第4話

誰かに顔を叩かれる感覚でふと、我に返る。


(さっきも同じようなことがあった気が……ていうか、俺生きてるのか?!)


目を覚ましてすぐに体を起こそうとすると、激痛が全身に走る。


「痛っっ!!」あまりの痛みに顔を歪ませる。


「お、目覚めたか!まだ、起きちゃ駄目だぞ。大怪我してんだから。」怪我の心配をする声をどこからともなくかけられる。


少しだけ頭を上げると、そこには鎧みたいなものに身を包んで、身の丈程もある大剣を背中に掛けた戦士?がいた。


「お前さん、あのクラーキエンと闘ってよく生きてたな!!」


突然、拍手とともに称賛される。


(クラーキエンってあのタコのことか……名前ダサいな)


その戦士曰く、「あのモンスターは俺みたいなAランク戦士でも苦戦するのに。なんの武器も持たないお前さんがあそこまで弱らせてくれていたおかげで楽に倒せたぜ!」らしい。


「ほら、回復薬だ飲め!と、動けねえんだったなぁ。こりゃ失敬ガハハハ!」その戦士はそう言うと口まで回復薬と言われるものを口まで近づけてくれた。


言われるがままにそれを飲むと、体の節々にあった痛みが少しずつ引いていった。


「すまんな。ここには中級の回復薬までしか置いてねえんだ。でも痛みは大分引いただろ?」


ようやく少しの落ち着きを取り戻した俺は真っ先に彼女のことを聞く。


「助けてくれてありがとうございました!この恩は一生分のものです。何かできることがあるならなんでも言ってください。ですが、もう一つだけ命を救ってもらって欲しいんです。まだ、洞窟の中にいるかもしれない女の子を助けてください!」俺は一気に体を起こし、寝かされていた布団から跳び起きる。痛みは大分引いたとは言え、骨折などの大怪我は治っていないので身体中に再び激痛が走ったが、気力で今度こそは立ち上がり、頭を下げる。


「おーお前さん凄いなぁ!怪我から即、他人の心配とはな!大丈夫だ。そのお嬢さんなら二階で寝てるよ。俺がお前さんと一緒に外に出てくるのを確認したら気を失ったからお前さんと一緒に連れて帰ったんだよ。」


「俺がダンジョンに丁度入ろうとしたとこで中から出てきて、助けを求めてきたんだよ『中にいる男の子を早く、早く助けてください!!』ってな。俺が急いで洞窟に入ると、ヤツが丁度お前さんに触手を振り下ろす瞬間でなぁ、俺がギリギリのとこで叩き切ったがなあ!ガハハハ!」


俺はその戦士の言葉で再び布団に倒れ込んだ。


「良かった……ほんとにホントに良かった……っ」思わず、涙が溢れる。


「お前さん達なんであんなところにいたんだ?あのダンジョンは近隣のダンジョンの中でも屈指の危険度だぞ?」当然の疑問を投げかけられたので、手短に説明した。何処から来たのか、何故ここに来ることになったのか、とかだ。


「そうだったのか……それは辛かっただろう。よく頑張った!お前はもう、立派な戦士だ!」そう言うと、その戦士は俺を抱き寄せた。鎧は金属製で冷たいはずなのに、とても暖かかった。


俺は目から再びボロボロと涙を溢す。あの子を守れた嬉しさともう二度と会えない弟達を想ったからだ。 


「すいません、ありがとうございました……少し冷静さを欠きました。その……名前を教えていただきたいんですが。俺は松谷翔といいます。」俺は目の前にいる命の恩人の名前を乞う。


「ショウか、珍しい名前だがいい名前だ。俺の名前はルイス・ボルドだ。ルイスでもボルドでも好きな方で呼んでくれ。」見た目の通りとてもカッコいい名前だ。


「ボルドさん、改めて助けて頂いてありがとうございました。さらに介抱まで。できることは少ないかも知れませんが、自分にできることがあれは力にならせてください。」


俺は必死に頭を下げる。




「さん付けなんてよせやい、ボルドでいい。お前さん達を助けたのは何か見返りが欲しかった訳じゃない。困った人がいるなら助けてやるのが当たり前だ。俺がして欲しいことはただ一つだけだ。寝、て、ろ!!」頭を軽く叩かれる。


「全く、怪我人が無理してんじゃねえよ!さっさと寝る!お嬢さんにはあとで存分に会っていいから。今はとにかく休め。」そう言うと、ボルドは俺に布団とさらに毛布をかけてくれた。


「すいません、お言葉に甘えます……」


精神的、肉体的に限界だった俺の身体はすぐに眠りについた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る