第22話 たくさんの魔物たちの気配です




 僕は今日、すこし考えあって兄上様から任務を受け、王都の外に出むいた。

 場所、王都から街道沿いにある3つ先の町。


「―――こちらが今回の件に関する報告のおまとめとなります、殿下」

「はい、ありがとうございますオーツ三尉。……ひどい被害のようですね」




 ことの始まりは、宰相の兄上様のところまで上がってきた報告書。魔物の群れが出て、町一つが大きな被害をうけた、というもの。


 こういった事件そのものはよく起こるので珍しいことではないのだけれど、問題になったのはその町の位置。

 王都から街道に沿ってたった・・・30kmほど行った先で、魔物の群れが町一つを襲ったという事実。

 これは結構由々しい問題みたい。


「(本で読んだ限りじゃ、魔物の群れは1日で20kmくらい移動することもあるみたいだし……)」

 国境付近じゃなく、国内でそれなりの規模な魔物の群れが、しかも王都に比較的近いところに出現した―――この不思議を調査する任を、もっとも現場に近い砦の守将に命じようという話を聞きつけた僕は、その場で手を挙げた。




「(うーん、ちょっと読みにくい……)」

 王命を携えて僕がセレナの・・・・守る砦にいった時、それはもう彼女は喜んだ。

 僕がこの現地調査の指揮をとり、セレナがその補佐官(僕にかわって事実上の指揮官だけど)に就いて、彼女の配下の兵士さん達200名が僕に従うかたち。


 そして砦から現場の町まで……今もだけれど、僕はずっとセレナにぬいぐるみのように抱かれてる。

 彼女が背もたれ付きの椅子みたいになってるけれど、大きなオッパイが頭や首を挟んできてちょっとだけ書類に目を通しにくかった。




「町の人たち、だいたい3万人のうち1万500人が被害……死者は6000人。お城に上がってきた報告書と同じですが、やっぱり生々しいですね」

 軽く町の様子を伺うと、大勢の町の人たちが死者の弔いに四苦八苦していた。悲しんでいる暇もないくらいに作業量が多いらしくて町について早々に、調査の人員を除いた、セレナの兵士さん達のほとんどが手伝いにはいった。


「国境付近の町や村でさえ、最近は死者100人以下に抑えつつあります。なので今回の魔物襲撃は、殿下でんかおんみずからお出向きになられるのも無理からぬ大事件と言えますね……」

 オーツ三尉の言葉で、僕はなるほどと納得する。

 今回、兄上様がずいぶん簡単に僕の調査陣頭指揮をするのを受け入れてくれたのは、そういう事なんだ。


 由々しき一大事―――王弟の僕が現場に向かえば、それだけ王様がこの件を重要視していると皆が思うし、国民も王様は魔物の脅威をしかと理解して対策を考えてくれていると感じるに違いない。


 兄上様が王位についてから、まだ5年も経ってない。たとえポーズに終わってしまったとしても、こういうことは大事なんだ。


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「(さて、それは兄上様の事情。僕は僕でやることやらなくっちゃ)」

 今回、アイリーンはいない。ついてきたがったけれど(礼儀作法の修行の進捗を人質に)留守番させた。

 セレナと仲良くできるか見るのもアリだと思ったけど、まだ早いと思う。出自の完璧な彼女に対して、アイリーンが引け目を感じてしまうかもしれないから。



「(まずセレナが僕のハーレムに加わることを確定させてからでないと。そのために……)」

 セレナに手柄を立てさせる。これが今回の僕の狙いだ。


 肩書きや階級だけじゃなくって、現場でキチンと実績ある将官位の人材は王国にとては貴重。

 しかも今回のようなことがこれからも起こる可能性があるなら、最前線だけじゃなく国内深いところ……王都や、もっと言えばお城により近い・・・・ところにもそういった人がいて欲しいと、みんなが思うようになっていくはず。




「ねえセレナ。……コレ、どう思うかな?」

 そして僕は、町を囲う柵のすぐ外で目的のものを見つけ、相変わらず僕にくっついたままのセレナに問いかけた。

 コレがあるかどうかは半分賭けだったけれど、事前に推測したとおりだ。


「足跡……でございますか。襲撃してきた魔物の―――、……っ!」

 案の定、セレナはすぐに気づいてくれた。この足跡の意味を。


「(やっぱり本は読んでおくべきだね、うん)」

 魔物についての知識を深めた僕は、今回の事件の報告書を兄上様のところで見聞きした時から、あることにピンときていた。





―――魔物がそれなりの規模を組んだ時の行動パターン。


 その一つに、襲うところにあらかじめ偵察を送っているケース・・・・・・・・・・・では、襲撃には半数・・で行い、もう半数は “ アジト ” に温存している、というものがある。


 当然、王都防衛の砦の守将であるセレナはその任務上、魔物の脅威をよく知り、このことも知っているはずだ。



「……殿下、すぐにも増援要請を行います。魔物はまだこの町を大々的に襲撃できる距離にいる可能性がございますので、殿下はすぐにお城へとお戻りください。……オーツ三尉!!」

 事の重大さに気付いたセレナ。さすがに将軍としての顔になり、僕を手放して側近を呼ぶ。


「准将閣下、お呼びでしょうか?」

「今すぐ兵100を指揮し、殿下を護衛しながら王都へと戻れ。そして砦より兵300の出撃を手配して引き連れ戻ってこい。私はこのまま町に留まり、残りの兵を指揮しつつ、事に当たる」

「ですが閣下、本来の任地より長く時間をかけて離れられるのは―――」


「でしたら砦の留守は、僕があずかります。元々僕がこの件の責任者ですから、セレナを僕の名代に指名しますので、この地で事に当たっていただきましょう。それで問題はないですね?」

 あとはセレナが魔物の “ アジト ” を突き止めて、全部やっつけてしまえば僕の想定通りに彼女の大きな手柄になる。


 しかも王様が気にかけた、王都も危険にさらされるような範囲での事件解決。その功績はたんなる魔物討伐とくらべてもかなり大きいはずだ。



「(正直、偵察の足跡が見つからなかったら別のパターンだったから、上手くいかない可能性もあったけれど、想定どおりでよかった)」

 しかも僕が想定していなかった、砦の留守を預かるという恩恵もあった。


 これも僕自身のちょっとした功になるし、何よりセレナの代役なので砦の兵士さん達と交流がしやすい。


「(前のときはセレナ以外にあまり踏み込んだ交流はできなかったけど、今度はもう少し人心掌握につとめられる)」

 お嫁さんだけでなく、なるべく味方はたくさん欲しい。僕としては理想的な展開だ。



 オーツ三尉と共に、僕は意気揚々とセレナの砦に戻った。


 


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