第15話 男になったので特訓頑張ります
カンッ、カン、カンッ!
「えい、やっ、えいっ!」
この日、僕は剣の打ち込み稽古をしていた。木で出来た的に向かって、やっぱり木製の剣を打ち込む練習。
「ああ、大丈夫でしょうか?」
「ハラハラいたしますわ。あぁ殿下、も、もう今日はそのくらいで…」
「お、お怪我をなさってはいけませんよ、そんなにお強く振り回さずともよろしいのでは?」
王族の傍仕えが許される中級位のメイドさん達。数年前だと彼女らの制止が強くて、僕の剣の稽古はものの十数分で中断されていた。
けれどアイリーンと初めて夫婦の営みをしてから、僕はそんな彼女らの制止を逆に強く振り切って剣の稽古をそれなりの時間続けていた。
「(僕の精神が、大人に大きく近づいてる感覚……そのおかげかな?)」
年齢が二桁に達してからというもの、周囲の者に対してただ愛想を振りまくだけじゃなくしっかりと自分の意志を通せる自信がついた。思考もどんどん成熟してくるのが自分でもよく分かる。
「(なんだか、前世の自分を追いかけてるみたいだ)」
肉体の成長や年齢ではなく、精神面や感覚の話。物心ついてから10歳まではまだどこか夢見心地でフワリとしていたものが、知識や経験が伴うにつれてしっかりハッキリしてきた実感。
それはそれで問題もある。ショタが売りの僕だけど、だんだんと意識してショタっ子な仕草や愛らしさを周囲に振りまく機会が増えてきた。
「(背は伸びる気配ないし、見た目もまだ大人びてきてないのに…。……ヘンな失敗しないかちょっとコワいかも)」
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ひとしきり打ち込み稽古を終えて座る。途端にメイドさん達があくせく後始末や汗を拭ったりしてくれてる中、僕は少し困っていた。
「(うーん、なんか違うんだよね。剣……じゃない気がする)」
僕が稽古時間を伸ばしたのも、アイリーンが妊娠して妃位についた時の事を本格的に考えはじめたからだ。
かいくぐってきた敵と戦わなくちゃいけないのは、最後の最後は自分になる。
なので武芸は何かしら身につけておかなくちゃいけないから、嗜み程度だった剣の稽古の時間を増やして力を入れてみようと思ったのだけど……
「(アイリーンじゃなくっても、親衛隊とか精鋭の兵士さんを通り抜けられて迫ってくる相手に、ちょっとやそっとの腕前じゃ対処なんてできっこないよね)」
剣が万能で汎用性の高い武器なのは間違いない。でもそれは接近戦に限った話。
王弟である僕の場合、戦場に赴いたとしても何重にも防御される中で指揮したり、あるいは鎮座させられたりするはず。
そんな防衛網をかいくぐってきた敵の強襲にとっさに対応出来る――――そんな腕前を身に着けるには、たぶんもっと厳しい特訓をしないと無理。
それこそ王弟という肩書を捨ててしまわなくちゃ得られないほど、剣一筋にのめり込む時間が必要になるはず。
自由な時間が取りづらい王侯貴族という地位。こういう時は考え物だ。
「(槍の方がいいかも。武器としては剣よりも防御に向いて……魔法がもっと使えるものだったら良かったのに)」
この世界の魔法は、残念ながらゲームみたいに即座に撃てる便利なものは存在してない。
どちらかというと魔術の儀式的な方に寄ったモノで、例えば炎のそれなりの攻撃能力ある魔法を撃つ場合だと―――
・必要な道具や様式を整える
・長い呪文を詠唱する
・決まった順序で複数のハンドサインを行いながら魔力を集中するよう意識。
・また長い呪文を詠唱する
・両手を握って、一点に集中
・さらに長い呪文を詠唱
・ようやく握った両手を解いて前に突き出す
・また呪文を詠唱
・最後に発動のキーワードを唱えると、突き出した両手から炎の塊が飛び出す
―――という、とんでもなく面倒で難しい手順で行われてようやくらしい。
それで得られる攻撃性はというと、着弾時に爆発を起こすよう少量の炸薬を仕込んだ2~3本の火矢くらいだとか。
初めてそれを王宮の魔術師長から聞かされた時、前世でゲームなどの創作物の知識がある僕としては思わず頭を抱えたくなった。
ちなみにどんなに早さ重視で手順を短縮したとしても、その連射間隔は僕が見た限りじゃ、4~5人で砲弾を込める火薬式の大砲を3射する間に1発撃つくらいだと感じた。
もちろんこの世界にはまだ大砲とかないし僕自身、前世で大砲を撃ってるとこなんて見た事ないけど、何となくながらそういうイメージを抱くほどに遅かった。
「(あれだと待ち伏せの罠とか、拠点防衛とかそういう使い方しか……真正面からの戦いには向かないし)」
そうは言っても僕は、頻繁に魔術師長のところに通って魔法について教わっている。その道の達者になるためじゃなく、敵が上手く使ってきた時に対処するために知識はいくらでも必要だから。
「(うーん、それでもやっぱり僕も使ってみたいなぁ。実戦向きじゃなくっても魔法はやっぱり憧れだもんね)」
才能もないと思う。けれど簡単なものでいいから自分で使えるようになって感動してみたい。
前世の記憶があるから、魔法・魔術には余計に憧れやロマンを感じるのかもしれない。
そんなことを考えながら、僕はメイドさんの差し出したジュースを一息に飲み干した。
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