盗賊紛い 7(終)
――それから数日後。
社は自分の事務所で新聞を広げていた。見ている記事は、建設中の高層マンションで発見された、死体に関する事件だった。
建築中の高層マンション。その地下に、作業員が人を殺して、死体を埋めた。
犯人は既に事故――そう、社達が、マンションに入る原因となった事故だ――で死亡しており、書類送検で事件は終わる。
死体の首は見つかっていない。あの女――燐音が持ち去っているからだ。
彼女の言葉ぶりだと、何らかの
そう、全ては地下にあったのだ。
地下に埋められた死体こそが異界の親であり、事故はそれによって起こされたものだったのだ。
自らを殺した男に対する、悪霊からの復讐――と言えるかもしれない。
では、死体は地下に居る自分を護るために、肉玉を出していたのか――? いや、それは違うのだと社は考えた。
肉玉は確かに、下へと戻ることを露骨なほどに妨害していた。であるにも関わらず、燐音と黒玉がやっていたように、横の部屋に入ればやり過ごすことは簡単だった。
これはある意味では、下に戻ってほしくない――下を守っているのだ、ということをアピールし、その上で、下へと戻ってほしいという事を言っているのだ。
要するにアクションゲームで到達困難な場所に、アイテムを置いているようなものだ。
では、地下に行く方法は何か。それが、もう一つの違和感から辿り着くものだ。
一階以外のフロアは一直線の通路になっていた――つまり、有るはずのものがないということを示している。
それは中央部――エレベーターの有る場所だ。
あのエレベーターは、地下にだけ通じるものとして異界に作られていたのだった。
そうして、肉玉という障害物に守られるアイテム――つまり、殺されて、埋められた自分を発見して欲しい、それが異界の成り立ちだったのだ。
「一応事件は解決したが、どうにもな……琥珀はどう考える?」
「うーん……」
ソファで自前のノートパソコンに目を向けながら、琥珀は言う。
「碌でもない事は確かだが、まぁ積極的に敵対するほどでもないだろう、ってところかね。黒玉がどうなってるのかだけはちょっと心配だけど」
「ほう」
このろくでなし度では大差ないとも言える少女も、自分の同族に対しては、情が有るとみえる。社にとっては意外なことだが。
「なんだその顔。お前もこれを見れば同じ気分になれるぞ」
言って、琥珀はノートパソコンを社の方に向けてくる。
「いや、何だそれ」
「ジェットスパイダーの使い手の、SNSアカウント」
「……は?」
思わず社は立ち上がり、琥珀の方へと歩いていった。いや、そんな、まさか?
「いやいやいや、まさか顔と本名出してやってるのか?」
「そうじゃないけど、ほら」
社は琥珀の言葉に従って、ノートパソコンの画面を覗き込む。
「あ、マジだこれ」
思わず社は言ってしまった。
画面に映されているSNSアカウントは、確かに実名も使っておらず、アイコンとして写真も使っていないが、間違いなくあの、長谷部 燐音がその持ち主であることは疑いようもない。
何せ、こんな投稿が有るのだ。
『うちの子、黒玉のちょっとえっちなイラストです』
その投稿には、社達が見た霊鎧の少女、黒玉が、その衣服をはだけさせて、白い肩や太腿を見せつけるようにしながら、後ろの壁か何かにしなだれかかっているイラストが添付されていた。
「本当に描いてたのか……」
「しかも普通に上手いな……」
描かれているのは黒玉なので、その肢体は幼いものだが、表情や仕草が妙に色っぽく、リプライや拡散も結構多くついていた。
それはそれとして――
「確かにこれは、あの娘が心配になるな」
「せやろ……」
腕を組んで神妙に眉をひそめながら、琥珀は頷いた。
やっていることの非動作も含めて、色々とあの娘達は大丈夫なのだろうか――他人事ながら、そんな事を、社は心配せざるを得なかった。
「ところで琥珀、どうやってこのアカウント見つけたんだ」
「ググったら出た」
「マジかよ」
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