異世界おっさん放浪忌憚 ~ルポルタージュ・ギガ=ラニカ~

羽沢 将吾

ルポ・ビフォア:異世界へ……

「なんだ、こりゃ?」


 T県T市の山裾の集落にて、なんでも直す事を旨とする小さな修理工房を営むひとりのおっさん。

 その名も、宇賀神うがじんげんは現在絶賛困惑中であった。


「俺は、確か……」


 いつも通り、朝の8時に目を覚まし。

 トイレにて余剰水分と固形物を排出し。

 昨夜の残り物のおでんをどんぶり飯にぶっ掛けて朝飯を済まし。

 顔を洗い、歯を磨き、干しっぱなしにしていた作業ツナギを着て、居室から工房へと通じるドアを開け、照明のスイッチを入れたと思ったら……


「なんだ、こりゃあ!?」


 厳は改めて叫ぶ。

 その視界に飛び込んできたのは、修理途中の車やバイク、耕運機、パソコン、楽器、タンスなどの家具が所狭しと収められた工房ではなかった。


 立っているのはとんでもなく高い岩山の中腹にポコンと突き出た、岩で出来た踊り場のような場所。恐る恐る足元を除けば、遥か下方に雲があり、その下には樹で覆われた大地らしきものが見える。

 

「数百メートル……いや、数千メートルじゃ利かないよな……」


 かつて、組合の慰安旅行で行った東京スカイツリーの床ガラスから見たそれよりも数百倍は高い位置なのは間違いない。おそらく、10000メートルを切ることはないだろう。

 顔を上げて見渡せば、眼前に広がるのは樹海。所々に湖や河も見える。

 目を凝らせば、ものすごく小さくだが街や人里らしきものも見え、その中には城やらビルのような高層建築物っぽいものを持つ場所も確認出来る。

 また、樹海の中に一本だけ、雲の上まで貫く高い塔らしきものも立っている。

 それらを納め、まるで城壁のごとく地平をグルリと取り囲む山脈。

 青と白で彩られた山々が僅かに切れたところからは、海らしきものも見えた。

 

 何かの叫びのようなものが聞こえ、そちらに目を向けると。

 もこもことした綿飴のような雲がかかる蒼い空の片隅で、巨大な生物……恐らくはドラゴンのようなものが飛んでおり。

 そのドラゴン的なものに、銀色に鈍く輝く小さなモノが纏わりつき、何やら眩しい光を撃ったりして攻撃を始している。

 ドラゴン的なものもそれに応戦し、時折火球やら雷のようなものやらを撃っていたが、数分ほどで巨大な翼をボロボロにされて樹海へと落下していき、銀色の小さなモノもそれを追って降下して見えなくなった。


 呆気にとられたまま、どれほどの時間立ち尽くしていただろうか。

 バタン、という音に振り向くと、居室に通じるドアが閉まっていた。

 厳は慌ててドアに取りすがるが、ロックが掛かっているかのように開かない。


「おいおい、なんだこれ冗談じゃないぞ」


 厳が慌ててガチャガチャとノブを捻り、必死にドアを引っ張っていると。


「うわっ!?」


 無情にもドアノブが外れ、厳はノブを掴んだまま後ろに倒れ込んだ。


「あれっ」


 しかし、倒れこんだ先に地面は無く。


「うわああああああああああああ!!!」


 一瞬の無重力感の後、厳の体は空中を落下していくのだった。

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