戦いの火蓋

 さて、シャルロットとウラギールと合流した俺らは、デュラハンの消えた場所に向かってる。


 すでに作戦は話し合っていたのだが、一応おさらいの意味で、道中でマリオンに『カウンター』の説明をしてもらう。

 マリオンによると『カウンター』の発動中は、あらゆる物理攻撃が無効化されるそうだ。

 単純な攻撃だけでなく、炎や雷、冷気なども効かない。衝撃波、マジックミサイル、光魔法のレーザー……すべて無効化される。じゃあ何なら効くかといえば、例えばアンデッドの生命力吸収や、あるいは精神魔法が効くらしい。

 また、発動にはリスクも時間制限もない。つまりずっと発動していれば、あらゆる物理を無効化しながらオートで反撃する、無敵に近い状態になれるのだ。そして受けた攻撃力に上乗せして、超威力の一撃を繰り出す……伝説級と呼ばれるだけあって、かなりチートなスキルである。回数無制限で不意打ちにまで完全対応してるとは!


 もっとも『カウンター』は、『メガクラッシュ』と違って連発できない。一度放った後は、数秒のクールタイムが必要となる。つまり打ち終わった後の数秒間は、こちらの攻撃がそのまま当たる。

 ならば、俺の方は何も考えずに『メガクラッシュ』を連発して、ひたすらゴリ押せばいい。もしも半分が無効化されても、十発も撃てば終わるだろう。

 体力は充分、『霊剣マクドウェル』もある……あとは異次元から奴を引っ張り出せば、問題なく倒せるはずだ。デュラハンを倒す準備は、もう完璧に整っていた。


 しかし、俺にはひとつ気がかりがある。俺は、隣にいるマリオンをそっと見やった。

 今のマリオンは黒いワンピースに、ヴェールの付いた黒の帽子を被ってる。どちらも、ユーフィンの服屋で買ったものだ。

 一見してわかる……喪服だった。

 その喪服は、かつての仲間の『剣聖カノッサ』に当てたものか……もしくは、自分の身体のためだろうか? ……きっと、両方なんだろう。

 マリオンは無表情に近い顔で、口数も少ない。なんだか、そのまま消えてしまいそうなほどにはかない空気をまとっている。


 ……こんな状況で連れて行って、大丈夫かな?

 そう、俺の気がかりとはマリオンの精神状態である。デュラハンを倒せばマリオンの身体は、間違いなく惨いダメージを負うだろう。いまや首もなく、アンデッドと化したとは言え、かつての自分の身体が蹂躙じゅうりんされる様を前にして、冷静でいられるわけがない。今回の出来事はマリオンの人生においても、一二いちにを争う辛い思い出になるのは間違いなかった。

 今のマリオンは、精神的にとてももろい……果たして、その衝撃に耐えられるのだろうか?

 俺は、あえて軽い調子でマリオンの肩を叩く。


「マリオン。無理しなくても、いいんだよ?」


 マリオンは、ゆっくりと首を振ってから消え入りそうな声で応じた。


「……頼むよ、ジュータ。オレも一緒に行きたいんだ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る