020105【偉大な祖父】
今日は、彼と私の母親と一緒にご飯に出かけた。
私たちはどんなに忙しくても月に最低一度は今日のように三人で大抵の場合はご飯であるけれど、外出するようにしている。
これはもちろんここまで育ててくれた親孝行としての意味合いもあるが、それよりも後悔をしたくないという思いから来ている。
社会人になってすぐのことだった。隣県に住む祖父が亡くなった。祖父は私を可愛がってくれ、私もそんな祖父が好きだった。大学生の頃までは毎月一度は車で祖父の家に向かい、昼食を一緒に食べるのが習慣だった。
しかし、社会人になるとなかなかそういった時間を取ることも次第に出来なくなっていった。そんな折、母親から祖父が認知症になったと知らされた。祖父は大工で、自らの家も建てるほどしっかりとしており、地元のバレーボールチームの監督も行うほど健康的であった。大酒飲みで、明るく、少し自分勝手なのが悪いところだけどいつも周りを元気にさせた。そんな祖父が認知症とは信じられず、連絡を受けてから無理矢理時間を空けて祖父の家に行った。
いつも通り、一年中出してあるこたつに、いつも通りの座椅子に座る祖父の姿があった。私は少し安心した。
「おじいちゃん、来たよ」
そう言うと、祖父は私を下から見上げ答えた。
「どちら様でしょうか」
既に私のことが誰なのか認識することが出来ていなかった。
初めて祖父からそんな丁寧な言葉を聞いて、私は動揺が隠せなかった。それと同時に、後悔の念が押し寄せてきた。なんて馬鹿なのだろう。仕事が忙しいからといって会いに行かないことで私はどれだけ大切なものを失ったのだろう。祖父が徐々に記憶を失っていく際、どんな思いでいたのだろう。私は、その時、一体何をしていたのか、何を得たのだろうか。
もちろん、認知症になってどれだけの早さで進行するかなど誰にも分からない。また、私が会いに行っていたから防げたというものでもないだろう。しかし、もう一度だけ、もう数分の会話でも、祖父と孫の関係で会話が出来たのかもしれないと考えると祖父にただひたすらに申し訳ないと思ってしまう。
それからの進行ははやく、言葉もうまく話せなくなり、癌も発覚し数ヶ月で亡くなってしまった。私は祖父の遺体に触れた時の冷たさは一生忘れない。
そのような経緯があって、私は二度と後悔はしたくないと決め母親と出かけている。また、彼も共感してくれ、二人で誘うのは少々気恥ずかしいため一緒に付き合ってもらっている。
祖父から学んだことは計り知れず、偉大な祖父に感謝の意を込めてこれからも母親と出かけようと思う。
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