戦いは数だよ。兄貴。

「遅い·····。」



宣戦布告から今日で15日目。


まだシュウ達は戻って来ない。



成り行きで法の神殿の守備隊長の様なポジションに着いてしまったロンフーは、イライラした様子で最上階にある大神官の執務室の窓を眺めた。


窓の向こうには、地平線を埋めつくす数の魔物達が群れをなしている。


どう少なく見ても100万匹以上いるだろう。



「口さがない者達はあの3人が逃げたなんて言っている様だな。」


執務室の机に座る元神官長、現大神官のツンデレオヤジが沈痛な面持ちでため息をつく。

勿論、彼等はそんな噂など信じていない。


ただ今の状況には、そんな感情論等入る余地がない。いないものはいないのだ。


むしろ、目の前に見える100万の絶望の前には、仮に彼等がいたにしても意味はないとすら思えた。



「逃げる訳ねぇ。少なくとも俺達守備隊100名の中にはそんな事言う奴はいねぇです。むしろ新手の訓練とか思ってそうだなんて言ってまさぁ。」


はっ。と苦笑を交えて吐き捨てるロンフー。



いつも気軽にとんでもない数の魔物と戦わされた。


冒険者は体が資本である。

当然、安全マージンは大きくとる。

少なくとも自分と同レベルの魔物を数百匹も呼び出して突っ込んだりしない。

ましてや、それが効率的だと言い放ち、1日何千匹も戦ったりは絶対にしない。


そうして鍛えられた守備隊100人がいれば、数千匹の魔物の群れ等であれば確実に相手に出来るだろう。



「100万の魔物と4柱の魔王に大魔王が訓練相手か。相手に不足はなさそうだな?」


「任せてくだせぇ。既に全員所定の位置についてる。蹴散らしてやりますよ。」



そしてその一言と同時に、窓の外の魔物達が動き出した。




【ぐふははははははははっ!痛快!爽快!見よ!我が軍の勇姿を!】



魔物の軍勢の最奥。

本陣には、まるでカエルのような顔をした巨大でふとましい悪魔が座して笑う。



【確かに奴らは強いのだろう。それこそ我ら魔王を打ち取れる程に。だが、所詮は100人ほどの寡兵よ。無敵の石ころでは、津波を止める事は出来ん!広域に広がり、一気呵成に攻め立てよ!!あの忌々しい神殿を落とせ!!】



戦場を映し出す映像を見ながら悪魔は笑う。


魔王ムードエル。


デモクエ6では最初に戦う事になる魔王。

今回の本隊を与るのは彼だった。


ムードエルの言う通り、ランチェスターの法則の中でも第2法則に言われる様に、戦争において兵数と言うのは重大なウェイトを占めている。


さらに魔物達の目的はあくまでも法の神殿。


どれだけ強かろうが、たった100人で全方位から間断なく攻められては決して守る事は出来ない。


それは純然たる事実であり、どれだけレベルを上げようとも、覆されるものでは――。




「総員!!!!!」


「「「「大地の化身よ!『怒涛の羊呼び』」」」」


『ンヴェェェエエエエエエエテエ!!!!』



神殿を攻めるべく並んだ魔物の巨大な群れの横っ腹に突如として召喚された羊の群れが突っ込む。


数十万、数百万匹の奔流は白い津波となって魔物を襲う。



戦いは数の多い方が有利。

1万倍の兵力差の前では、神殿は守りきれない。


そんな事実は守備隊としても当然の認識だ。


青い顔をして逃げようと提言した守備隊達に、異界の勇者はあっけらかんと言い放った。



「敵が100万ならこちらは1億用意すれば良い、か。最初聞いた時は何を馬鹿な事をと思ったが·····。」


「はっ。あの旦那は言う事なす事滅茶苦茶だが、出来ねぇ事は言わねぇお人だ。まぁ俺らもおかしいとは思うけどな。守りきれないなら攻撃される前に相手を倒せば良いだろとか最高に頭が悪ぃ。」


「オラ!くっちゃべってんじゃねぇ!羊班!喉が裂けても召喚し続けろ!喉が裂けりゃあ回復してやる!」


「お嬢にか?」


「やめてくれ。聖女殿に回復されても辛そうな顔してたら、あの親バカ勇者殿に睨まれる。」


「ウチの娘の回復にケチをつける気かってな。」


ゲラゲラと笑いながらも攻撃の手は緩めない。

そこには冒険者崩れの無法者や、戦う事すら放棄して捕虜となった神官はいない。


世界有数の大魔境で戦い抜き、圧倒的理不尽異界の勇者に挑んだ歴戦の戦士がそこにいた。




【く、くそぉ!!何だこれは!!】


魔王軍本陣の天幕の中でムードエルが激昂して座っている椅子の肘掛を殴り潰す。



中空に空から見た戦場の映像が映し出されている。


そこには、神殿を攻めるべく長方形型に並んだ魔物達の群れを食い破る白い奔流が映し出されていた。


【あまり見ないスキルだが、間違いなく軍隊呼び系のスキルだな。羊を呼び出すとは珍しい·····。あの系統のスキルは使用者のレベル依存だ。果たしてどれ程の猛者が使ったのやら·····。】


強敵と闘える予感にニヤつきながら赤黒い肌の悪魔、魔王デューエルが戦況を分析する。


【な、ならば術者を相応の戦力で持って倒せば良いだけだろう!!】


狼狽しながらムードエルが怒鳴り散らす。


【クハハハハ!然り!然り!ならばそこでゆるりと待て。吉報を届けようぞ!】




大魔王軍本陣より、デッドムーア軍最強の魔王たる武人デューエルが出陣する。

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