砂漠に咲く花

助けて!


誰か助けて!


ここではないどこかへ!


どこかへ━━━━!!





両親と死別した私と弟を引き取った養父母は酷い人だった。


特に養母との反りが合わず、ろくに食べる物も与えられなかったのでゴミ箱を漁り、飢えを凌いだ。


そんな生活が続き、私が12歳になった先月。


養父母は私を人買いに売り渡した。




売られた先は、好色で有名なガンバルト王の元。

どう言う目に遭うのかは、幼い私でも分かった。



王宮に入った瞬間、王妃に呼び出され牢屋に入れられた。


王妃は嫉妬深く、自分より美しい妾を見ると難癖をつけ牢屋に送るのだと、同じ牢のお姉さん達から教えて貰った。

同じ様な境遇の人達は何十人もいた。


お姉さん達には本当に良くしてもらった。

ここは美しい女が多いので、鼻の下を伸ばした見張りの兵が夜な夜な牢屋に忍び込んで来る。

何度も危ない所を助けて貰った。


脱獄出来たのは運が良かった。

牢屋に忍び込んで来た見張りの1人が、牢屋の鍵束を忘れて行ったのだ。


沢山の兵士に追われる中、船着場で私を樽に詰め込んだ1番年長のお姉さんに言われた言葉が今も私の中にある。



「諦めずに生きなさい。どんな所にだって花は咲くんだ。アンタの人生もそうさ。きっと生きていて良かったと思える時が来る。だから、石に齧り付いてでも生きなさい。最後まで――」



抗いなさい。







「――無理だよ。」



押し込められた樽を乗せた船が難破してしまったらしく、気付けば波打ち際に投げ捨てられていた。


目の前にあるのは果てしない砂の海。

花どころか草すら生えない不毛の地。


打ち上げられた船が興味を引いてしまったのか、濛々と砂埃を上げて向こうから魔物の群れが押し寄せて来る。






私は今まで、声を殺して生きてきた。


金切り声を上げて私を殴る、養母の気を引かない様に。

ゴミ箱を漁っている私達姉弟に、ゴミをぶつけて来る近所の子ども達に見つからない様に。

獣の様な声を上げて、お姉さん達を押し倒す見張り番の視界に入らない様に。




私の人生に良いことなんて何にもなかった。


「·····けて」


砂漠に花なんか咲かない。

きっと私はこのまま死ぬんだ。


「助けて」


そう思うと、お腹の底から何かが湧き上がって来た。


「誰か!!助けて!!!」



その瞬間。



魔物が弾け飛んだ。



それは黒い戦士だった。


真っ黒の髪に黒いローブを着て、その下から見える鎧と剣はお城の兵隊何か比じゃないくらいに豪華で、陽の光に照らされて黒にも銀にも見えた。


その戦士が剣を振るう度に、あれ程恐ろしかった魔物が細切れになる。



――まるでお姫さまを守る勇者みたいだ。

自分が薄汚い脱走奴隷だと一瞬でも忘れられた。



あっという間に全ての魔物を倒した戦士は、私の方を見て厳つい顔を不器用に歪めて笑う。


魔物に襲われた私を、安心させようとしてくれているのかもしれない。


「大丈夫。もう平気だ。」



その落ち着いた声を聞いた瞬間、私は緊張からか、意識を手放してしまった。


不思議と、心地の良い安心感に包まれていた。






砂漠を歩いていると子どもを拾った。

何を言っているか分からねぇと思うが、俺も何をされたか分からねぇ。ラノベ展開の片鱗を味わったぜ。


いや、ポルポルしている場合じゃない。



取り敢えず倒れた子ども抱いて移動する。

もうすぐ日が暮れる。火を起こしてテントを張らねば。



倒れた少女の顔をついマジマジと見る。

さっきこの子に気付いて、微妙な笑顔をしてしまったが、変に思われなかっただろうか?


多分この子を俺は知っている。

一緒に旅をし、何度も死線を超えた大事な仲間だった。何度も何度も助けられた。


そう。彼女はデモクエ6のメインキャラ。


ミレーヌだ。

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