遅れてきたウラギール


 ……えーん、うえーん。


 尋問開始から55分後。『開かずの間』には、マリオンの泣き声が響いていた。しがみつくマリオンの肩を抱きながら、俺も悔し涙を流している。

 シャルロットが、テカテカと光った顔で汗をぬぐう。


「ふぃー。……いやあ、良い仕事をしました! 王国の平和は、私が守るっ!」


 結論から言おう。

 俺は、マリオンを守れなかった……あんなに頑張ってライブしてくれたマリオンを、アホのシャルロットの『はずかしめ』から守れなかったんだ!

 俺は、マリオンに頭を下げる。


「マ、マリオン……マジでごめんよーっ! 俺が不甲斐ふがいないばっかりに……代われるもんなら、代わりたかったよーっ!」


 マリオンは、涙でグシャグシャの顔を俺の胸に押しつけながら、ぶんぶんと首を振る。


「う、ううん! ジュータは、精一杯に励ましてくれた! オレ、とっても感謝してる! ジュータがいなかったら、こんなに頑張れなかったよお! で、でも……あの女、ぜんっぜん聞く耳もっちゃいねーのな!?」


 とにかく、シャルロットの中では「巨悪を捕らえた私ってスゴい!」の結論が先に決まっているため、マリオンがどれだけ真摯しんしに訴えても、絶対に受け入れようとしないのだ。

 マリオンは結局、シャルロットの脅しと弁明のむなしさに耐えかねて、「自分は悪の組織の総帥であり、この国の転覆てんぷく目論もくろむ犯罪者です」と、涙ながらに認めてしまった。


 屈辱である……つーか、シャルロットに尋問やらせたら、冤罪えんざい生みまくりじゃねーか! こいつ、自分の気に入る答え以外、絶対に聞こうとしないんだもん! マジひっでーぞ!?


 マリオンがまた、俺にひっしと抱きついて泣く。俺もマリオンを、ひっしと抱きしめ涙した。

 うーん……なんか俺らって、今日は朝から泣いてばっかだなぁ。


 無力感を噛み締める俺たちの前にウラギールが現れたのは、それから数分が経っての事だ。

 ウラギールは部屋の惨状を見るなり、こう言った。


「あらら……こりゃまた、派手にやらかしましたねえ。遅れちまったようで、すいやせん」


 心底申し訳なさそうにペコリと頭を下げるウラギールを見て、とても満足気な顔をしたシャルロットが言う。


「おお、ウラギールか! ちょうど今、大悪人を捕らえた所だ。この幼女はなんでも、『じゃんくふうど21』とかいう組織の総帥だそうでな。『まあじゃん』とか言う不可思議なゲームを使い、婦女子の服を脱がせる魔術を身に着けてるらしい。

 その後は『みそにこみうどん』とか言う真っ白な極太麺を茶色い汁で煮込んだマッドローパーのような料理をぶっ掛け、『えびふりゃー』とか言う海老をゴツゴツした岩肌の如き衣に包んだサイクロプスの棍棒にも似た謎の料理を食わせる事で、洗脳できるスキルを有してるんだとか。

 世界征服を狙う不倶戴天ふぐたいてんの敵ではあるが、こうして反省して哀れに泣いている事だし、王に上奏じょうそうして斬首は勘弁してもらい、日の差さぬ地下牢に一生幽閉くらいが妥当であると思うのだが……どうだろう?」


 ウラギールが俺を見る。俺は、黙って首を振った。

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