アイテム名は『恥ずかしい板』
食事後、俺はマリオンに屋敷の中を案内する。
どの部屋も使ってなかったので、
主要な部屋を一通り回った後でマリオンに、どこでも好きな部屋を使っていいと伝えると、「どこも広すぎて落ち着かない、もっと小さな部屋がいい」と言う。
俺は腕を組んで考えた。
「もっと小さな部屋……? あ、俺の隣の部屋なら小さいけど」
というわけで、まず俺の部屋へ行くことにした。なぜなら、隣と広さが一緒だから。
空き部屋を見せるより、家具が置いてある状態を見せた方がいい。だって住み始めた後で「家具を置いたら狭く感じる」なんてなるかもしれないだろ?
うーん、気が回る俺って、頭いいね!
俺は、自室のドアを開けながら言った。
「普段は、ここで暮らしてんだ。どんな感じか見てくれよ」
先にマリオンが、テコテコと部屋に入る。俺も後から続いて……ん、うむっ?
……なんか、とんでもない事を忘れてる気が。
机の上に立てかけてあった『物体』が、それを見つめるマリオンが、この目に入ったからである!
それは、ヘタクソな『絵』を貼り付けた、一枚の板だった。その絵がどういうものか、あえて
描かれていたのは、俺のお気に入りのエロゲ、『
ちなみに、こいつの製作者は……他でもない、俺だった。
エロゲのない環境に耐え切れなくなった俺は、記憶を頼りにお気に入りのエロゲのワンシーンを再現した絵を描き起こし、それを板に貼り付けて『仮想モニター』に見立てて、妄想の中でエロゲをやっていたのである。……いや、もう今すぐ殺してくれ!
身体がガクガク
死にたい、死にたいほど恥ずかしい。
なぜだ……なぜ俺は、アレを隠さなかったんだ!?
おそらく、広い屋敷に一人の時間が長過ぎて、『他人が部屋に入る』という
俺は顔を真っ赤に染めて、「うぎょー!」だの「あびゃー!」だのと叫びながら、頭を抱えてのたうちまわった。一通り叫び終わると、今度は板をジッと見るマリオンに、震え声で言った。
「あ、あははははっ、わ、笑っちゃうでしょおー? そ、それさ、なんか道に落ちてて……すげえ笑えるから拾ってきて……だ、誰が作ったのかなぁ……? それっ、単なるお遊びで……あの、ヘタクソな絵で……っ、ほ、本気じゃないんだよ? わかるよねっ!?」
今さら取り
しかし、マリオンは真剣な表情で板を持ち上げると、こちらに向けながら言った。
「これ『愛らぶ☆魔女審判』の京極ミスズだよな? それも2週目じゃないと解放されない、至高のサキュバスルートの『究極変態エロ魔女モード』……。奴隷市場でも『モモイロ
マリオンが上目
「もう
互いの視線が交差する。こ、これは……?
しばし
マリオンの顔が、パッと輝く。
「そ、そうかっ! 実は、オレもなんだよ! オレもエロゲが大好きだ! しかも『愛らぶ☆魔女審判』で最初に攻略したヒロインは、お前と同じ京極ミスズ! 可愛いよなぁ、ミスズ! やっぱ、ロリは大正義だぜ!」
その言葉に俺は、唇の端が持ち上がるのを止められなかった。
俺はニヤニヤしながら言う。
「そ、そうなのぉ……!?」
二人して顔を見合わせ、「ぐふふ」と笑う。
そりゃ、こんなヘタクソな自作エロ絵や、恥ずかしい使用方法を見られたのはショックだった。
それでも異世界でずっと一人で抱え込んでたマニアな情熱を……思い出を共有できる仲間を見つけられた嬉しさが……膨らんでゆく!
ここには、アニメもマンガもラノベもインターネットも、そしてもちろんエロゲもない。
俺たちオタクは、この異世界では何も『消費』する事ができないのだ。
それに耐え切れなくなって、俺は暴走した。欲望を満足させるためには、自らの手で生み出すしかなかった。
俺は必死で絵を描いた。心を込めて板に貼り付けた。だって、それしかできなかったから。
だけど絵を描いて、一人で妄想して……それじゃ全然足りなかった。
俺はエロゲがプレイできないなら、せめて俺の好きなエロゲの魅力を、存分に人に語りたかった。
デビットにエロゲの話をしてたのも、そんな思いからだった。……あいつ、全然興味なかったけど。
俺は目尻に浮かぶ涙を、指先でそっと
だって、俺の求めてやまなかった……エロゲの話をできる人が……今、やっとここにいる!
と、そのマリオンが絵をまじまじ見ながら、感心した声を出した。
「ジュータ。これ描くの、大変だったろ? 『性剣セクスカリバー』もディティール
俺は恥ずかしさで目を逸らし、ボソボソ言う。
「い、いや。そんなじっくり見ないでくれ……だって、ヘタクソだろ?」
マリオンは、ムッとして言った。
「あのな! 最初は、誰だってヘタクソなんだよ! 大事なのは、情熱を持って続けること。お前はまだ若いんだし、いくらでものびしろあるだろ? もっと自信持てよ! 確かに、技術はまだまだだ。でも、ジュータの絵はちゃんと『好き』が伝わってくる。描き続ければ、絶対に上手くなるはずだ」
そしてマリオンは俺の絵を指差して、ここは良いとか、ここが良くないとか、細かく評価をはじめた。
驚いたのが、マリオンの指摘はどれも正しく、時には的確なアドバイスまで含まれていた事だ。その一方で、俺が良く描けたと思った所はとても褒めてくれ、力を入れた部分にしっかり気づき、ちゃんと努力を認めてくれる。
俺はそれを聞きながら、まんざらでもない気持ちになっていた。
きっと俺の心の中にも、どんなに下手で恥ずかしくても、やっぱり自分の作品を『人に見てもらいたい』という気持ちがあったのだろう。
マリオンが俺の絵を見て、ちゃかしたり笑ったりしなかったから。
その表情が真剣なものだったから。
俺は、それに気づくことができたのだ。
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