熱帯夜の決戦 3
琥珀はその魔弾が必中であると知っている。
同じ霊鎧であり、搭載された
故に、この必中の魔弾への対処も用意してある。
「
「分かった!」
それを盾として、社は突撃。
回避が不可能ならば、全て受け止めればいいだけの話だ。琥珀の意図など、詳しい説明無しでも理解できる。
腕に突き刺さる六発。増腕アスラにクモの巣状のひび割れが広がるが、貫通にも至らず、機能も欠けてはいない。
走る。
彼我の距離が詰まる。
いや――詰まらない。
跳躍。アインが足元を瓦礫と化するそれを行うだけで、距離は再度開く。
「くそっ!」
立体駐車場を駆け上がりながら、追いかける社。
その視界から、アインの姿が消える。
――何処だ!
「上だ社!」
社は琥珀の声に合わせて上を見る。
そこに有るのは、上下逆になって、天井を蹴ろうとするアインの姿。
ノーモーションで地を蹴って、今度は上へと跳躍していたのだ。そして、立体駐車場の低い天井を蹴って、さらなる接近を狙っている。
次の行動を社が判断するよりも、アインの行動が早い。
しかし、それに先んじるのは、琥珀の声だった。
「そのまま走れ社!」
その言葉を、社は信じる。
止まらない。もう一歩先へと身体を進める。
「ほう」
アインが斜めに宙を飛ぶ。そして、社の後ろに着地。
前に進むことによって、社はアインの飛び込みを潜ることに成功したのだ。
なんとか、今回は回避に成功した。
とは言え――
――機動力が違いすぎる。
最高速度以上に、そこに至る加速が異常だ。一蹴りで、まるで弾丸のように飛んでいくことが出来る。
社にも、霊鎧によるパワーアシストは有る。だが、その程度ではとても追いつけないほど、吸血鬼の身体スペックが高すぎる。
「そろそろわかったのではないか、青年。力の差、というものが」
ゆっくりと振り返りながら、余裕を持ってアインは言う。
社もまた、その声に向かって振り返る。
「何を――」
「私とて、同盟国の人間の命を無駄に奪いたいわけではない。ただ、正当な持ち主に道具を返してほしいと言うだけだ……もう、良いのではないかね?」
視線を琥珀へと動かしながら、アインは続ける。
「
「その通りだわ、その通りだわお姉様。私達は、一番うまく使える相手に使ってもらって、一番多くの成果をあげるのが大事な事でしょう?」
緋色の剣が唄う。
まるで無邪気な少女のように。
それに琥珀が応えた。
「心の問題だよ、私はあんな事やりたくなかった。それだけだ」
「道具が心などと――」
アインの言葉に、琥珀が激した。
「そう思うなら、初めから心なんて付けるな! 確かに私は道具で、人に使われるものだ。それに知性と感情があるということは、それもまた道具の機能のうちだってことだ! 無理に使おうとするな、機能適応外なんだよ!」
琥珀の叫び。
それは怒りのようでもあり、悲鳴のようにも社には聞こえた。
社は考える。あの緋色の剣がああ言えるのも、結局その精神性が合っているからなのだろう。
剣という形と、それに合った精神性をしている。それはつまり、人を切る、という事に特化しているという事なのだろう。
対して、琥珀は鎧である。
鎧とはつまり、人の身を守るものであり、琥珀も根としてはそれに近い精神性を有しているという事なのだろう。
その琥珀が悲鳴を上げるとは、一体何をさせられたのか――
「そうか……だが、それでもだ」
跳躍し、踏み込むアイン。緋色の剣を振りかぶっている。
まるで影が伸びるように、距離が詰められている。
「お前は貰っていく」
「それはどうかな」
社は一歩踏み込む。
それだけで、剣から拳の間合いになる。剣を振るうには不的確な間合いに。
右腕を、斜めに。アインの右腕を狙って、撃つ。密着していても、魔弾はその威力を減らす事はない。
発射。
アインの右腕。剣を握ったその腕が跳ね上がりる。
先と同じように、アインの左の拳が飛ぶ――よりも早く動くものが合った。
「
琥珀。
その言葉と同時に、社が瞬間的に発光する。それが収まった時に、社は常の黒い葬儀屋姿になっていた。
代わりに、
「なん、だと?」
吸血鬼・
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