020115【入道雲】

 学校の二階のベランダから直ぐ下を見るとプールがある。クラスの男子の何人かは昼休みになると、そこから度胸試しだと言って飛び込んで遊んでいた。

「何が楽しいんだろうね、本当に馬鹿みたい」

 そう言ってきたのはクラスメイトの女子だった。私は適当に返事をする。そんな事よりも、彼が今まさに机を隅に寄せて直線を作り、助走をつけて飛ぼうとしている事に注意がいってしまう。緊張しているのか、真剣な顔がとても可愛らしい。

 振り子のように体を揺らして、一気に踏み込んだ。

 ベランダへの扉は開いているため、そのまま体は外へ出る。

 スピードを保ちつつ軽く跳んだ。

 手すりに右足が乗る。

 乗った右足をバネに、今度は空中へ思い切り跳んだ。

 彼の向こうには入道雲が見える。

 後ろ姿から目が離せなくなっている。

 水しぶきが二階の高さまで上がった。

 クラスの中からはうおーっと歓声が上がり、異様な熱気であった。

 一方、女子達は冷ややかな目でそれを見ている。再度隣にいた女子が私にため息混じりで話しかける。

「本当に馬鹿だよね」

 ふいに私は立ち上がる。女子は目を丸くして見上げていた。

 そして、教室の入り口付近まで歩き、振り返ると一直線に空が見えた。

 私は体を振り子のように揺らして、思い切り走り始めた。

 入道雲を近くに感じ、水しぶきは空高く上がった。

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