020111【車窓】
窓の外を見ると、既に空が白んできていた。気づいたら車内の席は埋まっていた。
「良ければお食べになりますか」
そう聞いたのは隣に座っている少年だった。どこで仕立てたのだろうか、身体にぴったりと合ったスーツを着ている。ネクタイは紺色か緑色か光の加減で変わるよな不思議な素材だ。
彼の手の上には鈍色に光る球体があった。
「これは?」
少年はため息にも似た笑いを見せた。
「そんな事はもう分かっているでしょう」
それを受け取り、口に入れた。
とても苦く、本当に溶けているのか不安になるほど無くならなかった。
全て溶けて、ついに最後は噛み砕いてしまった。それを見届けたように少年は次の駅で降りていった。
入れ替わるように、今度は老人が入ってきた。べっ甲の眼鏡をして、ハットを被っている。髪の毛は真っ白だ。
「よろしいですかな」
「どうぞ」
老人は隣に座った。
窓の外を見ると雨が降っている事に気が付いた。暫く電車は進む。
「宜しければ、こちらをどうぞ」
老人がおもむろに巾着から包み紙を取り出した。
「これは?」
老人はけたけたと笑った。
「良いからお食べなさい。あなたはもう分かっているのだから」
包み紙を開けると、中には正立方体が入っており、砂糖菓子のように見えた。
つまむようにして持ち上げると、持っているのを忘れるほど軽かった。口に放った。
驚いた事に、それは瞬時に溶け、中から蜜が溢れた。どこにそのような水分が隠れていたのか不思議だったが、蜜の甘さにむせ返りそうになった。
隣を見ると既に老人は居なかった。
扉が開き、人が流れるように大勢入ってきた。私はもう降りなければいけないと思った。人並みに抗うように出て行こうとすると、その波間に小さな女の子がいるが見えた。女の子は私の袖を掴んでいた。顔を見ると片目が無かった。
私はそれがポケットに入っている事に気が付いた。それを彼女へ渡して扉の外へ出た。
見上げるともう夜になっている事を知った。
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