第48話 結婚は “ 儀式 ” なんです
結婚して最初の朝。
「…スー…、スー…、スー…」
今まで愛ではしてたけど、ついに一線を越える夜を迎えた後。エイミーの寝顔はとても可愛らしくて安堵する。
寝室は、穏やかな朝の空気で包まれていた。
「よいしょっと」
そんな新しいお嫁さんを寝かせたまま、僕は一人ベッドから出る。昨日の睡眠は3時間ほどしか出来てないけど、不思議とよく眠った日の起床と同じ、爽やかなものを感じていた。
「さて、と……それじゃあエイミー、お昼までいい夢を見ていてね」
額に軽くキスをする。するとムニュムニュ寝言を言いながら、僕の可愛い嫁猫エイミーは幸せそうな寝顔を見せてくれた。
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「エイミーちゃんは大丈夫でしたか? 上手く旦那様のお相手はできたんでしょうか??」
朝の食事時。
てっきりアイリーンは
けど完全に杞憂だった。
むしろアイリーンはハラハラしていた。エイミーがちゃんと妻として僕の夜のお相手を務める事ができたのかどうか、とても心配した様子だった。
「(うーん、お嫁さん同士で嫉妬してしまうんじゃないかっていう先入観は、きっと前世での王様や皇帝の後宮系ドロドロ関係な創作物語の影響かなぁ……あとはハーレムっていう、複数の女性を妻にして侍らせる制度への理解不足もあるかも)」
何せ前世は一夫一妻制の社会、しかも基本は自由恋愛が当たり前。
ハーレムというモノは、創作の中の世の男が憧れ夢見る状況……という都合の良い認識や知識しかない。
なのでどうしても、複数の奥さんを持ったら奥さん同士でバチバチと嫉妬やいがみ合いをするっていうイメージを、僕は抱いてしまうんだ。
「(もっと僕のお嫁さん達を信じなくっちゃね、うん)」
何より教育係のじぃやとばぁやがいる。僕が今回、王弟第二夫人を迎えるにあたって、アイリーンには
夫の僕が奥様同士の関係を危惧しすぎるのは、むしろ彼女達にそういう意識を植え付けてしまう事にもなりかねない。
「―――はい、大丈夫でしたよ。礼儀も作法もしっかりとしていましたから」
特に王族の結婚初夜は、単なる夫婦の営みをすればいいというものじゃない。一種の儀礼めいたものを重要視する。
アイリーンの時も、事前にばぁやがかなーり口うるさく何度も作法の手順や口上など、事細かく説明してたのを、遠巻きに見た記憶がある。
実際、エイミーとの初夜は3回戦ほど。普段、アイリーンとしてる回数に比べれば遥かに控え目だ。それには理由がある―――お互いに体力を消耗しすぎたら、今日がすっごくキツいんだ。
「アイリーン、今日はしっかりと食べておきましょう。“ 式 ” の内容はじぃやがこの後説明してくれますから」
「大丈夫です、旦那様。私の時のことを覚えていますから余裕ですよっ」
「いえ、アイリーンは僕の第一夫人として別の役目をしなくてはいけませんので、あの時とは色々と違います。ちゃんと聞いておかないとダメですからね」
そう、王族の結婚は何かと面倒ごとが多い。
ただ結婚式をしました、夫婦になりました、良かったねー、……で終わらない。
翌日にも “ 式 ” がある。それも1つじゃあなく……
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「では
祭礼服に身を包んだ
まず、新婦のエイミーは昼食時まで眠る。
僕とアイリーンは朝食の後、“ 迎告式 ” に出発―――第二夫人をお迎え致しましたと、現王である長兄の兄上様、父上様、母上様を順番に回って、報告の儀を行う。
昼食時にエイミーと合流。一緒に昼食を取るのだけれど、この時は “ 同食式 ” といって、順番に出てくる皿の料理を3人で一緒に食してゆく。
料理は普段のものと違ってお肉の類はなし。伝統的な野菜と果物で作られた、不味くはないけれど美味しくもない微妙なもの。
食後、王国に仕える主要な臣下やお城務めの兵士、侍従が全て集結し、ひしめく謁見の間での “
その後はお城から3人一緒に馬車で移動。王都の中にある、王室ゆかりの歴史的な地を回る “ 追憶式 ” ―――王室に入る者としての自覚を喚起するために、王家の歴史に触れて回る。
この間に父上様や母上様、そして兄上様方やその夫人達などなど……いわゆる親族の人達が、霊廟前の祈祷殿に集合し、待機。
王室の先祖代々の祖霊に、新たな家族が加わった事を報告する “ 祖霊式 ” で御先祖様達の霊と一緒に僕らを迎え入れ、晴れてエイミーは王家の一員として完全に認められる。
そしてこの日の夕食は “ 王家夜会 ” として、祖霊式からそのまま全員がお城にシフトしての、現王家の家族全員による和気あいあいとした
そして最後、この日の夜に僕とアイリーンとエイミーの3人だけで行う “ 忠妻式 ” をもって、ようやく全部おしまい。
……なので結婚式の翌々日の朝は、やっと終わったという疲労と安堵感のせいで、3人そろってベッドの上でぐったりと疲れ切った感じの状態になっていて、お昼前まで誰も目を覚まさなかった。
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