も知っている。
しかも僕は王弟―――王室でぬくぬくと育った王子様というだけで手持ちの私兵などはまったくいない。
つまり
「! もしやアイリーン様がご出陣なされるのですか?」
うん、そう考えるよね。
僕が捻出できる戦力といえば、お嫁さんである彼女くらいなものだろうって。確かにアイリーンの武名はこの国一番で、最強だといっても過言じゃない。一人で数千の兵士さんに匹敵すると言われても納得する強さをもってる。だけど今回、アイリーンの力を借りることはできない。
「それはありません。おそらく本人は言われればいつでも飛んできてくれるでしょうけれどもね」
僕が王都を出陣する時も、指をくわえて残念がっていたアイリーン。妊娠が判明した以上、まだお腹も膨らんでないったって戦場に出すわけにはいかない。
何せ現世代の王家、最初の子になるんだ。その意味と重みは段違いで、万が一どころか億が一のことも許されない。
絶対的に安静厳守と、僕やじいや達から口うるさく言われ、兄上様達からも正式に、戦場へ行くはNGとされてしまった。
今は練兵師の仕事すらストップされてる。まだ妊娠の初期も初期だというのに、過保護すぎるのではと思うかもしれないけれど、それだけ今回のアイリーンの懐妊は王室にとっては重大なことなんだ。
「ですが、もし僕の考えが上手くいってくれれば、この戦況を有利に覆せるはずなんです。……一番の問題は、僕達が耐えきれるかどうかです。作戦が上手くいってもタイミングが悪ければ効果がないのと同じです」
「それで2日、と……。殿下の腹案に水を差すようで申し訳ないのですが、もし、もしもこの2日間を耐え抜いたとして、殿下のお考えが実を結ばなかった場合……いかが致すおつもりでしょうか?」
耐え抜くにしても2日間で最前線は限界を迎える。それ以上はもう戦えない。
逆に2日と時間を指定したことで “ 2日間粘ればなんとかなる ” って信じて戦ってくれている兵士さん達は、その希望にすがって最後の最後を振り絞ってくれているはず。
だから2日間は大丈夫。だけど耐え抜いたとしても、僕の思惑通りに事が運ぶかはまた別だ。そして全てを出しきった兵士さん達はどれだけ生き残っていたとしても、全員が戦う力を失うことになる。
そこでもし僕が打っておいた手が
「―――その時は、王都での決戦を覚悟しなくてはいけないかもしれません」
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