Loop1 5/18(水) 12:44【表坂夏鈴:2】
2022年 5/18 (水) 12:44『瀬戸ノ夢学園 教室』
ジュンペイはオカルトが嫌いだった。特に深い理由はない。ただそこに納得できる根拠を求めるタイプの人間なのだ。
例えば幽霊、あれは全く信じていない。逆に宇宙人はいると確信している。何が違うとかと問われれば、科学雑誌に書いていたと反論するのが限界だった。異世界は無い、パラレルワールドは有る。占いはNo、風水はYes。
その信念が今根幹から揺らいでいた。ジュンペイの身に、全く根拠のない超現象が起こっていたからだ。
「お、ジュンペイ死んでるな? どうした、失恋でもしたか?」
昼休み。ミゾグチの問いに、ジュンペイは机に突っ伏したまま答えた。
「ミゾグチ君……未来が見えるって言ったら笑うよね……?」
ジュンペイの言葉にミゾグチはプフっと口から息を漏らす。
「ほら笑った」
「いや誰だって笑うだろそれ!?」
その台詞も分かっていた。そして次に来る言葉も。
「どうせお前——」
「マスクドオンの見すぎって言うんだろ? 知ってるよ」
月曜日、思えばそれはあの日から始まっていた。テストで満点をとったのも、ミゾグチ君にゲームで勝てたのも、すべて何が起きるのか予感していたからだ。火曜日、それが疑問に変わり、今日それが確信に変わった。
既視感。ジュンペイはその感覚に苛まれていた。
同日 15:39『瀬戸ノ夢学園 教室』
既視感、英語で言えばデジャヴ。初めて見る事なのに、すでにどこかで見たことがある。そんな不思議な感覚を指す言葉だ。
ジュンペイの場合、それがかなり深刻だった。一言一句、見たものがどうなるか、それが直前になると感で予測できた。もはや一種の予知と言っていいだろう。ジュンペイは授業の内容やこれから起こるニュース、そして気にくわない占いの内容が何回も見たことがある気がして止まなかった。
「うっし、とりあえず株やろーぜ株」
だから放課後、そんなミゾグチの第一声も、来ると予見できた。
「そんな便利なものじゃないよ。なんとなく分かるだけだし」
「それ十分すごいからな」
そうなのかな? ジュンペイの疑問にミゾグチはそうだともと相づちを打つ。
「いや、俺だっていろいろ考えたんだぜ? 一番手っ取り早いのは競馬だけど、お前真面目だからやらないだろうから。いや俺もやったことないけど」
「何度も言うけどそこまで便利じゃないからね。直前になるとそれがなんとなく見たことある気がするだけ」
「じゃあ逆に見えないものとかあるのか?」
その質問にジュンペイはジュンペイは言葉を濁す。
「まあ、あるにはあるけど……」
「なんだ、言ってみろよ?」
一人だけ既視感が起こらない人間がこのクラスに存在していた。何度も顔を合わせているのに、その子の行動だけは既視感も予測も出来ない。ジュンペイはその事に不思議ながら安心感も覚えていた。
「実は——」
「あんたなんかに用は無いって言ってるでしょ!!」
その時クラスに怒号が響いた。ジュンペイとミゾグチが驚き、反射的に振り向く。その視線の先には、見たこともない鬼気迫る表情を友人に向けるオモテザカが立ち上がっていた。
「か、カリンちゃん……?」
「みんな死ぬのよ週末に! その時は全員等しく燃えかすのゴミ、そのゴミがあたしの邪魔しないで!」
おい、オモテザカどうしたんだ? ミゾグチがジュンペイの耳元で呟く。もはや誰がどう見ても気が狂ったとしか見えない。まさしくアナーキー、クラスの全員が言葉を失っていた。
だがその時初めてジュンペイにデジャヴが走る。表坂夏鈴。この三日間、唯一既視感が見えなかったのが彼女の行動だった。だがジュンペイは今の彼女を知っている気がして止まない。豹変し、狂ったように錯乱する彼女の姿を。
やがてオモテザカはひたすら罵詈雑言を撒き散らした後、鞄も持たずに教室を出ていった。声を掛けるものはいない。見開かれた彼女の瞳は狂気に囚われてる、少なくともクラスの全員はそう感じていた。
その時、オモテザカが何かを呟くのをジュンペイは知っていた。既視感だ。その時の既視感を見たとき、ジュンペイはまるでトラウマを思い出したような感覚に襲われた。冷や汗が吹き出し、心臓が一気に心拍数を上げる。それでいて尚、その既視感は収まらない。ジュンペイの脳内に、何度もその光景がリピートされる。
ジュンペイは彼女が全く同じように錯乱するのをその隣で見ていた。逃げるように教室を出る彼女を止めようとした。そして彼女の呟きも確かに聞いていた。そんな根も葉もない光景が確かにあったと確信できる。
「超人は、まだ現れない——」
彼女が最後に唱えた呟きが、ジュンペイの脳にこびりついて離れなかった。
2022年 5/19 (木)
その日を境に、表坂夏鈴は行方不明になった——
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