020211【始まり】

 貰ったメモには確かにこの場所に彼は居るはずだと書かれていた。

「お嬢ちゃん、ここは君のような子が来るところではないよ」

 そう声をかけてきたのは、身なりの良い細身の男性であった。

「あちらに私の馬車を待たせてあるから一緒に乗せてあげよう。付いてきなさい」

 彼は私の腕を掴み、颯爽と歩き始めようとした。

「待ってください、私はある人を探してここに来ているのです。見つけずには帰れません」

 私はその場から動こうとしなかった。

「ならば、兎に角まずは私の馬車に乗るのが良いだろう。それから私が代わりに探してあげよう」

 再度、私の腕を掴んだ。

「いえ、お気遣いありがとうございます。しかし、これら私の問題なのでご遠慮します。どうしても彼を見つけて力を借りたいのです」

 掴まれた腕を振り払った。

「そう言わずに、さあ」

 今度は力強く、痛いほどに腕を掴まれた。振りほどく事は難しそうだった。

「五月蝿いと思えば、こんな所で仕事かな? こども攫いは儲かると聞くが、調子は些か良いと見える」

 反対側の路地奥の暗闇から心の底に響くような低い声がした。

「あ、あなたには関係ないはずでしょう。それに他人の仕事には干渉しないのがルールのはずだ」

 狼狽えた男は掴む腕の力を一層強めた。

「ルールに守られたいならここに来るべきではなかったな」

 すると徐々に暗闇が伸びて来て、直ぐに私たちを飲み込んでしまった。咄嗟に目を閉じてしまったので、何が起きたのか分からなかった。

「もう目を開けても良いぞ」

 言われるがまま開けると、横にいた男性はいつのまにか居なくなっていた。

「不味い」

 彼はそう呟き、続けた。

「それで? 私を探してきたのだろう? どんな要件かな」

 私は震える声で伝える。

「力を貸して頂けませんか。どうしてもあなたの力が必要なのです」

 暗闇からは何の返答もなかった。

「勿論、無償とは言いません、この身を捧げます。ご覧の通り純血なので、希少でまだ汚れてもおりません」

 数秒の沈黙の後声がした。

「話だけは聞こう」

 私と彼はこのようにして出会い、これから様々な予想だにしない出来事に巻き込まれていくのだった。

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