Loop1 5/16(月) 17:24【溝口伸也】

 時は2022年。オリンピックのバブルは弾け、人口も真っ逆さまに下降していく日本衰退期。そんな世の中で着々と人口を伸ばし、経済成長を遂げる稀有な街が瀬戸内海沿いにあった。


 人々はその街を学生の街と呼んだ。その街の役所は少子高齢化対策と今でいう地方創世の政策として、三十年ほど前から様々な私学の誘致に力を入れ始めた。見事にスタートダッシュに成功したその街には、淡路島を四つに割ったほどの小さな市内に約14000人の学生たちがひしめき合っている。些細なことだが街は急激な人口増加に開発が追い付かず、レトロな床屋や喫茶店、立ち飲み屋が、カジュアルファッションチェーン店の向かいに佇んでいるのが当たり前の光景だった。


 その街の名前は朝霧市。今と昔、大人と子供、思い出と夢が入り混じる、夕焼けが綺麗な街だ。



 2022年 5/16 (月) 17:24『ゲームセンターHAIZARA』


 友達と遊んで面白くないゲームは無い、これがミゾグチの格言だった。たとえそれが正真正銘のクソゲーだとしても、友達と一緒にプレイするだけで笑いのタネとなる。結果的にはどんなゲームも、結果は笑顔と変わらない。ならどうやってゲームを選ぶか? 結論は一つ、コストパフォーマンスだ。それがミゾグチ達が近くにある最新型のゲームセンターを無視して、ここ老舗ゲームセンターHAIZARAに通う理由だった。


 ワンプレイ五十円、これは学生にとって最強の言葉だろう。普通にゲームセンターで遊ぶのと比べて二分の一、家庭用ゲームソフトを買うのとも比べても160回以上遊べる計算になる。結局なにを遊んでも楽しいには変わりはない。なら少々タバコ臭い店内で古臭いレトロゲームもするのも一興だ。


『K.O!』


 そういう訳で、人がまばらな店内で古い格闘ゲームの筐体を独占する若者が二人。


『Your Loss!』

「くっそ勝てねぇ!」


 誰が呼んだか五十円部。部長の溝口伸也と半分幽霊部員の札森純平だった。


「あー止め止め、今日調子悪いわー」

「まあまあ、そう拗ねないでよミゾグチ君」

「いやお前が原因だろ……」


 正直に言うとジュンペイはゲームが特別得意ではない、ミゾグチに基本操作を教えられるまで基本操作もおぼつかなかった程だ。当然勝率は乏しくなく、ジュンペイはミゾグチに敗北に敗北を重ねていた。


 だが今日は違う。ここまでジュンペイが七連勝、その事実はミゾグチの心を木端微塵にへし折った。


「たまたまだから気を取り直してよ、もう」


 自分としても疑問だった。今日はなぜかミゾグチの動きが手に取るように予測できたのだ。何か心に引っかかる。不思議な、言葉にできない違和感。


「正直ミゾグチ君にボコボコにされている時の方が、不思議と楽しかったよ」

「お前なー、そんなこと言うんだったらちゃんと負けて――」


 両替をするために立ち上がったミゾグチ、だがその足が不意に止まった。それを疑問にに思い、ジュンペイも釣られて立ち上がる。その答えは一目で分かった。


「あれ、オモテザカさん?」


 ジュンペイたちがいるゲームセンターの向かい。ここHAIZARAに負けないぐらい薄汚れた建物の一階に、クラスのマドンナ表坂夏鈴が吸い込まれるように入っていったのが見えたのだ。


「……あそこって何があったっけ?」

「えーっと……確かリサイクルショップじゃなかったか? いや知らないけど」

 

 一瞬、他人の空似も考える。いやそれは無いだろう。グレイッシュカラーのふわふわロングヘアなんてオモテザカさんしか見たことが無い。そもそもその子が着ている灰色のセーラー服は、彼ら夢高の制服だ。


「クラス一番のキューティクルガールが怪しいリサイクルショップに出入り……これはもしかして――!」

「ミゾグチ君、発想が気持ち悪いよ」

「うるせえ、さっさと行くぞ!」

 

 そういうジュンペイも、自分の鼻の下が伸びかかっているのに気づいていなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る