会社員と海の子守唄(3)

この体がはち切れそうだ。


「おぉ……苦しい。」


「……」


アスカはさっきから無言だ。


おすすめの料理を食べたんだが……まぁ、ひらたく言うと美味しすぎたんだ。魚を久しぶりに食べたせいもあるかもしれないが、料理が美味しすぎて俺とアスカの食欲が止まらなかったんだ。気がついた時にはお腹が苦しい状態になっていた。


その状態から残すのがもったいないと思う日本人の精神? が発揮され、すべて綺麗に平らげてしまって、動けない状態になってしまったというわけだ。


「あんなにあったのによく食べたねぇ。」


料理を運んでくれたお店の人が驚くぐらい食べていたようだ。でもそれくらい美味しかったのだ仕方ないだろう。


「……すごく、おいし、かった、です。」


「無理して言う必要ないよ。お腹が落ち着くまで休憩してな。」


お店の人が苦笑しながら水を置いてくれた。許可も出たし、少し休憩させてもらおう。


「アスカ……大丈夫?」


「……むり……」


アスカの顔が青白くなっている……食いすぎだ。時間が経てば治っていくだろう。


アスカのことは放っておくとして、ここはとても人気のお店のようで、さっきからたくさんの人が食事に訪れている。こんなに美味しい料理ならこんなに流行っても仕方ないな。店の外まで行列が出来ているようだし。


「おい、ちょっと! 順番守れよ!」


……ん? なんだ? 


行列のあたりから声が聞こえてきたと思ったら、行列から人が飛んできた。


「うるせぇなぁ。」


おそらく殴ったヤツだろう。両腕に黒い蛇のような紋様が書き込まれた人が数人お店に入ってくる。全員がお揃いのタンクトップのような服を着ている。左右の腰に1本ずつ短剣らしきものを装備している。冒険者か?


「……何の用だ?」


店の奥から店長だろうか、ガタイの良い人が包丁を持って出てきた。


人? じゃないな。耳が頭の上についている。獣人か。


「ただの客だ。飯をくわせろ。」


「なら並べ。他の客も並んでいる。」


「あいつらは喜んで譲ってくれたんだ。なぁ、そうだろ?」


店長が言うが、彼らは行列に並ぼうとしない。行列にメンチをきっている。行列に並んでいた人たちは目を合わせないように逸らしている。


「……あいにく店内は満席だ。またのご利用を。」


「……あそこ空いてるじゃねぇか。」


タンクトップの男は店内を見渡し、俺とアスカを見てきた。そして近づいてきたと思ったら、俺とアスカに蹴りを入れてきた。俺とアスカは反応できず、椅子から転げ落ちた。


「おい!」


「こいつら飯を食い終わってたんだ。とっとと席を退くのがマナーってもんだろ。」


店長の注意も気にしない。俺とアスカにも謝りもしない。理不尽な男たちだ。


「おい、アスカ。大丈夫か?」


俺はアスカに声をかける。まだ青白い顔をしており、ぐったりしている。


「お前らがチンタラしてるからみんなが迷惑してんだぜ。分かったらとっとと失せろ。」


理不尽なことを言ってくるなこの男は。カチンときたが先ずはアスカを介抱しないと。この男のことは一旦、無視だ。


「おい、お前。返事は?」


「うるさい。黙ってろ。」


俺はアスカに肩を貸す。その間に男たちは俺とアスカを囲むようにたたずんでいる。


「おい、坊主。何て言ったんだ。あぁ?」


「……」


「黙ってねぇで何とか言えや!」


「お前たちそれ以上やるなら表へ出ていきな。この店の中で暴れるってんなら、俺がぶっ殺してやるぞ。表へ出て暴れるってんなら半殺しで許してやる。さぁ、どうする?」


店長がいつの間にか近づいて俺と男たちに威嚇してくる。


……喧嘩止めるにしても乱暴な止め方だな。


「ちっ……」


男たちは舌打ちをして、大人しく席に座った。


……席に座るんかい。あんなにメンチ切ったんだから、ここは表に出て喧嘩するんじゃないの?


「ほら、お前たちもここじゃゆっくり休めないだろう。別のところに行きな。」


店長に背中を押され、店の外に出される。


「あ、あぁ。ありがとう。料理美味しかったよ。」


「それが何よりも嬉しい言葉だ。」


そう言ってニカッと笑う店長。


……笑顔の隙間から長くて獰猛な歯が見えてますよ。料理よりも狩りが得意そうな店長に見送られ、俺とアスカは店をでた。とりあえず宿を探して今日は休憩だな。


俺とアスカは肩を組みながら、クルーンの街を宿を探してフラフラとさまようのであった。

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