第12話
放課後バイトを終えて帰宅をすると、なんと自分の部屋から明かりが漏れていた——
(間違えなく電気は消して出たはずだ、、、だが鍵はかけなかった)
いや、正確にはかけられなかった。鍵を無くしたことに気づいたのは今朝、遅刻と一日鍵をかけずに部屋を出る行動を天秤にかけ俺は選択を間違えたのだ。
もしもここが実家の田舎であったならきっと一日ぐらい鍵をかけなくて何も問題なかったにちがいない。大都会東京…なめてたわ。
いつやられた?家を出て数時間後?もしくは夕方頃?ひょっとして今もまだ中に犯人がいるのかもしれないと思うとゾッとする。
ただ冷静に考えると特に何も盗られるものはない。高価な代物がないのはもちろんの事、通帳だってバイトで貯めた生活費やヲタ活資金が定期的に吐き出されているので貯金はそれほど多くないと思う。…盗られてられてたら泣くけど。
どっちみち荒らされてるのを前提に最悪のケースも想定して電話画面を表示させた携帯を左手に、万が一の護身用に右手に鞄をを持ちおそるおそるドアを開け…
―――ガチッ、
「は?」
ガチャガチャッ
「…開かない!?」
どういうことだ、部屋番号も206で間違えない。なのになぜ鍵がかかってるんだ?
「うっそれになんか…匂う」
部屋のドアの隙間から何やら悪臭がしてくる。まさか何かしらの事件に巻き込まれちまったのか?とはいえ鍵もないのにドアが開かないならどうしようもなくないか?…鍵。
鍵…いやいやいや、一応ダメ元で試してみるか。開かないなら即110番だ。
(鞄の外ポケットに入れてたっけ。朝八重桜さんに渡された謎の鍵)
そっと鍵穴に差し込むとすんなり入ってしまった。
―――カチャ。
(えええっ開いたんですけどぉぉぉおおお!?何でぇええ!?)
ドアノブをガチャガチャしても反応はなかったが念のため音を立てないよう慎重に、ゆっくりドアを開けるとキッチンの床に人が倒れていた。
(!?)
「ってあれっ、八重桜さんか!?一体何があったんだ。大丈夫か?うっクッサ」
床に倒れている八重桜さんに駆けつけ周りを見渡すと特に荒らされている様子はないみたいだが。
「なんだこのキッチンは、、、ひどすぎる」
数メートル上から謎の黒いスライムを落下させるか破裂させたようなひどい汚れとコンロには悪臭を放ちながらブクブク煮だっている不気味な鍋があった。
「…しかも何で俺の部屋に八重桜さんがいるんだ?」
困惑しつつもとりあえず詳しい事情をきく為、体制を起こして少し肩を揺さぶってみる。
「んっ、、、」
「気づいた?八重桜さん」
(ジャージ姿で大きな丸メガネ。間違えなく八重桜彩乃さんだ!)
状況が飲み込めないのか何度か開いた目をパチパチさせている。
「…おかえり」
「えっと…ただいま?」
条件反射で返事をしたのだが今、八重桜さんが俺に「おかえり」って言ったのか?
「えっと八重桜さん。僕の部屋で一体何をしていたんだい?」
まさに事件現場といっても過言ではない状況と壁にぐったりともたれかかる八重桜さんはか細い声で
「…料理」
とだけ喋った。
「そ、そうか~料理をしていたんだね!でもなんで僕の部屋でしているのかな?」
「・・・」
ちょっと余裕がない俺の質問に圧を感じてしまったのか、それ以降うつむいたまま口を開いてくれない。
「いったん話は署で…じゃなくて。こっちにいてくれるか?」
八重桜さんを洋室のソファーに座らせて俺は見るも無残なキッチンに立つ。
「どうやったらこうなるんだよ…」
俺は普段キッチンを綺麗に使っている。ピカピカとまではいかないかもしれないが自分で使うものは大事に使う主義だ。昨日まで普通に使えてたのだが…年代ものの汚れがついてるかの如くひどい有様になっている。
とりあえず掃除用スポンジに洗剤を含ませて擦ると、あまり時間が経っていないおかげか汚れは落ちてくれた。周りを見るとコンビニ袋と野菜の破片、調理器具が散らばっていることからだいぶ料理に苦戦してたみいだ。
なんとかキッチン周りを掃除して、俺は冷蔵庫にある食材を確認。
(買い置きしておいた玉ねぎと鶏肉、エビ…米はそのまま使うか)
玉ねぎをさっと炒め鶏肉とパプリカを投入。フライパンでお米を炒めてからスープとエビもろもろを入れ数分加熱してと!
―――よし簡単パエリアの完成だ。前回の事もあって、若干量は多めに作った。
「おまたせー」
「・・・」
部屋に入ると八重桜さんは当たり前のようにくつろぎながらテレビを見ていたが、部屋に入るや否やこちらをキラキラした目で見てくる。厳密には俺が持っている料理しか目に入っていないようだが。
(これで2回目だ。今回も八重桜さんに非がありそうだが、まだ事情がわからないのでこれにツッコむのはやめよう)
作ったパエリアをテーブルに置くと、ここが私の定位置ですとでもいうように静かにテーブルを挟んで俺の対面に腰を下ろしていた。
どうやら八重桜さんは食いしん坊らしい。
「ごめん八重桜さん、これ全部俺の夕飯だから!」
「・・・」
ご飯を待つ猫のようにソワソワしていた八重桜さんの体がピタりと止まる。
「ってのは冗談冗談!せっかくだから一緒に食べよう」
「・・・むぅ」
普段無口で何考えてるかわからなかった八重桜さん。どうやら行動でなんとなく考えていることがわかってきた。
…さてと、何から自白させますかね。
無口な彼女は秘密が多い。 かしづき @ninomaru
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