その武器を携えて

 俺は椅子に腰掛け、ウラギールに向き合って言う。


「……で、ウラギール。今日、うちにきた用件は?」


 ちなみにシャルロットは手足を拘束されたまま、俺の手でアイマスクと口枷をほどこされ、部屋の隅に転がっている。そのままにしておくとギャーギャーうるさくて、話が全然進まないからだ。

 時折、「ふぅ、ふぉろひぇ!」とか「ふぉー、ふぁふてぃーふ!」なんて声が聞こえるが、無視する事にする。

 さっきのやり取りで、本当にシャルロットが納得したのか謎だが……まあ後のフォローは、ウラギールに任せておけばいいだろう。彼ほどシャルロットの扱いが上手い奴はいない。


 ウラギールが封書を出して、緊張を含んだ面持ちで言う。


「ジュータさん。デュラハンが、うちの王国に入ってきました。まだ国民は殺されていやせんが……被害が出る前に動いていただきたい。明後日には、町を出てもらいやす。旅支度をしておいてください。西のモンスターを先に退治できたのは、幸いでした。……あっしらも、同行させていただきやす」


「ああ、わかった」


 予想できた内容だったので、俺はすぐに頷く。

 しかしウラギールは、真剣な声で続けた。


「それと……国王より、『霊剣マクドウェル』の使用許可が出ました」


「えっ。マ、マジ?」


 俺は慌てて王家の封蝋のされた手紙を開く。そこには確かに「霊剣マクドウェルをたずさえて向かうべし」と書かれていた。

 ウラギールが補足するように言う。


「どうやら例のデュラハン……ドラゴンキラーを1人、殺してるらしいんですよ。もっとも、魔の山のエンシェントドラゴンや、ジュータさんが倒した双頭竜ダブルドラゴンと比べて、はるかに小物だったらしいですがね……しかし少なくとも、今回はドラゴン級の敵であると、王は判断されました」


「そんなに強敵なのか……!」


 デュラハンなど、所詮はドラゴンと違って人型で、ブレスも吐かないと舐めていた。しかしそれを聞いて、俺は認識を改める事にした。


 国宝『霊剣マクドウェル』……半年前、ドラゴン退治で手にした武器である。

 それは天才鍛治師のデビット・マクドウェルが、22才の時に全身全霊を込めて作り上げた、究極の一振りだった。

 彼は、この剣を作り上げた瞬間に「俺は生涯、これを超える武器は生み出せない」と確信し、鍛治への情熱を一切失ってしまったそうだ。以来、酒浸りの自堕落な日々を送っている。

 最近では俺との付き合いもあって、多少はやる気を出してるようだが、それでも霊剣の話になると、「あれは俺の最高傑作だ。神にも悪魔にも通用する武器だぜ」と、枯れた老人みたいな目で呟く。

 神の呪いを解くのをおこがましいと鼻で笑う男が、自分の武器なら神を殺せると言うのである。とんでもない自信だ。


 だがそれは、決して大袈裟ではないだろう。『霊剣マクドウェル』は伝説の武器と比較しても、勝るとも劣らない力を持っている。

 剣は素人の俺が持ってさえ、岩をバターのように切り裂くし、物理的な攻撃力だけでなく、霊的な存在にまでダメージを与える白銀の刃は、どれだけ乱暴に扱っても鈍る事がない。

 さらには相手の二手先、三手先を直感的に伝える予知能力を持ち、光を反射して陽炎かげろうのように揺らいで見える剣身は、太刀筋を隠して目を眩ませる。

 俺がドラゴンに楽勝で勝てたのは、あの武器にるところが大きい。もしも普通の武器で挑んでたら……まあ、勝てなくはないだろうが、かなりの苦戦を強いられたはずだ。


 ちなみに国宝なので、使用には王の認可が必要となる。

 もしも俺が転生してなかった場合、レアスキル持ちで、なおかつ国一番の剣の使い手である、アホの女騎士シャルロットが携えて、ドラゴン退治に向かう事になってたそうだ。

 きっとシャルロットなんかに持たせたら、猫でも追いかけてどっかに置き忘れるか、誰かに騙されて詐欺られるかしてたに違いない。

 あやうくデビットの最高傑作を、ドブに捨てるとこだったわけだ。こえー話だよ、まったく……。

 俺は、床の上に転がされてよだれをダラダラ垂らしてるシャルロットを見て、そう思った。

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