双狂 3
「二指真空把?」
「いやいや、投げ返したりはしないよ、しないとも」
言いながら
それに目をやることもなく、燐音は言う。
「あなた、何者? この事件の原因? そうなら、流石に黙って返すわけにはいかないのだけえれども」
「ふふふ、ありていに言ってしまえば、その通りだね」
――なんとなく、嫌な感じね。教育に悪いから、クロは近寄らせたくないところだわ。
見た目だけではない、溢れ出る嫌な何か――それを感じながら、燐音は言う。
「ふぅん……で、目的はなんなの?」
「そこはまぁ、有る種の実験、とでも言うべきものかなぁ」
「へぇー、実験。じゃあ、それはなんの実験かしら?」
まるで、旧知の友人同士の世間話ででも有るかのように、燐音と
「うーん、それは秘密にしておきたいところかなぁ。ただまぁ、ひどく私的なもの、趣味的なものであるということは断言しておきたいものだね。学校、というのは、私の実験に至極適した環境なのさ」
「そう」
「何せ、ここはひどく閉鎖的だ! 多くの人間が生活してはいるものの、その年齢層はひどく限定されている。そして作り上げられる、独自の社会システムとルール、それは一つの世界の縮図のようで……おっと、少しばかり長々と語りすぎてしまったかね? すまないすまない、どうにもこうにも、私の悪い癖だ」
朗々と独演会でもしているかのように語った後で、
「さて、僕としては、このまま帰らせて欲しいところなのだけれども?」
「まさか、それが通るとでも? クロのほっぺより甘ったるいわね」
表情を変えず、さも当然とでもいう様子で言った燐音。それを、今まで黙っていた黒玉がジト目で見た。
「……燐音ぇ……」
「え、なんだい、その子がクロなのかい? それでそのほっぺが甘ったるいって? なんてこった、不味いことを聞いてしまった?」
言って、
「大丈夫? 児童相談所行く?」
「……話しかけないで」
ジト目で吐き捨てるように言う黒玉。
「不審者ね、殺すしか無いわ……愛と平和のために……」
「……」
燐音に向かっても、同じ用にジト目を向ける黒玉。
――何かおかしいこと言ったかしら? まぁ、クロが見てくれているなら、そうなのでしょうね。
「ふむ、困った困った。困ったお嬢さん達だ」
「学校に侵入して、可憐な少女を行方不明にした不審者が言う言葉ではないわね」
言葉を吐くと同時に、燐音は地を蹴った。
「クロ!」
黒玉が頷き、燐音が光りに包まれる。
閃光が収まった瞬間には、燐音は黒一色の鎧を纏っていた。
霊鎧・ジェットスパイダー。黒玉の真の姿が、それだ。
『……
黒玉の声と共に、、燐音/ジェットスパイダーは背中から補助腕二本を展開。展開した妖刀ムラマサ四振りを、本来の腕と合わせて握る。
「貫きなさい」
ジェットスパイダーは本来の腕を振るい、二本の妖刀ムラマサを投げ打つ。
異界を、銀の刃が飛ぶ。
それを受けて、
「おっと、これは危ない。故に、こうしよう――
右手を前に突き出す。
瞬間、まるで、空間が波打つかのようにして、何かが歪んだ。。
そして、有り得ないことが起こった。
――
状況を見て、燐音はそう考える。
あの男は
その
そんなことを思考しながらも、ジェットスパイダーの突撃は止まらない。
刀の間合いに入り、補助腕が妖刀ムラマサを振り上げる。
「ならこっちだ。
今度は左手を前に。
すると、先と同じく、空間が波打つ。
効果はすぐに現れた。
『……だめ、動かない』
そう、黒玉が言うと、補助腕が握力を失って二本の妖刀ムラマサを取り落した。
さらに、まるで関節を取り外されでもしたかのように、補助腕が力を失う。
武器を失った――しかし、突撃は止められない。
「よっと」
ジェットスパイダーの腹部に、それが突き刺さった。
「うっ……」
響くのは金属音。ジェットスパイダーの装甲を越えて響く衝撃に、燐音は身を捩りながら、後方へと転がされる。
勢いよく吹き飛ばされて、ぶつかった固定されていない椅子が散らばっていった。
その勢いが止まるよりも早く、回転しながらジェットスパイダーは体勢を立て直す。
荒い息を吐きながら、燐音は言った。
「よくも、クロに傷を付けてくれたわね」
「……いや、そっちなのかい、気にするのは……」
燐音の言葉に、
「当たり前でしょう、クロの肌に傷がつく事に比べれば、ありとあらゆる事は些事になるのよ…常識がないの、あなたは? 親からどんな教育を受けてきたの? それともこの話題触れたら不味いやつだった?」
『……燐音ぇ……』
「私が言うのもなんなのかもしれないが、君おかしいぞ? 変態かね? 変態だね! 関わり合いになりたくないから失礼させていただきたいね」
肩をすくめる
「逃がすわけがないでしょう? 変態ガスマスク男」
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