2話:ジャニーズに憧れて大阪に出てきた泰輝さんの話

ゆうりさんと知り合った同時期に、太陽さん(仮名)という18歳のゲイの方がいます。

この人は容姿端麗で性格も優しく、後に名古屋の大手企業の社長の跡取り息子だという事が判明したり、出会った当事はホストで働いていたり、会った当日にカラオケ店でフェラし合ったり、(当時ジャンカラには個室にカメラが付いていなかったのです。)

ラッシュ(ゲイ用のセックスドラッグ、MDMAやシャブのようなもの)を勧めて来たりと、色々有るのですが、


私が記憶に残っているのは17歳でジャニーズに憧れ、高校を中退し、ジャニーズに入りたくて大阪まで出て来た泰輝(たいき)さん(仮名)の話なので、太陽さんの話は割愛させていただきます。

因みに何故わざわざ太陽さんの話を紹介したかと言えば、当時太陽さんと泰輝さんがルームシェアしていて、泰輝さんを知ったのも太陽さん経由の紹介からだからです。


私は不思議な事に前回と矛盾するのですが、何故か一度お会いし話をした時から泰輝さんに対して一目惚れ、恋をしていました。

(今考えると恋をしていたと思い込んでいただけで、恋に対して恋をしていたと言う方が正確かも知れません。)


何故当時の私は泰輝さんに対して恋をしたと思い込んでいたのか?「恋をするのに理由なんかいるのか?」

というよく聞く文句の通り、この感情は説明も理論化も出来ないものです。


私は泰輝さんにに対してカラオケ店で半ば無理矢理キスしようと迫ったり、メンヘラ染みた、演技かかった、キチ○イ染みた愛のメールを大量に送り付けたりしていました。

挙げ句の果てには、ルームシェアしている太陽さんとセックスしたのかと聞き出そうとしたり...尤も、泰輝さんは否定しておりましたが。

(しかし今書いていて気づいたのですが、後々ラッシュでのセックスを勧めたり、出会った当日にカラオケ店でフェラするいわゆるヤリチンが、ルームシェア相手に手を出さない筈が無いと思うのですが...)


ところで、私が何故泰輝さんに惹かれ恋をしたのか無理矢理理由付けする為に、太陽さんと泰輝さんがルームシェアしている部屋へ私がお邪魔した晩に戻る事にしましょう。


お恥ずかしい話ですが、私は同年代の友達が出来た事が無いという事情もあり、いざ同年代に近い太陽さんや泰輝さんと喋る段になると全くの無口になってしまって、

やっとのこさ私が話した言葉は開口一番「自分は学校で虐められていたんです...」

その言葉に同情し、腫れ物に触る態度でもなく、上手くカバーしてくれる太陽さん。

しかし、しかし道理としては私がこの件で太陽さんに恋をするのなら分かる。

何故、泰輝さんに惹かれ恋をしたのか?


今考えると、泰輝さんはぶっ飛んだ天才だったのでは無いのでしょうか。


大体、16で高校中退して、17歳の今までジャニーズを目指しバイトしながらも負の部分が一切無いというのは、ある種の超人であり、天才でないと普通考えられない。

普通なら歪んで卑屈になるか、とっくに諦めて後悔しているでしょう。

この「天才」と言うのは、勉強が出来るだとかノーベル賞取れるとかとは違う、マイペースさの天才、世間や社会に流されない狂人に近い天才。


その天才さを示すエピソードとして、半年ほど後に、泰輝さんと何度か電話した時の話をここに記します。

泰輝さん曰く、

「カラオケでジャニーズの曲ばっかり履歴に残っててさ、これだけでご飯食えそうって言ったら友達笑っちゃって」

「コンビニバイトの客の子と偶然道に会った時に挨拶されたんだよ」

こう言った話を笑いながら話せる泰輝さんには、一体全体、将来の不安というものが無いのでしょうか?

凡人の私には、18を超えてコンビニアルバイトで未だにジャニーズに入る事を夢見ている人が、こんな事を笑って話せる彼の神経は理解出来ない。


しかし、今思うと、この泰輝さんの天才さ、理解し難さに私は惚れたのでしょう。


いきなり1年ほど飛びますが、16歳の時私は家出し、初めのうちは東京でサポ(援助交際の隠語)すればなんとかなると思っていましたが、

家出先の同居人に今すぐ出て行ってくれと言われ、結果一文無しになり、その頃にもまた泰輝さんとお会いしました。


私は泰輝さんとファミレスで話をしながら、運ばれて来たハンバーグについて来たナイフを見つめ、(これで泰輝さんを刺し殺して自分も死ねばどうなるんだろう?少なくとも泰輝さんの中には殺された事で私という記憶が刻まれる筈だ...)

とばかり考えていました。

泰輝さんの「大阪までの帰り賃出すから実家に帰らない?」という言葉は聞こえながらも、無視しながら、そんな妄想ばかりに取り憑かれていました。


ここまで読んで下さった方は筆者である私が大体どんな人物かおおよそ予想がついたかと思いますが、結論は3話へと先延ばしさせて頂きます。

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