熱帯夜の決戦 5(終)


 数時間後、日中の烏堂特殊清掃。

 外は死にたくなるような暑さのままだけれども、この部屋の中はそうではない。

 思ったよりも早く修理が来て、冷房が効くようになったのだ。


「あー……いいー……」

 一番冷風が当たる場所にぺたんと座って、琥珀は蕩けるような声を上げていた。

 先日、かつての持ち主と死闘を演じたとは思えない。


「夏は冷房に当たってアイスを食べる季節なんだー……外を出歩くなんて、人間らしい生活じゃないー……」

「お前は人間じゃないだろう」


 そう返した社は、机でパソコンのキーを叩いて、今回の事件に関する報告書を作っている。

 アインを撃退することには成功したものの、完全に滅することは出来なかった。仕事としては失敗の部類に入るだろう。

 勝ち負けで言えば勝ちではあるが、それでなんともならないのは面倒なところでは有る。


「つれねー、社つれねー……あー……なんでもいいかー……」

「雑だな」

「もういいだろ雑でー……」

 ため息を一つ吐く社。


「わからないことが有る」

「何だー社ー……」

 だらっとした琥珀に、社は問う。


「あいつは一体、なんでこの街に来たのか、だ」

 あいつ――吸血鬼・試製壱號エクスペリメント・アインが、琥珀を狙ったわけではないのは明らかだ。

 話し用からして、偶然出会ったので、回収しようとした、という言い方だった。


 何故ここに来たのか、は語られていないし、詮索のしようも社には、無い。

 琥珀は首を横に振った。

「分からない、分からないが、なにか良くないものがここには集まりつつ有るのかもしれない。そして、そんなものが集まるに足るものがここには有るのかもしれない」

「この間の、あいつが言っていた不審者も含めてか」


 思い出す。

 長谷部燐音が戦ったという、謎の防毒面ガスマスクの男の事を。

 あいつも、何故ここに来たのかというのははっきりとは分からなかった。


「そうだなぁ……あ、じゃあアインの情報も共有しておくか、あの二人とも」

「なにでだよ」

「つぶやきどり。相互フォローになってるから」

 つぶやきどりとは、バイト先でやらかす少年から、よく怒りを顕にする大統領まで、全世界的に用いられているSNSの俗称である。


「……実は仲いいのか、お前ら」

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