第58話 5本の糸から当たりを探します




 ドシャドシャドシャッ!



 持ち出した品の仕分け作業がひと段落して僕達が休憩に入っていた時、目の前に5人の男女が引きたてられてきた。



「ご苦労さまでしたアイリーン、それにマデレーナさん」

「はい、旦那さまっ!」

「殿下、不穏当な輩はこれですべてでございました。少なくともこの周辺におきましては、他に危険な人物の気配はございません。ご安心を」

 二人に別行動をとってもらったのは他でもない、僕の動きを追ってくる怪しい人を捕まえてもらうためだ。




―――今回、エイミーの生家に来たのには3つの目的があった。


 1つ、エイミー自身の過去の辛い思い出へのケア。

 2つ、この地方で拠点として考えている場所の現状を確認する。

 3つ、どこかの誰かさんがそろそろ手を回してくるだろうから、僕達自身をエサにして、その回してきた手を逆に掴んで引きずり出す。


 なのでアイリーンには、マデレーナさんと腕の立つ兵士さん数人を連れて別行動をとってもらい、彼ら5人が僕達を伺っていたのをさらに外側から伺う形で尾行してもらった。


 もちろん相手の人数や動き、狙いなんかは知らないし、気付いてたわけじゃない。もしかしたらそういうの・・・・・が差し向けられてるかもしれない、っていう曖昧な理由からだ。


 けれど僕の読みは完全にハマってたらしい。



「(うーん、見事に釣れたクマー。こんなに上手くいくとちょっと快感だね)」

 この世界には人間同士の戦争の記録はない。魔物の脅威があるから。


 けど、じゃあ権力争いとか利権を巡っての命の取り合いとかもなかったのかと言えば、答えはNO。


 魔物という第三者の脅威が存在していても、欲深い人間は欲深いということ。


「(前世で例えるなら……もし人類を滅ぼそうと宇宙人が攻めてきても、滅ぼされる側の自覚がこれっぽっちもなくって、利益と権力を得ようと打算的な理由で宇宙人側に接触しようとする権力者、って感じかな?)」

 僕がそんな風に思ったのは、これまでは人同士の戦争がなかったといっても、今後もないとは限らないと、何年も前から思っていたから。


 そしてこの地方に来て、一部の貴族の中に他国に自国領を売ろうとしている者がいると聞いた時、確信めいたものが僕の中で固まったんだ。


 きっとそう遠くないうちに、人間同士の戦争が起こる気がする……。




「(まぁそれは今回のとは別件だから、とりあえず今は置いとくとして―――)―――さて、ありきたりな質問ですが、あなた達の雇い主はどこのどなたでしょうか?」

「……」

「……」

「……」

「……」

「……」

 うん、そりゃあ言いませんよね。分かってましたとも。


 僕は改めて彼らを観察した。

 一人目はやや落ち着きのある感じのTHE・大人な男性って雰囲気。この人が5人のリーダー格なんだろう。


 二人目はちょっと粗暴そうな男。さっきの男性とは真逆で、裏社会の下っ端感がすごい。鉄砲玉っていう奴かな?


 三人目は紅一点でちょっとお化粧の厚い女性。スタイルはいいけれど、アイリーンやセレナのような可憐な美人が身近にいる僕に言わせれば、ずっと劣ってる。

 けど一般的な目線から見たなら、多分美人に分類される方でモテるだろう。性格悪そうな感じさえなければ、だけど。


 四人目は無口そうな男性。5人の中で一番プロフェッショナル感が出てる。何があっても口を割らないぞっていうオーラがぷんぷんだ。

 もし暗殺とかそういうのを本当にやるとなったら直接手を下す……下手人っていうのに当てはまるのが、きっとこの人なんだろう。


 五人目は明らかに最高齢なおじいさん。パッと見だとそこらを呑気に散歩してそうな、単なる高齢の一般人っぽく見える。

 けど縛られて地面に伏してるのにとても姿勢がいい。本気を出せば、若者以上に凄くよく動けそうなポテンシャルを秘めてるお爺さん、って感じだ。




「僕としましては “ 領有代行者 ” のザークスさん辺りが黒幕でしたら楽なんですが、違うんでしょうね。この程度・・・・の方々を送り込めば、僕にそう思わせられるだろうというお考えなんでしょうけれど」

「っ……、………」

 一瞬、僕の挑発に下っ端感の強い男性が感情的に反応しかけた。けれど、踏みとどまって何か言いかけたところで口を閉ざした。

 どうやら汚れ仕事に従事してても誇りはあるらしい。カッとなった自分を抑えて無言を貫く。


「貴様ら、殿下の質問に答え―――」

「構いません、フォートルさん。答えたくとも答えられないでしょうからね。どこで本当の飼い主の目があるか分からず、素直に答えてしまったら消されるかもしれない……でしょうし?」

 これは僕の憶測、いわゆるカマかけだ。何か思い当たるフシがあるわけじゃない。


 前世の映画やなんかで、スパイとか裏切り者とかにありがちな王道顛末を想定した上で問いかけてるだけ。


 だけど五人のうち、明確にビクリと身体を震わせた人が二人いた。


「(あのおじいさんと女の人は何か知ってる、と)」

 普通はリーダーのみに話を通しがちだけど、今回の場合はどこかの黒幕さんが彼らを使うにあたって、領有代行者ザークスという小者貴族を挟んでる。

 つまり黒幕さんは万が一彼らが失敗したとしても、自分まで辿られないようにしてる可能性が高い。


 そういう場合、下っ端が捕まった時のことを考えて、一番尋問を強く受けやすい集団のリーダー格には多くを伝えてないか、嘘の情報を与えている確率が上がる。


 なのでまず、本当に何か有益な情報を持っている人を特定してから尋問を行うべきなんだ。

 その方が効率的だし、僕もあんまりヒドイことを余計にはしたくないもん。




「とりあえず、僕への暗殺未遂は本当のことですから、じっくりと時間をかけて色々と教えてもらいましょう。なるべくお早いうちにお口の鍵を開けておいてくださる事を期待致します。……では連れて行ってください」


「ハッ! さぁ立て、お前達!!」

 兵士さん達が連行していく中、僕はフォートル小隊長とマデレーナさんを手招きして近くに寄せた。


「先ほどの僕の言葉への反応から、おそらくより深い事情を知っているのは女性と老人の片方、もしくは両方だと思われます。なので5人は一人ずつ隔離して情報共有ができない状態にしたうえで、この二人を重点的に取り調べてみてください」

「おお! なるほど、そのような狙いがおありでしたか!」

「さすがでございます、殿下」

 今回のことで、一つ分かった事がある。

 それは僕が思っていたよりも彼らのような、この世界での裏社会的な存在は、想定よりも低レベルザルだということ。


 おそらくこの世界の人々からすれば、彼ら5人はやり手なのだろう。


 けれど前世の知識や、創作物で得た情報を持っている僕は、それを頼りに彼らの機微や仕草、ちょっとした変化なんかをつぶさに観察することで、直接言葉を引き出さずとも分かることが多い。


「(あとは教育係じぃやに観察の重要性やポイントを教わっていたのも大きいなー)」



 ともかく、貴重な情報源を獲得したんだ。しっかりと搾り取らなくっちゃ!






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