020127【肖像】
自宅の近くには鬱蒼とした森がある。管理はあまりされていないようであった。眠れない夜はそこを散歩することにしている。
その日もいつも通り梟の鳴き声を頼りに歩いていた。特に決まった道という道は無いので、あてはない。
すると、目の前に大きな箱のような建造物が現れた。立方体で、それぞれ十メートルほどのコンクリートで造られているようである。不釣り合いな風景に違和感を覚えながらも、私は近づいてみる。
正面には滑らかな壁があるのみである。右側面へ回ってみるが全く同じようである。更にその側面へ回ってみるがやはり何もない。諦めて帰ろうかと思って背中を向けると、後ろから梟の鳴き声がした。振り向いてみると先程までは無かったはずの位置に扉があった。
明らかな人工物であるため、入って良いものか迷ったが終には中へ侵入することにした。
建物内は想像以上に広かった。物が殆ど置かれていないためそう感じたのかも知れない。あるのはその広い空間の中央に台座が置かれているのみである。また、そこには一枚の絵が飾られていた。
近付いてみると、それが少女の姿を描いているものだと分かった。
幼げであるけれど、それは凛とした横顔をしている。
作者は誰かと記名を探したが、どこにもない。私はその絵からいつのまにか目が離せなくなっていた。
そんな時、扉から梟が一匹音も無く入ってきた。
その梟は私の見ていた台座の絵に寄り添うように降り立った。
梟がわたしの目をじっと見つめ、一つ鳴いた。
私は何がなんだか分からない。
梟がわたしの目をずっと目つめ、二つ鳴いた。
私はこの絵を知っている。
梟がわたしの目を覗くように見つめ、三つ鳴いた。
私はやっと娘の顔を思い出す。
梟は飛び立ち、空中を旋回した後扉から出て行った。
私はその絵の前から動くことは出来なかった。
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