彼女が創り、彼が愛したこの世界
しばし無言でテレビの画面を眺め続けた。
テレビからは戦闘シーンのまま止まったデモクエ11のBGMが流れている。
頭の中では先程までのルビシアの言葉や雑多な思考が壊れたレコードの様にループしている。
勇者不在のデモクエもどきの世界。
押し付けられた勇者としての運命。
常に書き変わる世界の歴史。
元の世界に戻れる。
戻った場合は二度とこの世界には戻れない。
リリー。ステラ。ミレーヌ。フィル。
ミレーヌとフィルの2人はどうした?
呑めないプレミアムなビール。
その代わりお尻を堪能する。
お尻。
揉む。
·····もみもみもみもみ。
「そこは胸よ!?つぅかマジで揉むなっ!
後、2人は無事よ!自分の理想の夢の世界にいるから·····って、こら!ホントヤバいから!」
はっ!?俺は何を·····?
そ、そうか。2人は無事か。
と言うか、俺は何呑気にゲーム何かしてるんだ!?
2人の安否確認が先だろ!
「――ったく!やるならもうちょっと優しくしなさいよね!」
優しくならしていいのか!?
って、いかんいかん!
また思考が流されている。
膝の上に座るルビシアのジト目を無視する。
と言うかお前、確実に俺の心を読んでるよな?
「まぁ神様だしね。
·····そうね。それが夢の中に囚われるって事よ。
そうやって夢の外のことを考えない様に思考が誘導されるの。ここに囚われて数ヶ月位いるけど、割りと居心地良いしね。」
朝起きれない奴の言い訳みたいだな·····。
「·····お前毎回囚われたり封印されてるよな。」
「今回はアンタの夢が原因なんですけど!?こっちもいきなり勇者因子が世界から消えて、慌ててデッドゴッドの夢の力を利用してダメ元で
何だか苦労している様である。
俺がこっちに来てから数ヶ月くらいか?
流石にゲームばかりする日々に飽きて来たようだ。
「·····犯人は誰なんだ?」
世界を改変するなんて出来るやつは限られている。
世界の管理者か大魔王か·····。
「そんなの私が知りたいわよ。私と同じ神の1柱かもしれないし、大魔王や邪神かもしれない。」
使えない主神だな·····。
「うっさいわね。んで?どうすんの。帰る?」
腹いせに俺のほっぺをつねりながら投げやりに聞いてくるルビシア。
痛い·····。
「·····俺が帰ったとして、この世界の皆やお前はどうなるんだ?」
「別に?このままよ。数日もすればデッドムーアの軍団が法の神殿を滅ぼしに来るし、他の魔王や大魔王もそのまま健在。私は変わらずブラックドレアムを封じる
何を思ったのか、ルビシアはつねるのをやめてそっと俺の顔を両手で挟む。
「――それとも。世界が滅びるまで、ここで私と一緒にいてくれる?アードリック。」
·····あぁ。そうか。
この世界ではアードリックの勇者は全てルビシアの婚約者の転生体だ。
つまり、今この世界ではどの時間軸を見てもアードリックたる勇者は俺だけなのか。
そこには世界の管理を司る女神でなく、見た目相応の寂しがりな女の子がいた。
「·····別にアードリックだからってだけじゃないわよ。このデモクエだらけの部屋を見てて思ったの。アンタは私が作った世界をこんなに好きでいてくれるんだって。そんなアンタだから、私は――。」
俯いたルビシアの長いピンクブロンドの髪がサラサラと流れ、それに合わせるように、甘いルビシアの香りが鼻腔をくすぐる。
俺の両頬に添えられた手から感じるルビシアの暖かい体温と、目の前にある頬を赤く染めた整った顔が俺の心に突き刺さる。
·····可愛いぞコイツ。
女神かよ?あ、女神だ。
って言うか、馬乗りになられている体勢的にガッツリ胸の谷間が見えてんだよ!
あぁ、クソ。さっき無意識的に揉んだ胸の感触が蘇ってきた·····。
「·····続き、する?」
ルビシアの攻撃!
俺の心に会心の一撃!
「~~~~!!!あぁ、もう!やるよ!やりゃあ良いんだろ!」
――あぁ、そうだ!
俺はデモクエが好きだよ!この世界が好きだ!
リリーもステラもミレーヌもフィルも好きだ!
何ならもう既にルビシアも好きだ!
こっちはアラフォー童貞だぞ!素人童貞ですらないんだ!惚れやすいんだよ!
リアルで前世からの恋人とか言われたら痛い奴だが、生憎、こっちはガチだ。
そんな女が泣きそうな顔してるんだ。
それを無視して帰れる訳がないだろ!
「や、やる·····の?い、良いけど、優しくしてね?」
ちげぇよ。
殺るのは戦神と大魔王だ。
「ここに封じられた戦神、ブラックドレアムを倒せば封印は解ける。そしたらお前は開放される。それから攻めてくるデッドムーアの軍団を倒せば取り敢えず全部解決するだろ。」
「――い、いいの?」
呆けた顔のルビシアの頬に片手を添える。
「·····例えゲームの影響を受けて常に書き変わり続ける世界でも、お前が創り、俺が愛した世界なんだ。ほっとける訳ないだろ。」
――だから、ちょっと待ってろ。
どちらともなく唇を深く重ね、抱き合う。
「うん。待ってる。」
唇を離すとルビシアは、どこか名残惜しそうな顔してからはにかむ様な笑顔を見せた。
「·····ところで、異世界召喚には神様から貰うチート能力やチートアイテムが必須だと思うのだが、どう思う?」
「·····そういう余韻を潰す情緒のない発言するからモテないんだと思うわよ?」
ルビシアの攻撃!
俺の心に会心の一撃!
おぉ!勇者よ!
死んでしまうとは情けない!
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