土産
私は今年で十五になった。来年ようやく学園に行ける。
昨日届いたばかりの制服を広げて堪能する。教材とか色々なものが運び込まれ、その度に胸が高鳴って仕方ない。
紺色を基調にしたワンピースは、華美過ぎず、かといって質素というわけでもない、首元や裾にはレースがあしらわれているし、生地も上等なものだ。
学園は元々それなりの魔力さえあれば、平民だろうと貴族だろうと通える場所だ。そのため、貧富の差が顕著になり過ぎないように制服制度が導入されており、無償で支給してくれる。
昔は従者を連れて行くことも許されなかったらしいが、これまでは貴族しか通うことがなかったため、その制度は廃れてしまったらしい。それでも当時の名残りのせいか一人だけという制約が設けられている。
そういうわけで、必要最低限のものは学園から支給されているし、私についてくる従者はリューゲで決まっているので、学園に向けた準備で四苦八苦することなく日々を過ごしている。
ここ最近、というかここ数年は中々忙しかった。突然マリーが公爵家の養子になるし、かと思えばお兄様と結婚するし、クラリスはいつまで経ってもつんけんしてるし、焼き菓子ちゃんは宰相子息についてのろけるし。宰相子息自身は一度しか茶会に来ていないというのに、彼について随分と詳しくなった気がする。
好きな食べ物は魚の香草焼きで好きな色は黒、好きな動物は犬だとか。その情報を聞いて私にどうしろというのか。
王子様との交換日記は去年ぐらいから頻度が減った。私が十二の頃から他国や領地に視察に行っているはずの王子様は、去年まではいつも通りの頻度で日記と一緒にお土産を送りつけてきていた。
なんでも転移魔法を使っていたとか。結構な魔力を消費する転移魔法を、王太子協力のもと三日毎に行っていたらしい。初めてその話を聞いた時は、なんという魔力の無駄遣いと思ったものだ。
だけど、王太子は去年学園に入った。こちらから送れる人がいないとなれば、必然頻度も減る。王子様は転移魔法で城に送っているらしいけど、私からの日記が届くのには時間がかかる。
堪能した制服を衣装棚にしまおうとして、あまり隙間がないことに気付く。私の部屋には衣装棚が一つしか置かれていない。皺にならないように丁寧にしまいながら、新しく衣装棚を増やそうかと部屋の中を見回す。
駄目だ。置ける場所がない。
「衣裳部屋でも貰おうか」
同じように部屋の中を見ていたリューゲが提案してくれた。
「衣裳部屋以外にも、物置が欲しいところだわ」
殺風景だったはずの私の部屋には、王子様からの土産物で溢れかえっている。
小物とかを収納できる棚の上には所狭しとぬいぐるみが並べられ、部屋の隅には使い道が無さ過ぎる硝子で出来た剣が置かれている。窓辺には木彫りで出来た、ぬいぐるみのような見た目の熊。
他にも抱えられないほど大きな岩が部屋の一角に鎮座している。机の上には綺麗な模様が刻まれた硝子瓶が何個か飾られていて、本棚には各国の本が並べられている。
「次は何が届くだろうね」
虚ろな目で王子様からの土産物を眺めていた私とは逆に、リューゲは楽しそうに笑っている。
届いた物はリューゲが飾る場所を選んでいるというのに、この呑気具合だ。もういっそ飾れないぐらい大きな物が届いて困ってしまえばいい。
「確か今年戻ってくるんだよね。最後にはとんでもないものが貰えるんじゃないかな」
「……想像もしたくないわ」
木彫りのぬいぐるみ風熊が届いた時に、ぬいぐるみはもう十分ですと書いたからぬいぐるみの線はないだろう。最後に王子様が寄る地域は知らないけど、最後だからと意気込んで大きな物を選ぶ王子様の姿が浮かび上がる。
頭を振って、嫌な想像を頭から追い出す。
「私としては、食べれるものだと嬉しいわね」
消えもの万歳。
朝食の準備が出来たと呼ばれ、食堂に急ぐ。
食堂にはすでに皆揃っていた。お兄様の隣に座るマリーは自分が同席していることがいまだに慣れないようで、所在無さげに視線を彷徨わせている。
私は目の前に置かれたスープに手をつけながら、今日は何をしようかと考える。教材にはもう何度も目を通したし、制服を下手に着て皺をつけるのも嫌だ。
「――なので、一人で大丈夫だな」
ゆっくりとスープで空腹を呼び起こしていたら、お父様が私をじっと凝視していた。話を聞いていなかった私は、よくわからないままとりあえず頷いた。
だが私の表情から何か読み取ったのか、お父様は呆れたように溜息をついた。
「今日は皆用事があるから、お前一人で留守番することになる」
なるほど。先ほどまでそれぞれの予定を話し合っていたのか。その結果、一人残されることになる私を心配してくれていたらしい。
流石に留守番ぐらい出来る。そもそも、使用人だっているのだから、完全に一人になるわけではない。
「父上は心配しすぎですよ」
十五になったのに、一人でお留守番も出来ないとお父様に思われているのが少し悔しい。
不満で頬を膨らませる前に、お兄様が援護に回ってくれた。
「しかしな……」
「大丈夫ですよ。レティだって一人で留守番ぐらい出来るだろう?」
「勿論ですわ。来年には学園に行きますし、そのぐらいのことが出来ないと学園で生活することすらままならないですもの」
私が自信たっぷりに言い放つと、お父様は胡散臭そうな目をしつつ、それでも渋々と頷いてくれた。
お父様はとても心配性だ。
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