いつか失くした物
地平線の向こうに太陽が沈む。
どこまでも続く緑の草原を茜色に染め上げ、優しく流れる夏の風が舞う。
ああ。もうすぐ小麦の収穫だな。
私は草原に立つ我が家の窓から横の畑を見渡し考える。
庭では子ども達の遊ぶ笑い声が聞こえ、真っ白いシーツや服などの洗濯物が並ぶ。
私は洗濯籠を持って洗濯を取り込もうと庭に出る。
家族が多いので洗濯だけでも一苦労だ。
結婚当初から同居していた弟は何年も前に成人し、独り立ちしたので一人分減ったが、子ども達の人数は変わらない。
勿論、今は畑仕事をしているあの人も一緒だ。
まさか脱走奴隷だった私がこんな事になるなんて思ってもいなかった。
魔王や邪神との戦いの日々も遥か昔。
あの人の黒金の鎧や剣も、私の白銀のナイフも冒険者になると旅立った弟に譲った。
今の私は、子どもの成長を喜び、日常のちょっとした不満に目くじらを立て、愛しいあの人と共に人生を歩む、どこにでもいる村人だ。
あぁ。今自分は幸せだ。
かつて父と呼んだあの人と結婚して、この地に根を生やした。日々の苦労も不安もある。
でも、ここでの生活はそれすら幸せに思えた。
幼い頃に失くしてしまった物を取り戻すように、ただただ優しさと幸せに包まれていた。
ふと顔を上げると、敷地の向こう側にあの人が立っていた。
かつてよく見た黒金の鎧に身を包み、よく見れば少し今より若い気がする。
その横には両目を瞑った女性。
フィルが並んでいる。
フィルもいつも大事に抱えていたドラゴンの杖を握り、神官の服を着ている。
それに、見た目がかなり幼い。
今の私と比べたら、まるで親子程も歳が離れているように見える。
まるで1番最初に会った時の様な·····。
――あぁ。これは夢か。
そう気づいたら自分の手足は縮み、フィルと変わらない年格好になった。
服装も今まで着ていた布の服ではなく、白銀の胸当てをつけた戦装束になる。
腰に手をやり、あの人から貰った大切なオリハルコンのナイフを撫でる。
「もう、いいのか?·····すまんな。」
お父さんが少し申し訳なさそうな顔をして尋ねて来る。
いつも私を心配してくれるお父さんの顔。
それは夢でも現実でも変わらない。
「うん。ここでの生活は確かに私の望んだ夢だったけど、手に入らない夢じゃあないから。」
だから、行こう。
失くしたものを取り戻すのは、今からだ。
3人揃って廃墟の都市を歩く。
元々は白を基調とした美しい白亜の都市だったのだろう。しかし、今は見る影もない。
薄汚れた石造りの建物はひび割れ、崩落し、至る所に雑草が生い茂っている。
この廃墟こそデッドゴッドの真なる姿だ。
ルビシアと別れてから、夢に囚われたフィルとミレーヌを助け出したのだ。
しかし、ミレーヌは良い。
実に年相応の牧歌的な夢だった。
ミレーヌはやはり聖女。QED。
どこぞの元大神官とは比べ物にならない。
え。なに?大魔道士になる人って皆そんな感じになるの?マ〇リフ師匠とかポ〇プとかもスケベキャラだよね?
フィルの夢は完全に18禁案件です。
ありがとうございました。
「ほっといてください!私だって年頃なんです!無駄に禁欲的な生活してたんですし、しょうがないでしょ?合法ロリとか言い出した人に言われたくありません!」
20年の鬱憤と俺の合法ロリちっぱい発言が奇跡的なケミストリーを生み出したと言う訳か·····。
まぁミレーヌと3人で退廃的な生活と言うのも心惹かれるものがあるのは認めよう。
それにまさか夢とは言え、生でフィルのちっぱいを拝めるとは·····。やはり女性の胸には夢が詰まっていると言えるだろう。
「見たいなら見せますよ?」
少し不貞腐れながら呟くフィル。
多分。この時、俺は色々あって知らず知らずのうちにテンパっていたのかもしれない。
つい本音を声に出してしまった。
「まぁそのうちな。」
顔を真っ赤にして固まるフィルとミレーヌが目に入った。
「げ、言質取りましたからね!?聞いたわよね?ミレーヌ!」
「う、うん!確かに聞いた!」
姦しい2人と共に次の階層を目指す。
残りは半分だ。
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