四章 小話・会話文


・悪役と元勇者と魔女 三十二話と三十三話の間



「千年前ってどういう感じだったのかしら」

「千年前、ですか?」

「話したくないのなら無理には聞かないわ」

「いえ、そういうわけではないので……ただ、聞いても面白いものではありませんよ」

「かまわないわ。教えてちょうだい」


「当時は今ほど発展していませんでした。一人の王が治めるには広大すぎる土地、しかも二代目の勇者が災厄を討伐してからだいぶ経っていたので、女神の威光も今ほどではありません。異教徒も多く、邪神なるものを崇める者までいました」

「異教徒に関しては百年前と一緒ね。規模はそこまで大きくはなかったけど」

「邪魔だったので全部滅ぼしたからもしれませんね」

「物騒すぎるわね」

「邪神という名の災厄を崇めていたので……道中何かと邪魔をしてきたんですよ。竜を討伐するだけでも大変なのに人の相手までしてられません。まあ、彼らを仲間に引き入れるまではできる限り避けてましたけど」

「一人で押さえ込むには大変だものね」

「彼らを仲間にした後も避けようとしたのですが、討伐に一度失敗したこともあり、邪神信仰者が調子に乗ってしまって……面倒だから全部殺そうということに」

「発想が物騒すぎる」

「壊滅させるまではよかったのですが……何も思わず惨殺していく彼らに危機感を抱きました」

「それ、手遅れなのではないかしら」

「人を簡単に殺しては駄目だと言っても聞き入れず」

「そりゃあそうでしょうね」

「しかたないので、敵意を向けてくる相手以外は放っておくように、ということで落ちつきました。竜が猛威を揮っていたため、彼らを諭すのは終わってからでいいだろうと……」

「まあ……気持ちはわかるわ」

「それから、モイラの噂を聞いて仲間にしました。周りが男ばかりだったので華が欲しかったんですよね」

「余裕ありすぎじゃない?」

「もちろん火力になりそうだからという理由もありましたよ」

「どんな理由であれ、勇者さまに拾われたことによって私の人生は花開きましたの。勇者さまには感謝しかありません」

「後は、せっかく魔法のある世界なのだから魔法少女を育てたいな、とも思いまして」

「余裕ありすぎよね」

「竜を追っている最中でしたので。何しろ相手は好き勝手に飛び回っていましたから、目撃情報を頼りに赴いても飛び立った後だった、というのが何度もあったんですよ。空振りが何度も続いたら気晴らしの一つや二つはほしくなります」

「……まあ、そう言われると、たしかに……いや、でも……」

「そのときに考案した魔法が討伐の役に立ったので、一石二鳥でした。使い魔を作り出す魔法なんかは今でも重宝しているようですし」

「私は使えないのですけど、あれは便利そうなので羨ましいと常日頃思ってますの」

「……それ、どういう魔法なの?」

「まず、指などの体の一部を切り落とします」

「怖い」

「彼らの体を構成しているのは魔力ですので、切り落とした魔力を変形させて使い魔にします」

「最初から最後まであいつらにしかできない芸当だわ」

「魔法少女といえばお供の妖精的なもの、と思って考えたのですが……中身が彼らとなると、まったく可愛く思えないので却下しました」

「……まあ、そうなるわね。……それにしても、中々楽しそうじゃない。あなたたちの様子からして殺伐とした時代だったのかと思ってたわ」

「殺伐、かどうかはわかりませんが、領土同士の戦いは多く、奪うか奪われるかの弱肉強食なところはありましたね」

「その時代に産まれなくてよかったわ」

「本当に、ずいぶんと平和になったものだと思いますよ」

「勇者さまが見事竜を打ち倒したおかげです。ろくでもない女神ですが、力ある存在が天より見ていると思うだけで弁える方も増えますもの」



「そういえば、モイラの名前ってクロエが付けたのよね、どういう意味があるの?」

「意味、ですか……その、先日魔法少女にしたかった、と話しましたよね」

「ええ、聞いたわ」

「なので魔女の名前を付けようと思ったのですが……当時の私は少々捻くれておりまして」

「……どういうことかしら?」

「戯曲に出てくる三人の魔女、の由来ではないかとされている神の名前なんですよ」

「……捻りすぎね」

「魔女ではなく魔法少女の名前を付けるべきでした」

「趣味嗜好の話になりそうだから詳しく聞くのはやめておくわ」

「あら、私はこの名前気に入っておりますのよ。勇者さまが付けてくれた名前ですもの。勇者さまのことを忘れないように、作った家畜に私の由来となった戯曲の名前を付けたりしてみました。……もう召し上がりましたか? まだでしたら是非ご賞味ください」

「……あれ、あなたが名付けたのね」




・悪役と姉 三十二話と三十三話の間



「リリアは最後何を思ってたのかな」

「……どういう意味かしら」

「私が最後に見たときはもう死んでたから、痛くなかったかな、とか、苦しくなかったかなとか……気になったの」

「落石に巻き込まれたのだから、痛くも苦しくもあったわよ」

「うん、まあ、そうだよね」

「……でも、悲しくはなかったわ」

「そうなの?」

「申し訳なくはあったけどね」

「……そっか」

「あなたの方はどうだったの? ……その、殺されたわけでしょう? 恨んでないとは聞いたけど、親しくしていた相手に殺されて、悲しくなかった?」

「うーん、怒らせちゃったのは私だから……それに私よりもライアーの方が悲しそうだったよ」

「リリアの死を悲しんでおきながら、姉であるあなたを殺す神経がわからないわ」

「私とライアーは特別仲がよかったわけじゃないよ。ライアーにとって大切なのはリリアだけだった……ってことじゃないかな」

「大切だと思ってるならそれ相応の扱いをしてほしかったわね」

「素直じゃないから」

「知ってるわよ」



「リリアは素敵なお嫁さんになるのが夢だったんだよね」

「そうだったかしら……」

「お嫁さんになりたいって言ってたよ」

「その後すぐに冒険者になろうって言ったはずよね」

「冒険者になって素敵なお婿さんを見つけたいのかなって思ってたんだけど」

「冒険者稼業をしている相手なんてろくでもないわ」

「じゃあなんで冒険者に……?」

「……そういう気分だったのよ」



「リリアはどういう男性が好みだったのかな」

「突然ね」

「冒険者が好みだと思ってたから……本当はどうだったのかなって思ったの」

「……フィーネを大切にしてくれる相手なら、それでよかったわ」

「私もリリアを大切にしてくれる人がよかったから、同じだね」



「あら、あなた……サミュエルと親しかったの?」

「うん。サミュエル君とは友達だよ」

「え、あ、えと……その」

「……姉としてはサミュエルに友人ができて喜ぶべきかしら」

「えと、だから僕は弟では」

「え? サミュエル君はレティシアの弟? じゃあ私の弟?」

「あなたとサミュエルは友人でしょう?」

「あ、あの、僕の話を……なんでリュカまで……」



「レティシアは好きな人はいるの?」

「は、な、何を突然」

「リリアの話はよくするけど、レティシアの話はあまり聞いてないなって思って」

「だって、あなたと私の共通点なんてそれぐらいしかないじゃない」

「でもせっかく友達になれたんだから、レティシアのことも知りたいよ」

「……友達?」

「え、違うの?」

「いえ、そうね、友達、友達……なんだか複雑な気分だわ」

「本当は姉がいいけど」

「それは私がいやよ」

「うん。知ってる」



「それで、好きな人はいるの? 前に一緒にいた子は恋人?」

「恋人どころか婚約者よ」

「あ、そっか。レティシアは貴族だもんね」

「あなたにはいないの?」

「私は学園を出たら貴族じゃなくなると思うから」

「……弟が家督を継ぐんだったわね」

「私のことよりも、レティシアのことを教えて? 婚約者の人とは仲がいいの?」

「ま、まあ、そうね。悪くはないと思うわ」

「あの人と結婚して幸せになれそう?」

「……どうかしらね。大切にはしてくれると、思うわ」

「あの人のことが好きじゃないの?」

「……好き、だけど」

「じゃあ何が駄目なの?」

「私が釣り合ってないのよ」

「んー? でも、大切にしてくれるんだよね?」

「そうよ」

「じゃあいいじゃない。不満のある相手を大切になんてしない……それはリリアが一番よくわかってるよね」

「それは……」

「リリアは素敵なお嫁さんになれなかったから、レティシアにはリリアの代わりに素敵なお嫁さんになってほしい。リリアの分も笑って、リリアができなかった幸せな人生を送って。それが私の、フィーネの願いだよ」




・問題児集団 三十二話以降



「どういう集まりだよこれ」

「話し合って上手いことできないかなーって集まりだよ」

「意味わかんねぇ」

「あ、あの、僕は、その……クラリス様とのことを、その、聞いてもらっていて」

「俺は部屋を貸しているだけだ」

「……あのさ、お前、ちょっと来い」

「え? なんで?」

「いいから」


「俺は王をどうするか話すから来いって呼ばれたはずなんだけど?」

「うん、そうだよ? 皆で話し合った方がいい案が出るでしょ」

「他の奴に国の内情を話すわけねぇだろ。馬鹿かお前は」

「えー……でも、サミュエル君は教会に詳しいから色々教えてくれると思うよ。それに人目につかない場所ってここぐらいしかないから……アーロン先生のことは気にしないで大丈夫。他言するような人じゃないから」

「そもそも人じゃ……ああくそ、めんどくせぇ」

「自棄になったら駄目だよ。大丈夫、なんとかなるから」

「なんともなんねぇよ」

「そんなのわからないでしょ。大丈夫大丈夫! 私に任せて!」

「あ、おい、勝手に――」



「ふむ、ローデンヴァルト王をどうするか、という話か。洗脳でもするか?」

「隠す気ねぇのかお前は!」

「で、でも、あの、洗脳してるってばれたら……その後が面倒になると思うので、だから、ええと……死んでもらう方がいいのでは」

「教会の奴が言っていい台詞じゃねぇ」

「もう少し穏便なのがいいなぁ。ディートリヒ君はどうしたい?」

「なんで普通に話が進んでるんだよ」




「第三回、ローデンヴァルト王をいい感じに退位させる方法を話し合おうの会を開催します」

「……なんかもう、好きにしたらいいんじゃねぇの」

「それ相応に相応しい相手を即位させるのが一番適切だろうな。話の通じない者が即位し、王弟として続けることになってはたまらんだろう」

「お前は部屋を貸してるだけじゃないのかよ」

「ディートリヒ様に、協力的な方とかは……いませんか?」

「……いないわけじゃ、ないが……第一王子を退けてまでってのは難しいぞ」

「じゃあ第一王子もどうするか話し合うべきだね」

「やはり洗脳するのが手っ取り早いのではないか。王子であることをやめたいだけならば、現王の言葉一つで足りるだろう。退位まで狙おうとするから面倒なことになる」

「じゃあ聞くが、お前はこの学園から出てローデンヴァルトに来る気はあるのかよ」

「ないな」

「なら余計なこと言うな。黙ってろ」

「ふむ。俺はお前に何かした覚えはないのだがな。敵意を向けられる筋合いなどない。ああ、もしや森での一件が関係しているのか? しかしな、お前を氷の上に転がしたのは俺ではない。操ろうとはしたがその程度のこと、実際実行には移せていないのだから気にするほどのことではないだろう」

「気にするに決まってるだろ。……それにあいつと同類だってだけで嫌う理由にはなる」

「とんだ八つ当たりだな。その程度のことで嫌うのであれば、お前を嵌めた王と同じ人間だからという理由で全人類にも敵意を向けるべきだろう。それをしないということは、俺を嫌う理由になどならないということだ」

「アーロン先生、ディートリヒ君をいじめたら駄目だよ」

「いじめられてねぇよ。勝手なこと言うな」



「第五回、サミュエル君とクラリス様の仲をよくしようの回を開催します」

「これに俺が呼ばれる意味がわかんねぇ」

「助け合うことは大切だよ」

「あ、あの、クラリス様は……最近は、よく話してくれるようになって、睨みつけてくれることも増えて、だから、えと、順調なのでディートリヒ様の回にしても」

「どこに順調な要素があるんだ、それ」

「わー、ずいぶんと進歩したね!」

「相談する相手間違えてるだろ。……ああくそ、俺が女を落とす方法を教えてやるから、こいつらの言うことに耳を貸すな」

「え、で、でも……その、レティシア様も落とせないような人の助言は、ええと、あまり役に立たないかなって」

「なんも教えてやらねぇ」

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