第38話 地上

「やっと、外に──え?」


 牢獄から出て初めに見たものは、暗雲に包まれた空。


 周囲は墓地。


 高い壁に囲まれた敷地。


 遠くに見えるのは王城。


 星はなく、今が朝なのか夜なのかも分からない。


「はは……中も外もそれほど変わらないな。まだ牢獄の中なのではないのか?」


 獣は皮肉のような空模様に笑う。


「終末になって、二百年も経てば、朝も夜も分からなくなってもおかしくあるまい?」


「ここは……ていこく……か?」


「間違いありません……!ここは帝国の首都、わたしが処刑されるまでいた修道院です!」


 どこにでるか分からなかったけど、これならすぐにでもアリアを……。


「どこか隠れられる場所はないかの?このままでは、我らはちと……目立ち過ぎるでの」


「……剣の鍛錬の為に使っていた隠し通路が近くにあるはずです、行きましょう」


 心臓が早鐘を打つ。


 私はやっとここに戻ってきたんだ……!



◆◆◆◆◆◆◆◆



 墓場の奥から隠し通路を進むと、それほど広くない武器庫についた。


 ここからさらに進めば、私の部屋……ほとんど幽閉のような生活を送っていた部屋に着く。

 

「帝国の修道院に、武器庫があるとはな」


 獣は並んだ甲冑や武器を眺めて、意外そうに言う。


「……戦いを是とする教義ですから」


 略奪と戦いを心の中で否定しつつも、結局は趣味は剣だし、性格も温厚な方ではない。私も同じ穴の狢なのだろう。


 そして、これからやろうとしていることも。


「ここのぶぐは、たべてもいいものか?」


 毛玉が肩から飛び降りて鎧の材質を確かめるように、つつく。


「多分、汗とか沁みてて、美味しくないですよ」


「しおあじは、だいじだ。まずくても」


 ……美味しいものって食べ物だけじゃないんだ……この感性は分からないな……


「……まあ、一つや二つ盗んだところで罪の多寡は知れているでしょう、一国を滅ぼすのですから」


「おお、いいぞ同盟者よ!ではこの武器庫のものは全て余が回収してやろう!」


 蜘蛛糸の網を広げ、ごそっと鎧やら槍やらを纏めて背負うアトラ。


「また、がらくたを。こじまに、ひきとったものも、ろくでもないものばかりだったろう」


「勝手に持っていった貴様にとやかく言われる筋合いはないぞー」


 小島のにあったガラクタの山って……いや、彼女にとっては大事なものなんだろう。


「……そんなにいらないと思いますよ、邪魔ですし」


「そうか……?これはお前にとって《価値はないのか?》」


「まあ、あんまり」


「ならば、いらぬ。だいたい、余に似合う武具など無いしな!」


 アトラは網ごと放り投げた。


 確かに獣達の体に合うような鎧なんて専用に作らなければ……そうだ。


「ツァト様、土の権能で鎧や兜を作る事は出来ますか?」


「おもうように、やってみるといい、そうぞうが、まじゅつをつくる」


「はい!《鋼よ、我の望む形質を成せ!》」


 剣の呪印が輝く、切っ先に宿った光が武具達を溶かし、液体へ変える。


「《我らに鎧と兜を》」


「獣となってからついぞ被ることはなかったな」


 獣には狼の顔に合う全身鎧を。


 一応、外に出ても獣とバレないように。


「……余は何を着ても似合うがの!」


 アトラには鎖帷子を。あまり重い物は動きを阻害しそうだから。


 下半身の蜘蛛はどうあがいても、隠せそうにないし。


「われには……兜か」


 毛玉には兜を。殆ど帽子のようなものだけど。……見るたびに大きさが変わってしまう彼に鎧は無理そうだし。


「……よし」


 私にはなるべく軽くした鎧と、顔を隠す程度の兜。魔力を集中させないと重くて動けないし。


 もし、アリアが私の部屋を使っているのなら、最短でこの先で遭遇する。


──確かめなければ、貴女が一体何者なのかを。

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