020207【窓】
生活をするというのは大変だとつくづく思う。一軒目に借りた部屋は雨漏りがしており、二軒目は大通りに面した部屋だったためか異様なほど振動があり眠れなかった。
そんな時に紹介されたのが、セーヌ川沿いの小さなアパルトマンである。最上階を希望していたのだが、既に入居者がいるとのことで一つ下の部屋を借りることになった。
引っ越しをする前に管理人に上はどのような人かを尋ねると、一人暮らしの大人しい女性だと言うので安心して借りることにした。
荷ほどきが終わり、一息ついて小さなバルコニーからセーヌ川を眺めていた。
私は何かが視界の端で動いたような気がして、そこから身を乗り出してみた。
そこには、色白の足が見えた。
まさか、バルコニーに座って足を投げ出しているのかと驚いたが、不思議と不快感はなかった。
小さな部屋だからからどうも私の部屋の窓からは、時折足が見えた。失礼だとは思いつつ、私はそれを観察していた。爪は短く切り揃えられ、夜光貝のように艶があり、適度に湾曲している。爪の奥にぼんやりと桜色が滲むようで見惚れてしまうほどであった。
ある日、いつも通り仕事から帰るとどこかの部屋の住人が引っ越しを行なっている様子であった。私は気にせず階段を上がっていると、大きな荷物を持った若い女性とすれ違った。
「こんにちは」
微笑むように挨拶を交わした。
私は部屋に戻り、窓から物足りないセーヌ川を夜更けまでぼんやりと眺めることしか出来なかった。
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