第43話 王弟夫婦《ぼくたち》の閨です
「まったく、これくらい熱心に仕事の方にも取り組んでくれていたらいいんだけどね」
兄上様の執務机の上には、見上げるほど積まれた書類のタワーが何本もあった。コレが全部、1枚に1人の女性プロフィールが記されてるだけの書類。紙の無駄遣いもいいとこだ。
「父上の離宮が完成したことで、王の世代交代が現実味をもったのだ……いわば、潮目の変わり時。兄上にまだ一人の女性の影もないことは前々から知れ渡っていることだが、愚鈍な連中を中心に近頃は輪をかけて過熱している。自分が何者を王に推しているかも理解していないのだからな」
宰相の兄上様がタワーから1枚とって僕にも見せてくれた。
書かれていたのは貴族だけど身分があまり高くない60代女性。普通に考えれば王様にあてがおうとするには不適格だ。
男女の恋愛に年齢や身分は関係ないというのは僕も賛成したいところだけど、王族の場合、そういう綺麗ごとは通じない。
身分差はまだしも、相手の女性は最低でも30代前半くらいの若さがなくちゃいけない。
「(お妃になる人の最大の仕事は王様の子供を産むことだしね。相手女性が若いことは必須条件なのに……)」
貴族達がそういった事を知らないわけがない。
なのにこういう、王の嫁になる者としては不適格な女性を推してくる理由はただ一つ。己の権力向上のために、何かの間違いで選ばれてくれればという数打ちゃ当たるの一環で出してきただけに過ぎない。
きっとあのタワーの中にはまさしく有象無象、同じ推薦者によるプロフィール書類が何十枚と混ざっているに違いない。
「王室のことをまるで考えていない愚か者が、こうしたところからも見えてくる。良く覚えておきなさい、弟よ」
宰相の兄上様の言葉に、僕は書類を返しながら力強く頷き返した。
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その日の夜のベッドの上。
「……というお話があったんですよ」
「
最近、アイリーンも色々と覚えてきたおかげで、こうして会話もこなしながら次に向けての準備ご奉仕もできる、ますますいいお嫁さんになってきた。
「(8歳でお嫁さんを貰うなんて早すぎるかなって当時は思ってものだけど、兄上様の苦労を見てるとむしろ大正解だったのかもしれない)」
まさに英断だったわけだ。
結婚相手を選んだ理由は守ってもらえる力のある人を一番身近に置くためだったけれど、こうして時間が経過してくるほどに王侯貴族の結婚事情の大変さが分かってくる。
結婚が人生のゴールだなんて誇大広告もいいとこな妄言だけれど、この世界では結婚してしまっていれば精神的に一種の安心安泰があると、僕は実感した。
「(前世なら結婚してからが色々大変ってイメージだったけれど、まさか結婚しない方が苦労する例を身近に見ることになるなんて)」
思わず苦笑してしまった。ところや事情が変われば価値観や常識は180度反転するものなんだなぁとしみじみ
「? 何かおかしかったですか旦那さま??」
「いえ、紙の塔に四苦八苦している兄上様のご様子を思い出してしまっただけです。アイリーンはとてもお上手ですよ、何も間違っていません」
僕への奉仕を褒められて、えへへとはにかむ彼女の笑顔が淡い明かりに照らされてるのもあって、とても色っぽく可愛い。
正直、兄上様にも早くこういう
ほとんどコレといった執務のない僕でさえこの時間はとても安らげるんだ、きっと兄上様の普段の気苦労も大きく和らぐはずなのに。
「(迷惑な大臣や貴族がいなかったら、もっと普通に兄上様も結婚することができたのに……ホントにもう、彼らにはプンプンものだよ)」
結婚が政治や利権に絡んでしまう身分というのも考えものだ。
人生のすべてにおいて、周囲の人間の思惑を見透かした上で判断や選択、決断なんかをしなくちゃいけない。
王様。それは国で一番偉い人。だけど一番自由がきかない人でもあるんだ。
「(……ま、一番強い権力を持ってる人が、本当に欲望のまま好き勝手すると国が傾いちゃうわけだけども)」
本当の意味で自由に恋愛できるのはとても素晴らしいことだけれど、そういう状況や環境は整えにくく、とっても得難いもの。
本人の性格とか、世の中の気風とか雰囲気とか、何ならノリとかも関わってくるから個人の努力じゃなかなか実現しない社会の在り方―――まさに理想郷かもしれない。
「(でも、もし実現したらしたで恋愛格差が起こるから、社会全体でみたら不安定になりやすいわけだけども……この辺は、前世を経験してる僕しか分からないデメリットだろうなー)」
この世界でも基本は自由恋愛が通る。けれど前世ほど個人の自由にできるわけじゃない。
確実に子宝を得るために、町や村ぐるみでお見合いとか若者同士をくっつけさせる動きがあったりして、成婚圧力とでも言うべきものがあるっぽい。
「(その点、僕は自分で選べたのは本当に幸せなことだよね)」
そこまで考えて僕は首を横に軽くふった。今夜、難しいことを考えるのはこれでおしまい。
「それじゃあアイリーン。そろそろ今晩2回目……子作りを頑張りましょう」
「! は、はいっ、よろしくお願いします、旦那さまっ」
僕との夫婦の営みを喜悦に満ちた表情で受け入れてくれる
夫としての務めを精一杯果たして、彼女をいっぱい可愛がる。
今は色々なことを忘れてそのことだけに集中だ。
そして、寝室が僕たちの熱い愛で満たされても、この夜はもっとずっと熱く深まっていった。
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