青年の証言1

次の日、池照と岩井は青葉高校に来ていた。


学校に交渉して野球部の顧問と会う事ができたのだが、人目を避けるように裏口から入らされ、生徒に見られない様に細心の注意を促されて今、応接室に通されて粗茶を出されている。


お世辞にも歓迎ムードとは言えない様だ。



「この子なんですけど居ませんか?」


池照は防犯カメラの映像から抜き取った映りの良くない写真を野球部の顧問の古林先生に見せた。


「ん?あ、あー。もしかすると…。」


「居るんですか?」


「そうですね、断言はできませんけどね…中川に…似てるような気が…。」


しきりに首をひねりながら古林先生はそういった。


「あの、もし中川だとして…何があったんですか?なにかやらかしたんですか?」


「いえ、そういうわけではありません。あくまでも、ある事件の目撃証言を集めてるだけですので…。」


池照は加害者である可能性がある事を隠した。


そのほうが、先生は協力的になってくれるし、今のところ本当に只の目撃証言者かもしれないのだから。


「はぁ…。それなら良いんですが…公式試合も近いので生徒に要らぬ動揺が走ると困りますのでね…。」


古林先生は刑事を相手に汗を手拭いで拭きながら、やんわりと釘を指した。


「もちろん大事おおごとにするつもりはありませんよ、協力していただけるんでしたら。」


池照はもちろんそんな事では折れない。


「も、もちろん協力しますよ。ただ、あんまり校舎の中を刑事さん方が出入りされるのも他の生徒に影響ありますし…。」


すこし重たい空気が流れたところで岩井が口を挟んだ。


「せや、その中川くんやったっけ?早めに上がらせてもらえまへんか?そしたら後はうちらが勝手に交渉しますわ…校舎の外で。」


そういってニッと笑った。


しばらくの沈黙の後、古林は言った。


「いいでしょう。」


そんな要求飲むわけないだろうと思っていた池照はった。


「え?いいんですか?」


「正直、気が進みませんけど、周りに対する影響を考えたら背に腹は変えられませんからね…。」


そういって野球部顧問は苦笑いした。


池照は中川くんが野球部にとって背なのか腹なのかわかりかねたが…心の中で合掌した。





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