邪神

狼少年源

第1話 素性

 情性欠如者、すなわち心を持たない犯罪者による大量殺人事件は、有史以来過去何度も繰り返されてきた。そしてその犯行内容は、年を重ねる毎に凶悪化の一途を辿る。

 令和の世を迎えた今、この世に災いをもたらす新たなる鬼が、京都の街で覚醒した。その忌み名を、ムラカミヤスキヨと呼ぶ。ヤスキヨは昭和60年乙丑の年、丑の月、丑の日12月28日の午前2時、丑の刻にこの世に生を受け、齢35となる。

 その家格は、江戸の世まで遡る時、大和の国の小藩の藩医を勤めて以来、代々に渡り医療の道に携わる。

 彼の父隆清は、開業医として長年にわたり京都の医師会を、席巻し、彼を除いた一族の皆は、臨床医としてその名を馳せた。ヤスキヨの家にとっては男に生まれた以上、そうあることが当たり前とされたし、それ以外の道を選択することは許されなかった。

 医学の道を志せども、患者と向き合い診療に携わることを頑なに嫌ったヤスキヨが、父と折り合いをつけた妥協点は、基礎医学の道に進み、家を出ることだった。

 村上家の家督は、兄の吉清がすでに継いでいたし、曲がりなりにも医学者の端くれとして生きるヤスキヨの決意を、無下に却下する訳にもいかない立場の父も、父には違いなかったことが、彼にとっての救いだった。

 ヤスキヨは父の肝いりで、東京都にある国立感染症研究所で働いた。彼の研究テーマは、薬剤耐性菌についてだった。

 新薬の開発と新たな薬剤耐性菌の出現は、いたちごっこの様相を呈する。医学が劇的進歩を遂げ続ける今日であっても、その図式は変わらない。そんな日々重ねられる研究のなかでヤスキヨは、恐るべき耐性菌の出現に遭遇したのだった。


 


 

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