子供のころの話。
じょんぼぬ
第1話 座敷の住人
自分が小学校にあがる前ぐらいのことになるだろうか。
我が家には、両親と祖父と、年が10歳ほど離れた姉が2人いて、自分は末っ子長男というやつだった。
祖父がいるならば、祖母もどこかにいるはずなのだが、祖母がいないことを疑問に思うこともなく、あるがままの家庭環境を受け入れていたように思う。
自分が幼い頃、祖父は既に定年退職しており、年金暮らしだった。
両親は共働きで昼間はいなかったし、姉たちは中高生だったこともあって、幼少期の自分が一番遊んでもらえたのは、祖父だった。
公園にも連れてってもらったし、おもちゃも買ってもらったし、今思えば甘やかされていたものだ。
なに一つ不自由なことなどなかった。
典型的な「おじいちゃん子」になるのは必然だったであろう。
夜寝るときも、自分の寝室から祖父の部屋に抜け出して、一枚の布団の中で添い寝をさせてもらっていた覚えがある。
祖父の腕枕は快適だった。
高すぎず、硬すぎず、暑苦しくなく、ちょうどいい感じ。
私の頭を腕にのせて眠る祖父は、きっと狭いやら重いやらで、寝苦しかったに違いない。
我が家は一番古い主屋に隣接してひと世帯分を増築していたものだから、古い部分と新しい部分と継ぎ接ぎだらけのヘンテコな家だった。
祖父の部屋は、我が家の主屋の座敷の部分である。
夜の座敷は、なかなか雰囲気が出ていて、今にも出そうだ、とびびっていたものだ。
戸がきしむ音。障子に映る影。
なんとなく感じる、視線。
たぶん、実在しないのだろうが、
いるわけもない何かが、すぐ近くにいるような気がして
隠れるように、見つからないように、
いつも布団に潜って、眠りについていた。
ある夜のことだった。
例によって、祖父の横にもぐりこんでいたのだが、この日は、なかなかすぐに眠ることができなかった。
真夏日で蒸し暑かったような覚えがある。
この頃は、エアコンなんてものはなく、扇風機があるだけ。
祖父は夏場、いつも股引に下着Tシャツという格好で寝ていた。
自分もそれに倣って、パジャマを脱ぎ捨て、下着姿になって寝ようとした。
暑かろうと、布団に隠れるように潜るのをやめることは、できなかった。
布団の外に顔を出すと、見えない何かに見つかってしまいそうで怖かった。
この日は、布団に潜っているのもなんだか辛くて、息継ぎをするように、布団から顔を出した。
すると、そいつに鉢合ってしまった。
布団を覗き込むように、畳に伏せた人影。
何かがいると察知した私は、すぐに布団に潜って隠れた。
どんな風貌だったとか、男だとか女だとか
もう一度確認する勇気なんてなかった。
見てしまったなら、何かされると思った。
祖父は、穏やかな寝息をたてていたが、起こす勇気もなかった。
自分が起きていること、そいつの存在に気付いていることを、そいつにバレたくないと思った。
どこかに消えてくれ、と願うばかりひたすら怯えていた。
長い夜だった。
自分はいつの間にか眠っていたらしい。
次に気づいた時には、もう外は明るくなっていた。
昨夜、そいつがいた場所には、自分が脱ぎ捨てたパジャマとブランケットが転がっていた。
ちょうど、自分と同じくらいの子供が蹲っているような感じだった。
子供のころの話。 じょんぼぬ @john_ogui
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