こいつはウラギール……本物のナイスガイさ!

 俺の言葉に、ウラギールは懐から封書を取り出す。


「おおっと、遅れやした! これ、国王より書状です。ほら、例の『デュラハン』……ついに、うちの王国にも来るんじゃないかって話でしてね。騎士団はモンスターの大量発生に、てんてこ舞いでして……もしかしたら、近いうちに出向いて貰うかもって内容ですよ」


 俺は封書を受け取り、王家の封蝋を見つめながら言う。


「デュラハンって……ああ、アレか。……え。アレって、まだいるの?」


 くだんのデュラハンは半年前、幽霊やアンデッドの巣窟となっている東のダンジョンから出現したらしい。己の首を左手に抱えて各地を放浪し、名のある戦士や英雄達を殺して周ってるんだとか。

 半年前の俺は、転生してきたばかりだった。噂として耳にはしてたが、ドラゴン退治で忙しかったので、大して気にも留めなかった。

 封書を開けて、文面に目を通す。内容は、ほぼウラギールの言ってたままである。


「ふうん、俺が行くのはかまわないけど……。でも、西のモンスターは長引いてるよなぁ。騎士団がすぐに倒すって、シャルロットが息巻いてなかったっけ?」


 ウラギールは渋い顔を見せる。


「ええ、そのつもりだったんですが……。あまりに数が多過ぎて、苦戦してやす。とにかく、デュラハンとモンスター、両方は騎士団じゃあ対応しきれませんからね。ジュータさんのおチカラ、お借りする事になるやもと……」


「わかった。仕事だもんな。がんばるよ!」


 なお、貴族としての俺の爵位は『倒威爵とういしゃく』という。これは、王国の兵士や騎士たちでは対応できない強大な敵に対し、直接出向いて倒す役目だった。領地は持ってないが、敵を倒せば莫大ばくだいな褒美がもらえるし、他の貴族や王族からは、伯爵級の扱いをしてもらえる。

 乱暴に言ってしまえば、いわゆる用心棒である。もっとも、ドラゴン級の敵を倒せるような奴は世界に何人もいないので、この国でも『倒威爵』は俺一人だ。

 ウラギールが立ち上がった。


「それじゃ、あっしは西に戻りまさぁ! シャルロット隊長が、まーたひとりで突っ走ってるかもしれないんでね」


「ウラギールも大変だなぁ」


「キヒヒッ……あっしは王国に忠誠を誓った身でさぁ。あんな隊長でも、あっしはしたっておりやす。……まったく、この国は良い国ですよ。土地は豊かで、民衆は明るい。この素晴らしい国を守るためならば、あっしはいくらだって頑張れやす。……ウキィーッヒッヒィ! ヒィーッヒッヒッキィヒャーッ! 」


 ウラギールは額に手を当て、白目を剥いて、狂ったように哄笑こうしょうを上げる。マリオンがギョッとして、眉をひそめ彼を見つめた。


 うーん。それにしても、ウラギールって……本当に良い奴だよなぁ!

 いやま、正直ね。俺も最初に出会った時は、ヤバいと思った。見た目こんなだし、笑い方はキッヒッヒだし、名前はウラギールだし……いつか絶対『裏切る』わって。

 だけど、ウラギールは間違いなくナイスガイだ。


 というのも、こいつの上司、女騎士のシャルロットが相当なポンコツというか、敵を見つけると大声で「フォー、ジャスティース!(正義のために!」なんて叫びながら後先考えずたった一人で突っ込んで、あっという間にボコられて、「くっ……殺せ!」とか言っちゃう奴なのだ。


 で、ウラギールはそのたびに『ハイディング』を使い、敵のド真ん中まで命がけで助けに行くのである。そんなシャルロットのお守りを、もう5年も続けてるんだとか。

 隻眼もシャルロットを助けた時の名誉の負傷だし、白髪になったのも心労のせいである。ちなみに、唇を片方だけ持ち上げてるのは顔の筋肉がストレスで引きつってるからだし、ガリガリなのもシャルロットのせいで胃が痛くてメシが食えないからだった。


 いやもう、カワイソすぎでしょ、ウラギール!

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