モンスターレアバスケ

戸田 博子

第1話 玉枝 縁呼と中囿 美里

7月10日夏休みがもうすぐやってくる季節。

鹿児島 薩摩地方 竹の町 ひらがな三文字 “さつま”ちょう

この土地に古くからある古風な高校、薩摩甲虫さつまこうちゅう学園。

この高校に今年の4月から、入学した夢いっぱいの一人の生徒がいた。

椅子に座り机に置いてある新品の教科書と黒板を目線だけで交互に見つめ、心地よい風に吹かれて睡魔すいまと戦いながら、現代文の授業を受けていた。


「・・・この登場人物は・・・ようにして・・・・・・る・・・ょう」


現代文の“荒木あらき”先生の声がはるか遠くにいってしまう。早く、この睡魔から覚めないと、また先生に怒られてしまう。この生徒は頭の中でそう思っていてもなかなか重いを開けられずに、うつらうつらと頭を揺らし、ギリギリ起きている状態だった。


玉枝たまえ君!!!」


厳しい一声が教室に響く。


「はい、起きました・・・すみません」


体を起こし背筋をピシッと伸ばして謝罪をするこの男の名前は“玉枝 縁呼たまえ えんこ”という名前であり、この物語の主人公である。

「はい、起きたなら結構・・・残り20分、しっかり集中して聞いていなさい」

再び授業を始めながら黒板に文字を書いていく、その文字をノートに写して何とか授業についていくが、頭にはまるっきり入っていかなかった。

(うーん、まずい・・・まだ入学して4ヶ月も経ってないのに、もう授業が分からなくなってきた。このままじゃ、俺はきっとテストで赤点を取ってしまう・・・うわー、それはいやだ、中学よりもはるかに高校って難しいじゃないか)

縁呼えんこは、わしゃわしゃと髪をかきながら、これからの高校生活に不安を感じていた。


ブオーボーブオーボー ブオーボーブオーボー ブオーボーブオーボー ブオーボーブオーボーーーー


学校のチャイムが授業の終業時間を知らせる。

(なぜ、ここの学校はベルの音じゃなくほら貝なんだー?このチャイムの音が一番謎だ)


「はい、今日はここまでにします。次の授業では軽い感想文を書いてもらいますから、必ず教科書を持ってきてください。忘れた場合は授業が始まる前に、職員室に来て報告しに来なさい。他のクラスの友達から借りてはいけませんよ・・・いいですね?」


鋭い目を光らせて警告する“荒木あらき先生”の顔は怖かった。


「はい」


生徒全員が返事をして、日直の“日山ひやまさん”が号令をかける。


「起立、姿勢、礼」

「ありがとうございました」

「はい、お疲れさまでした」


感謝を伝えて授業がやっと終わった。


「はーっ、やっと終わったー・・・次は生物か!今日は全部座学とかありえない、体育も無いし、移動教室もないとかストレスで死んでしまうわー・・・なぁ、玉枝たまえ


隣に座るサッカー部の“山本やまもと”が背伸びをしながら話しかけて来る。コイツも俺も、席替えのくじで教卓の真ん前に座っているから、少しでも変なことをしているとすぐに先生にばれてしまう。


「そうだ、今日はもう大人しく授業を受けて帰りのHRホームルームを待つしかない」

「7時間目までとかサッカーする時間が短すぎだわ、あー・・・早くボール蹴りてー」


脚をぶらぶらさせながらボールを蹴る仕草をしていた。この山本やまもとという男は小学からサッカーをやっているらしく、この高校に入学してすぐにサッカー部に所属して、1年にしてスタメンを獲得して大会に出るほど上手いらしい。身長も190cmを超えており筋肉もあり大変素晴らしい体を持っている。まぁ、この高校のサッカー部が県内でどれほどの強さなのかは分からないが、放課後の帰りにグラウンドを見ると数十人が練習をしていたので大所帯なのは間違いない。あの中から11人の中に入っているから、実力はかなりあるのだろう。


「もう、日本代表には選ばれた?」

「アホ、まだ入ってないわ、まーいずれ入って見せるから待っとけよ。まずは県内で優勝、そして全国で優勝せんとな」


冗談だと思ったが、自信たっぷりに言う山本の目は本気だった。コイツは本気で日本代表になろうとしている。俺はそう直感してしまった。


「まじか!・・・じゃあ、プロになったら山本モデルのシューズ出してね。絶対に買うから・・・後、CMにTV出演も果たして」

「おう、それも全部叶えるわ、ほら俺のサインやるから捨てんなよ」


そう言って山本は自分の筆箱から黒のマジックペンを出して、俺の現代文の白紙の部分に“山本 慎太郎やまもと しんたろう”と綺麗な漢字でサインしてくれた。


「このサインの価値が後々、ヤバいぐらいの価値になるから捨てんなねー」

「うん、と言うかとても綺麗きれいな字を書くねー、もっとローマ字や意味不明なサインを書くかと思ったのに」

「習字を習ってたから綺麗なんよ。後、誰のサインか分かるようにフルネームで書く練習をしてるわ」

「へー、じゃあ、どんな人なのか分かるようにサッカーボールの絵でも書いたら、山本選手だって分かりやすいんじゃないか?」

「それいいね、・・・でもサッカーボール書くのがめんどくさいは」


実際にサッカーボールを書いてみるが、イメージはできているがなかなか上手く書けない。山本も同じで何度も円を書いては消して、書いては消してを繰り返していた。


「毎日、あれほど見てるのに全然上手く書けないので、フルネームだけにします」

「そうですか」


それでも納得していないのか、山本は何度もトライしていた。学校内での携帯は基本的に禁止であり、操作しているところを先生に見られたら、没収されて反省文を書く羽目になるのでうかつに手が出せない。携帯さえあればすぐにサッカーボールを見ることができるのに、なんかモヤモヤするわー。

そう思いながらも、俺もサッカーボールの絵を練習していた。


「お前は夢はあるの?」


急に山本が質問してくる。


「俺?・・・全くないな」

「中学まで普通にバスケしてたんだろ?確か、中学は強豪の“蛹御門さなぎみかど”出身じゃなかったっけ?」

「そうだよ、良く覚えてたな」

「いや、覚えてたと言うか知ってたわ。蛹御門さなぎみかどのバスケ部は全国でも強豪じゃねーか、玉枝たまえも普通にスタメンで全国大会に行ったんだろう?」

「うん、行ったな」

「もう、バスケはやんねーのか?」

「そうだね、ちょっとバスケはもういっぱい楽しんだから、いいかなって思ったんだよね」

「そうか、まあこの高校も結構強いらしいから気が向いたら入部すればいい、何もしないよりはましだぜー」

「だな、検討してみまーす」

「おい、もう入らないって言ってるようなもんじゃないか」

「あぁー、バレた」


そんな昔話をしながらサッカーボールの練習をしていると、またあの音が聞こえてくる。合戦でも始まるかのようなチャイムが休憩時間の終わりを知らせ、数学の先生が教室に入ってくる。


「起立、姿勢、礼」

「よろしくお願いします」


眼鏡をかけた“須田すだ先生”が首にかけたストップウォッチを外し挨拶あいさつを返す。


「着席」


皆が座り終えたのを確認し、先生が口を開く。


「はい、これから前回の続きからやっていきます。まずは40Pを開いてください」


数学の授業が始まった。

(あぁー、眠たい、お腹すいた、帰ってゲームしてゴロゴロしたいなー)

全く、授業に集中できずに早く放課後にならないか時計をチラチラ見るが、秒針が少し動いただけで、まったく時間が進んでいなかった。1秒がどうしてこんなにも長く感じるの?どうして俺は授業に集中してないの?なぜ、鳥は空を飛べるの?といろいろなことに対して疑問を持つが、すぐにどうでも良くなり興味は先ほど、山本に言われたバスケのことを考えていた。

(バスケか・・・山本はしっかり夢を持って人生設計ができているが、俺は何もできてないなー・・・このまま卒業して就職?・・・それとも進学・・・はないか。就職って言ったって何に就くの?地元の企業、はたまた県外に出てどっかの職場で働くの?・・・だめだ全くイメージができない。あれ?もしかして俺はもう、人生が終わったんじゃ、・・・いや、まだあきらめるところじゃない!)

その後も授業中ずっと一日考えたが、自分の夢を見つけることができなかった。


「では、また明日の授業でお会いしましょう。さようなら」


無事に数学の授業が終わり昼休みになったので、売店に行きパンを買いに山本と出かけた。


「焼きそばパン、メロンパン、あんパンください」

「はーい、ありがとう、全部で300円ね」


売店は人でごった返していたが、何とか買えることができた。おばちゃんたちは、いつ行っても笑顔で向えてくれるので、学校でお気に入りの場所の一つだ。


「何買った?俺はフルーツミックスとクリームパン一個だけ、弁当持ってきてるしデザートを買ったわ」


袋の中を見せて教室に帰るが、途中にある掲示板に目が止まった。


「いいな、あとでをやるから、メロンパンのあの上の部分を少しちょうだい・・・どうした?」

「山本、俺決めたよやっぱり、またバスケ始めるわ」


掲示板に貼ってある一枚の大きな紙には“挑戦・壁・敗北・挫折・復活・これを繰り返すことで人間は大きく成長できる。あきらめるな自分の夢は必ず掴める”。この五文字が筆でデカデカと書かれていた。いつも登下校で通る廊下なのにどうして今まで気づかなかったのだろう。その言葉が一瞬で脳裏のうりに焼き付き縁呼えんこの心をガシッと掴んで目を釘付けにする。


「・・・・・・そうか、そんなにこの言葉が響いたか・・・さっさと戻ってご飯食べようぜ」


多くは語らずに優しく俺の肩に手を置き教室にエスコートしてくれた。


「で、メロンパンの上の部分はくれるよね?」

「・・・メロンパン丸々あげるよ」


その後は、一緒にお昼ご飯を食べて午後の授業を頑張った。

そして・・・・・・


「では、今日はここまでまた明日元気な顔を先生に見せてください。それでは日直の日山さん、帰りの挨拶をお願いします」


担任の“つね先生”がHRホームルームを終わらせようとしている。見た目は60代のおじいいちゃんで鼻が高く、立派な大きな眉が白く、いつもニコニコと笑っており、女子に大人気な先生だ。


「起立、姿勢、礼」

「さようなら」

「気をつけてかえるんだぞー」


部室に走って行くもの、バス停に遅れまいと焦るものなど、慌てているものに声をかけながら、先生は日誌を書いていた。


「じゃあ、俺も行くわ・・・お前もバスケ頑張れよ」

「おう、じゃあな」


山本と別れて俺はある場所へと向かった。その場所は、1年3組の教室だ。自分の教室は1年1組で、一学年7クラスあり約300名はいる。全校生徒合わせて900名とかなり大きな学校だ。


「さようならー」


遠くから同じように帰りの挨拶が聞こえてきて、ガラガラとドアが開き一斉にたくさんの人たちが飛び出してくる。どうやら、帰りのHRホームルームが終わったようだ。


「今からどこ行くー?とりあえず、どこか食べに行こ」

「いねー、わたし今日昼ちょっとしか食べてないから、お腹すいてるわー」


1年3組から出て来て放課後どこに行くのか、手鏡を見て髪を整えながら女子の二人組が相談しながら歩いている。

手鏡を持っているのが“折田 美咲おりた みさきさん”、黒色にセミロングのサラサラしたキューティクルが目を奪う。とても美しいその髪もそうだが、一番の特徴はその笑顔だ、入学式に初めて見た彼女の顔から繰り出される笑顔に、心を鷲掴みされたほどだ。

(可愛いー、でも怖い彼氏さんがいるんだよなー)

折田さんの彼氏はこの学校でも有名なラグビー部の主将である、3年生の芳賀はがさんだ。一度だけ練習姿をみたことがあるが筋骨隆々の巨体を揺らしながら、タックルしている姿はまさに鬼そのものだった。

そしてもう一人の女子が俺と小学生から同じである“東新 愛莉とうしん あいりさん”だ。折田さんとは違い髪は赤茶色で毛先を遊ばせるゆるふわロールが特徴だ。縁呼とは何回か同じクラスになったことがあり、小学3年生から6年生まで三年間と一緒にバスケをやっていた。

(今日も美しいなー・・・さすが1年生の中で一番キラキラした二人だ、何か物凄いオーラが見える)

その二人を横目に通り過ぎて目的地の1年3組に到着する。

中はガヤガヤとしており、鞄に教科書を入れるもの、部活の準備をするもの、友達と楽しそうに会話するものと、放課後の風景が広がっていた。

(どこにいるかなー・・・あっ、いたー)

ある人物を“縁呼”《えんこ》は廊下側の窓から教室内を見回し、校庭側の列の一番前の席に座る彼女を見つけた。


「お邪魔しまーす」


入口で軽くお辞儀をして教室に入っていきながら彼女のもとへ歩き出す。彼女は校庭の方を見ながらこちら側には気づいていない。ただただ、席に座り机の上に左ひじを乗せて頬杖をつきながらぼ~っと眺めていた。


「・・・・・・っよ!!!」


彼女の顔の前に勢いよく顔を出しびっくりさせる。


「うわっ!びっくりしたー」


口ではそういうがあまり驚いていない、体が一瞬びくついただけで冷静を保っていた。縁呼が会いたかったこの女子の名前は“中囿 美里なかぞの みさと”という名前で、縁呼とはいずみさんと同じく小学からの付き合いであり、小学4年生から中学3年までバスケをやっていた。髪はショートであいかわらず前髪がパッツン気味になっている。身長は小柄で160あるかないかだ。


「どうした急に、何か用事?」


鞄を取り出し帰る用意をしだしながら、質問をしだす。


「そうそう、用事、もうすごい大事な用事」

「へー、そんなに大事なんだ・・・聞こう?どんな話かね?」


彼女は手を止めて姿勢を正し、話を聞く態勢になってくれた。


「じゃあ、言うぞ・・・一緒にバスケをしてください」


90度に腰を曲げて頭を下げながら、右腕をピンと伸ばし、右手を彼女の前に差し出す。


パッシ――――ン


綺麗に右手で弾かれていい音が教室に響き渡る。


「無理、もうバスケはしないって決めたの、あんたも分かってるでしょう」

「はい、中学の最後の大会で全国大会ベスト8に入り、そこそこいい成績を収めてしまって自分の中でやりきってしまったと、その何か月か後に聞かされて・・・あぁ、燃え尽きてしまったんだと思いしかたないと納得したけど・・・・・・そこをなんとかなりませんかねー?」

「うんうん、全部合ってる、合ってるのに、そこまで知っておいて頼みに来るなんて、よっぽど何かあるわけ?」


彼女のあきれた表情に笑いがでそうになるが、こうなることは分かっていた。そう、ここまでは全て想定内!俺は、早くも切り札の言葉を使い彼女の交渉獲得に王手をかける。


「・・・・・・MBエムビーに挑戦します」


この一言に彼女の顔つきが変わる。


「・・・ほぉ、詳しく!」


食らいついたー、あとは一気に釣り上げるだけだー、美里さん簡単すぎる。

心ではそう思いながらも、話を続ける。


「お金を稼ぎます。それも小銭稼ぎではなく大金を」

「自分が何を言っているのか分かっているのかい?玉枝君」


二人の間に静かな時間が流れる。

縁呼が言ったMBエムビーとは、毎年1月1日から始まるモンスターレアバスケの略である。IHインターハイWCウインターカップ国体こくみんたいいくたいかいと正式な表のビッグ行事だとすると、このMB(モンスターレアバスケ)とは、ミニソロ部門(小学生)、ツインテール部門(中学生)、トリプルホイップ部門(高校生)、クワトロフロマージュ部門(18歳以上)の4部門があり、それぞれの優勝チームには多額の優勝賞金と副賞が貰え裏のビッグ行事だ。では、なぜこの二人が急に真面目なトーンになったかといううと、この優勝賞金がとてもセレブなものとなっているからだ。その額はおよそミニソロ部門(小学生)が1億円、ツインテール部門(中学生)が10億円、トリプルホイップ部門(高校生)が100億円、クワトロフロマージュ部門(18歳以上)が1000億円となっているのだ。その他にも、男女別々の大会はなく、男性チーム、女性チーム、男女混合チームと自由に参加でき、ランダムにくじで選ばれたチームが戦うので非常に実力主義の大会になっている。

この夢のような賞金は世界の超大富豪たちによる日本バスケ業界への投資により、実現したものである。これでもすごいが、USAのUMBAウルトラモンスターレアバスケットボールアソシエーションは世界でNO.1のリーグである。もちろん選手や契約金などは比べ物にならないほどワールドだ。それほど世界はバスケットに熱狂しており、スーパーブームが来ていた。

(・・・・・・まぁ、これぐらいにして話を再開しよう)


「美里は今、夢はあるか?」

「え?どうしたの急に、恥ずかしいんだけど」

「だよな、まあ俺は無いけど」

「私に聞いといてあんたは無いのかい」

「だからだよ、やることが見つからないから不安でたまらない、もし、このまま高校を卒業したらどうする?何か考えてる?」

「いや、全く考えてないけど、たぶん進学してから就職かなー」

「それでいいのかー!?」

「いいのいいの、今はそれぐらいしか考えてない、ていうか思いつかない」


眉をひそめて右上を向きながら美里は考えていたが、それ以上の答えは見つからずに考えるのをやめてしまった。


「とにかくそんな先のことを考えるなんて無理だわ」

「甘~い、甘々の甘ちゃんだわ、先って俺たちの青春はすぐに終わって不安の塊、“現実”がやってくるぞ」


両手で頭を押さえてまわ髪をわしゃわしゃする縁呼。


「そんなこと言われても私には本当にその現実がまだ見えてこないんだよねー」


腕を組み頭をかしげながら頭をかしげる美里。


「とにかく、俺はこのまま負け組で人生を終わるのは嫌だ」

「負け組って、あんた・・・生まれたときから勝ち組だろうがー」


大きな声で間違いを指摘される。彼女が指摘するのも無理は無い、何を隠そうこの主人公“玉枝 縁呼”は日本の長者番付に載るほどの有名な資産家、玉枝たまえグループの会長“玉枝 縁開えんかい”の息子である。


「ちょっと親に甘えたら、謎の力が働いて好きな会社に入れてもらえるんじゃない、何をそんなに焦ってるの?」

「父さんは確かに凄いけど、俺も何か凄い人になりたいんだよ。このままじゃ、他人から見ればお金持ちの息子で見られているけど、それを取ったらただの一般人と変わらないからね。俺は、一生凡人のままで終わってしまいそうだからねー、・・・それは嫌だ」

「はぁ、贅沢な悩みだねー、私だったらもうに抱っこに、甘えた生活を送ってるね」


白けた目で彼女に見られながら願望を聞かされる。


「一旦、父さんの話は置いといて、美里・・・頼む一緒にバスケをやってくれるか?」

「まあ、凡人で終わりたくないと言うのは分かった・・・でも、この大会に参加するって無謀すぎる、全国の猛者が集まる大会に、約1年はブランクがある私たちが勝てるほど簡単じゃないよ」

「分かってる、そのための俺がいるじゃないか」


??????????


彼女の頭の上にたくさんのハテナマークが浮かんだのが見えた気がした。


「何を言ってるんですか?」

「お前にはこの俺がいるといったんだ、よかったねー」

「全く意味が分からないんだけど」

「このお金持ちの俺と友達という幸運こそ、お前はすでに勝ち組なんだよ」

「はい、続けて」

「これから二人でチームを結成して、仲間を集めて3年時の最後の大会に優勝する。そのときに就職か進学が決まっていればそれで良し、上手くいかなければ父さんに頼んで就職先を紹介してもらう。どう、その先のことも考えてあるし、完璧でしょ」

「おぉー、すごい・・・でも優勝できなかったらどうするの?億のお金を自分たちの力で手に入れて、初めて真の勝ち組じゃない?」

「安心して、必ず優勝するさ、この俺がさせてあげる・・・中学の時以上にバスケに命をかけるから、信じて俺に残りの高校生活賭けてくれないかな、お願いします」


気付けば俺は土下座をして中囿 美里に頼み込んでいた。

ざわざわ、ざわざわと周囲の反応が俺たちに向けられている。土下座なんかしているから、皆何事なのかとひそひそと会話しながら見ていた。


「・・・・・・分かった。その熱意に負けて賭けに乗ってあげる」


沈黙を破り、彼女が賭けに乗ってくれた。

(よっしゃ――――!)

心の中では大声で雄たけびをあげながら喜んでいる自分がいた。


「ありがとう・・・・・・じゃあ、よろしくお願いします」


彼女の手を握りブンブン振り回しながら感謝を伝える。


「痛い痛い、もう手を離せ・・・分かったから」

「あっ、悪い」


すぐに手を離し、隣の席に座りながら今後のやることを説明する。


「その前に、ここのバスケ部に入部して練習しながら大会に参加するの?」

「いや、部活には入らない。俺たちは野良として大会に参加することにする。部活に入ったら先輩や顧問の先生との関係、部活のルールや練習時間など制約が多すぎる。そんなものは中学で散々味わったから、もううんざりだ。自由にやるためにも入部はせずに個人で練習をする」

「なるほど、部活に入らないとすると・・・じゃあ他のメンバーはどうするの?バスケ部に声をかけるワケにはいかないし、そこらへんは考えてる?」

「いや、全く考えてない美里を最初に確保して、残りのメンバーは徐々に集めて行こうと思ってる」

「ほうほう、つまり練習のまえにメンバー集めが最初か・・・目星はつけてる?」

「ううん、つけていない。本当に金に興味がある人でいいかなーって思ってる。経験者や未経験者は関係ない。上手くなろうという人なら大歓迎。できるなら人一倍“金を愛しています、金が全てです、守銭奴です”という人に入ってきて欲しいなー、そういう人ほど目的のため努力するからな」

「なんか分かる」

「女、男どちらでもいいから、とにかく美里も友達や知り合いに声をかけてみてください」

「了解」

「それでは優勝目指して頑張りますか」

「うん、やろうか」


二人で敬礼してここに勝ち組になるために、MBエムビー(モンスターレアバスケ)で優勝する夢を持った二人が誕生した。

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