よろず剣語り
早起き三文
第1話「ゴブリン退治」
「ちっ!!」
そのラディのショートソードはゴブリンの肩を掠めるだけに終わり、彼はそのままの姿勢で相手、悪臭を放つ獣の毛皮で作られた粗末な鎧を身に纏っているゴブリンからの手斧の一撃を。
カァン!!
「何の!!」
器用に刃を返したショートソード、小剣にて打ち返す。
「置いていくぞ、ラディ」
ラディ少年、赤い短髪をした彼の先に立ち、洞窟の中を進むのは金髪の髪をしたレーダ、ゴブリンを軽々と蹴散らしていく腕利きの戦士である。
「待ってくれよ、レーダ!!」
仲間が主にレーダによって駆逐されていく様を見たゴブリンは、その彼らの力に恐怖し、我先にとラディに背を向けて逃げていく。
「フン!!」
その向こう見ずに逃げてきたゴブリンの内、一匹をバスタードソードを扱いその首をはね飛ばしたレーダは。
「どうする、ラディ?」
「何がだよ、レーダ?」
「このまま進むか、引くか?」
「何を馬鹿な事を言っているんだよ……」
ゴブリンを相手に苦戦していたラディに向けて、心遣いを示したつもりであるが。
「あの村を襲ったゴブリンを退治するのが、俺達の仕事だろ?」
「まあ、そうだが……」
レーダにしてみれば、ゴブリンに対して侮ってかかった挙げ句、その先走りの報いを受けてこのレーダに助けを求めた事、それについて暗に警告を送ったつもりであった、しかし。
「ほら、いくよレーダ!!」
そのラディはレーダの心に気がつかず、その足を速める。
「おい、待てよ!!」
「置いていくぞ、レーダ!!」
「危険だろうに!!」
腕はまだまだ未熟だというのに、ラディの奴は足だけは速い、そう胸の内で愚痴りながら、レーダは。
「罠があるかも知れんだろ!!」
「げっ……!!」
「待ち伏せもある、少しは考えろ!!」
未だにゴブリン達が棲息している洞窟、依頼を受けた村の炭鉱内で大声を上げた。
「こんな洞窟で不必要な声を上げさせるな……」
その身に付けたスケイル・メイルの音を立てさせながら、レーダはラディの元へとたどり着き、そして。
コンッ……
「あいた……」
「あいたじゃない、馬鹿」
用心深さが全くないラディ、彼の頭を軽く小突く。
「俺が前に出る」
「でも、レーダ……」
「でも、も何も無い」
「俺の身のこなしで、ゴブリンの攻撃なんかかわせるよ……」
「それが過信だというんだ、好条件ばかりが続くわけじゃない」
そこまで言い、レーダは腰の小さな水筒の中身、革の臭いが染み付いた水で微かにその唇を湿らせた後。
「さ、いくぞ……」
バスタードソード、片手半剣を両手で握りしめながら、ラディに床にと投げ捨ててあったカンテラを拾うように指示する。
「丈夫だな、このカンテラ……」
しげしげと自らの手にぶら下げてあるカンテラの中の灯火を見やるラディ。冒険者用のカンテラはそう簡単に壊れない、もともとそういう乱暴な扱いに耐えうる作りなのだ。
――――――
「音が聴こえる……」
レーダはラディの事をまだまだ未熟だとは思っていても、彼の感覚の鋭さは充分に認めている。レーダにしても彼ラディと同じく、細かい音や光を聴き逃さない為に頭には鉄のバンドしかしていないが、それでもレーダにはその「物音」とやらは聴こえない。
「ゴブリンの声か、それとも物音か?」
「その両方だよ、レーダ」
「ふむ……」
「臭いもする」
「解るのか?」
「うん……」
「……なるほど」
恐らくカンテラの灯りが恐らくはゴブリン共にも見えているだろう。一瞬彼はカンテラの灯りを消そうかとも思ったが。
「いや、このままだ」
それは愚策である、ゴブリンがどの程度暗闇の中で目が効いているか解らないが、この先にあると思われる空間の灯りだけではレーダ達には心もとない。そもそも。
「ゴブリン達が、自分の好きな時に消せるからな……」
「どうする、レーダ?」
「ああ、まあやることは一つだ」
そう言い、レーダは辺りを少しの間見渡しつつ。
「あの影だ」
「影?」
「ちょうど、窪みになっているだろう……」
指を指した先、そこには確かに岩によって隠された「窪み」となっている。
「カンテラは別の場所に置き、お前はあそこで待ち伏せをしろ」
「待ち伏せ?」
「俺がゴブリン達を引き寄せる」
「危ないよ」
そのラディの声に、レーダは微かに口の端を緩めながら。
「大丈夫だ、ラディ」
「……」
剣を片手に洞窟の奥へと進んでいく。濃くなった闇の中に彼のスケイルメイルの音が鳴り響く。
「念のためだ……」
そう呟きながらレーダが放ったのは魔法の光、魔術師ギルドで買った光源だ。
「……」
そのレーダの様子をラディは岩影に隠れたまま、静かに見守っている。
「……よし!!」
少しばかり声を張り上げたレーダ、その声が聴こえたか聴こえないか、ゴブリン達の立てる「物音」が少し大きくなったとラディには感じられた。
「こい、ゴブリン……」
洞窟の奥へと強歩で進むレーダ、罠を気にしながら足元へと力を入れる。
――ギィ!ー――
そのレーダへ奇声を上げながら、赤い皮膚をした小人、世間一般ではゴブリンと呼ばれている魔物達がレーダにと襲いかかる。
「ハァ!!」
その飛び掛かっていたゴブリンの内一匹を剣で薙ぎ払いながら、レーダはその足を半歩引いた、そのレーダの身に付けているスケイルへとゴブリンの持つ短剣が、微かに当たる。
「こんなもので!!」
スケイルメイルはプレート、板金鎧には及ばないが、それでも剣に対してはかなり強い。錆びたダガーの一撃でどうにかなる物ではない。
「ゴブリン共、残りは五匹!!」
両手で握り締めた片手半剣、片手でも両手でも扱えるバスタードソードによってその内の一匹をまたしても仕留めたレーダは、しかし。
「こいよ、ゴブリン!!」
後ろへ下がる足を止めない、そのレーダへ突き付けられた手槍の一撃を、彼は籠手によって振り払った。すぐ後ろには魔法の灯り。
ギィイ!!
「くっ!!」
ゴブリンの持つ手斧が強くレーダの鎧を打ち付ける、どこか痣になっているかもしれない。しかし。
「てぇい!!」
レーダの振るった剣がゴブリンの肩を掠める、その一撃を食らったゴブリンは血が滲む肩を押さえながら、洞窟の奥へと退散していった。
「あと三!!」
革のブーツが洞窟の石を踏み砕く、そのままレーダはカンテラが置かれている所までたどり着き、ゴブリン達の注意を引くために剣を大きく跳ねさせる。
ジャア!!
そのゴブリン達へとラディが風のように飛び付き、その小剣を確かな狙いでゴブリンの胸に突き立てた。
「これで!!」
怒り狂って臭い唾を吐き散らすゴブリンの手斧、それをラディは小盾、バックラーで受け流しつつ、先のゴブリンへと止めの一撃を見舞う。
「あと一!!」
バスタードソードの切っ先をゴブリンに突き立てたレーダ、彼ら二人の戦いを見て、残りのゴブリンは悲鳴を上げながら洞窟の奥へと身を翻した。
「ラディ、何か聴こえるか!?」
「何か野太い声が!!」
「そうか……!!」
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