会社員はⅪ日目に簡易キャンプへとたどり着く(2)

カン、カン、カン……


森に入ってしばらくすると、金属を叩いている音がしてきた。けっこう大きな音だけど大丈夫なのか?


「あの、マスター。大きい音が鳴ってますけど、大丈夫ですか? 魔物とか寄ってこないのですか?」


「あぁ。最初は魔物が寄ってきたらしいが、倒しまくってたら寄ってこなくなったみたいだぞ。」


「そ、そうなんですか……」


寄ってくる魔物を倒しまくったってどんな人なんだろう。


「着いたぞ。お~い! ゼン爺! ゼン爺!」


そこには炉に向かって金づちを振り下ろす背の低い筋肉質の人物がいた。集中しているのか、こちらの声かけに反応がない。


「仕上げのタイミングだな……少し待つか。」


そう言ってマスターは近くにあった丸太の椅子に腰掛けた。俺たちも、話しかけづらい雰囲気のため、丸太に腰掛けて少し待つ間にマスターに尋ねる。


「この方が優秀な鍛冶屋さんなのですか?」


カグヤの問いかけに、マスターはは頷きながら答える。


「あぁ。偏屈で変わり者だが、腕はたしかだ。」


「偏屈の変わり者で悪かったな。して、何の用じゃ?」


「おっ、ゼン爺。仕上げは終わったのか?」


「あぁ。簡単なもんだからの。して、こやつらは?」


ゼン爺と呼ばれた人は汗を拭きとりながらこちらを一瞥してくる。ずんぐりむっくりの体型で、イメージとしてはドワーフに近い。髭が生えていれば完全にドワーフだな。


「こんにちは。私アスカって言います。こっちはディーとカグヤ。私たちの武器と防具を作ってくれませんか?」


「断る。」


「……どうしてですか? 作ってくれてもいいじゃないですか。」


「そんな初心者の装備をつけておる者の装備なぞ作っても楽しないわ。できあいの装備でも買って腕を磨いてからにするんじゃな。」


ゼン爺はそれだけを言うと、井戸へと歩いていき、頭から水を被っている。


「……どうしたらいいですか?」


俺はマスターに尋ねる。


「気にすんなよ。こいつは変わり者だからな。……おい、ゼン爺。これを見ろ。ギルド長のナルディアからの依頼書だ。こいつらに武器と防具を作ってやれ。」


苦笑しながらフォローしてくれたマスターは、井戸で水を被っているゼン爺に向かって歩いていき、俺たちが見せた紙をゼン爺に見せている。あれって依頼書だったんだな。


「……ナルディアの文字じゃのぅ……。なんでこんな初心者にナルディアも依頼書を書きよるんじゃ。面倒くさいのぅ。」


ゼン爺は依頼書を見て、こちらを見てため息をついている。アスカがゼン爺に近づいている。あれは怒っている歩き方だ。


「何よ! 私たちのこと知らないクセに勝手なこと言わないで! こっちはナルディアさんから紹介されたから来たのに! そんなん言うなら、あなたになんか作って欲しくなんかないわ! ディー、カグヤ、行こう!」


そう言い放って、アスカは俺の元まで戻ってきたかと思ったら、俺の腕を取ってさっきの道を戻っていこうとする。おいおい、いいのかよ。


「せっかく、装備が強くなるのにいいのか?」


「いいの! あっちが作る気が無いのならこっちから願い下げよ!」


ぷん! ぷん! 


アスカは怒りを鎮めるどころか、益々怒りのボルテージが上がっているようだ。


「嬢ちゃんの方から断ってくれて助かるよ。新人は新人らしく、できあいの装備でも買って、腕を鍛えるんだな。」


ゼン爺が笑いながら声をかけてきた。ゼン爺も作る気はないらしい。ゼン爺の近くにいるマスターは苦笑しているだけだ。カグヤはオロオロと俺たちのやり取りを見ている。


「ナルディアの依頼書だぞ? 断ってもいいのか?」


マスターの問いかけにもゼン爺はふん、と鼻を鳴らして


「だからどうしたのじゃ。俺が打ちたいと思わない以上、打つ気がせんわ。お前もあやつらについて行って、できあいの装備でも分け与えるんじゃな。ワシは今から休憩じゃ。もぅ、話しかけてくるんじゃないぞ。」


そう言って、ゼン爺は歩いて家の中に入っていった。マスターもお手上げだと言うように、両手を上げて苦笑している。


「すまんな。偏屈で変わり者なヤツで。お前たちには代わりと言ってはなんだが、ギルドにある装備を渡してやるから、それで我慢してくれ。今使っている装備よりかは、少しはマシになるはずだ。いいか?」


「はい。仕方ないです。」


俺たち三人はとりあえず頷く。アスカはまだ怒りが収まらない表情をしているので、頭をなでておこう。


「……はぁ。さて、無駄足になってすまなかったな。とりあえず今日は簡易キャンプに戻って、休んでくれ。明日、今後について話しをするか。さぁ、帰るぞ。」


「「「はい。」」」


俺たちは何の収穫もなく、来た道を戻っていくのであった。






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