Loop2 5/20(金) 13:14【敵】
その日は雨だった。明日には止んでしまう、なんてこと無い雨。ただそれだけしか特徴の無い普通の一日のはずだった。はずだったのに——
2022年 5/20 (金) 13:14『日立山区民図書館 裏』
「待たせたわね、ジュンペイ」
ウラサカは味気ないビニール傘を持って現れた。初めて見るオモテザカの私服。それもこんな状況じゃ喜ぶことも出来ない。
「昨日は寝れた?」
「……寝られるわけないだろ」
「そうね、もう一人の私も寝れてなかったわ」
昨日の晩、瀬戸ノ夢高校のオカルト研究部員六人が部室で変死して発見された。もちろんサダコ先輩もその中に含まれている。昨日の怪獣騒ぎもあってか警察の記者会見もまだ開かれていないし、メディアも怪獣の事ばかりであまり積極的に報道していなかった。
「……ウラサカはどう思う?」
「……どうって?」
「今回の事件、昨日の怪獣と関係あるのかな……?」
ウラサカは深く息を吐いた。深く、深く。そして肺の空気を全部入れ換えた後こう言った。
「敵が現れた。怪獣以外の敵が」
その言葉に、ジュンペイはうなだれる。
「……根拠は?」
当然の疑問だ。まだ被害者の死因も発表されていない。事故か事件かも分からない状況。それなのに、ウラサカは他殺と断定したのだ。
「さっき時間を止めて、警察の資料を見に行ったのだけど——」
「なにやってんだよ……」
「彼女らの死因。それが不明だった」
ウラサカははっきりとそう言った。
「……それが?」
「冷静に考えてみなさい。人が死んだらその原因というものが存在する。首を絞められたら窒息死、刺されたら出血性ショック。何事にも、そこには因果関係があるの」
なのに、彼女らの死因は分からない。ウラサカはそう続けた。
「日本の警察は馬鹿じゃない。死んですぐの遺体、その死因なんかすぐに見つけてしまう。なのに分からないの、死因不明なんか白骨死体にしか使われない言葉なのに」
そしてウラサカは一つの結論を示した。
「彼女達はは人類が知らない未知の方法で殺された。それしか考えられないわ」
ジュンペイの背中に悪寒が走る。
「け、警察が隠してるとかは……?」
「何を何で隠すのよ? 死因なんて隠したところで大した意味はないでしょ?」
そもそも私が見たのは警察内部の資料だし。その言葉に、ジュンペイは返す言葉もなかった。
「この世界を滅ぼそうとする敵が近くにいる。そいつは、多分私を殺そうと……」
ウラサカの言葉が雨に吸い込まれた。まるでノイズのように、雨が視界を聴覚を濁らせる。
「何でだよ……世界を滅ぼしたって、いいこと無いじゃないか……」
そいつが怪獣を出現させているのか? それともそいつが怪獣に操られているのか? それは分からない、分かる必要もない。ウラサカはそう静かに告げた。
「オカケンの事、気にする必要はない……って言っても貴方は引きずるわよね。彼女達の一時の死を無駄にしないためにも、今後の行動に注意しなさい」
「……うん」
「それと——」
ウラサカはジュンペイに肩を寄せ、そっと左手を握る。
「次の黙示録、絶対に私から離れないで。私の知らない何かが始まっている。是が非でも私を守りなさい。いいわね?」
ジュンペイの返事はない。
「自惚れないで。確かに貴方は巨大な力を得た。けどそれがどれだけ強大でも結局は個人の力、限界なんてたかが知れてる」
うつ向くジュンペイの胸に衝撃が走った。視線を向けると、ウラサカのサムズアップが胸に叩きつけられている。
「貴方の好きなヒーローは、いつも一人で戦ってたの?」
ジュンペイは静かに首を振った。
「ま、そういうこと。まずは仲間集め、今は我慢しなさい。いつかぎたぎたに反撃してやろうじゃないの」
そう言って、ウラサカはジュンペイの手を引いた。
「あの……何処へ?」
「ランチ。お昼ごはんまだなのよ」
「僕もう食べたけど……」
「男の子でしょ? おかわりぐらい楽なものよね」
「えぇ……」
——ウラサカと出会ってどれくらい経っていたのだろう? 僕は五日ともう少し、彼女の方は計り知れない時間。僕は彼女をよく知らず、彼女は僕をよく知っている。不思議な関係、けどその中でこれだけは言えた。彼女は悪いやつではない、それが今のところの結論だ。
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