第1381話 新たな移動操作制御


 新たに手に入った『移動操作制御Ⅱ』に、大幅に生成量が増加した段階で水の生成をしようとしたら……量が多過ぎた。その事を言ったら風音さんが上空へと運んでくれたし、とりあえず生成はしてみよう。最小限の生成量をして、即座に操作!


「……大量の水!」


 巨大な水球が生成になったけど……上空だからいいけど、こんな量は下で生成すれば、どうやったってどこかに当たるよな。2回は当たっても大丈夫だとしても、このサイズはどうやってもその回数じゃ足りないくらいに当たるだろ!


「うぉ!? なんだ、いきなり!?」

「空中に巨大な水球!?」

「……群集拠点種の側にある海水の水球に似てる?」

「何か、イベントが発生したのか? でも、そんなアナウンスはなかったよな?」

「今生成されたデカい水球、いつものコケの人が作ったやつだからなー! イベントの演出じゃねぇぞ! 知らない奴には伝えてやれ!」

「え、これ、プレイヤーがやってるの!?」

「あー、いつものコケの人か。そういや水の操作Lv10で、生成量が更に増えたって話があったよな」

「……うへぇ、すげえ水量。操作系スキルってLv10になると、ここまで規模が広がるのか」

「……よし、操作系スキルLv10は候補から外しとこう! この規模、扱える気がしない!」

「同感! スキル強化の種は魔法に使った方が良さそう!」


 なんか色々と下から騒めきが聞こえてきてるんだけど……まぁそういう反応になるよね。こんな大勢の前で、この生成量を試したのは初めてだしさ。太陽光がキラキラと反射してるから、見える位置で気付かないっていう方が無理な気もする。


 なんか一部から操作系スキルを扱い切れないって反応も出てるけど、同属性の魔法への恩恵も大きいからね!? でもまぁ魔法の種類が増えた方が幅は広がるし、優先順位としてはそうなるか?

 うーん、まぁそれぞれの判断に任せればいいし、その判断材料にしてもらうのはいいとしても……。


「この量、どう使えってんだ……?」

「……覆って……奇襲防止?」

「あー、確かにそれはいけるかも。ナイス、風音さん!」


 みんなで空を飛んでいる際に、周囲を覆っておけばそういう用途で使う事は可能か。勢いがありまくる時は風除けで水のカーペットを使う事もあるんだし、この規模なら安全性を増す事は可能かも?


「……みんなで……乗って……移動も……出来る?」

「ん? みんなでって、別にアルがいるんだけど……」

「……そうじゃない。……もっと多くの……他のみんな」

「あ、そういう意味でのみんなか。なるほど、確かに状況次第ではそれもありだな」


 アルが移動に専念してくれる事が多いけども、俺がこの大量な水で大量のプレイヤーを運ぶって使い方もありか。これも移動操作制御なんだから、どれだけ加速させたところで、操作時間が削れる事はないしね。

 生成した量と強制解除の条件で、微妙にその辺の使い道が出てこなかったなー。圧倒されたというか……途方に暮れていたという方が正解か。でも、風音さんから実用的な案が出てきたから、使い方次第では色々と出来そうな予感もしてきた。


「おし、ちょっとこの量でいつもの水のカーペットみたいに薄く伸ばしてみるか」

「……うん!」


 まだまだ下から騒めきが聞こえているけど……まぁまだこの生成量は見慣れてませんよねー! とりあえず、巨大な球形の水を薄く伸ばしていって……うっわ、並木の上を覆えそうなくらいだな!?


「ケイさん、ケイさん! それってこう曲げられませんか!?」

「えーと、曲げるってどういう風にだ? てか、何か連想してるなら、それを言ってくれる方が分かりやすいんだけど」

「えっと、えっと! 商店街の天井みたいな感じ!」

「それって、アーケードの事かな?」

「サヤ、それなのさー!」

「なるほど、あれか」


 近くに商店街がある訳じゃないけど、なんとなくのイメージは出来た。要はこの大量の水で不動種の並木の上にアーチ状のものを作ればいい訳だ。……これ、ゲーム内の天候が雨の時の雨除けに出来たりしない? やり方次第では、ビニールハウスみたいなのも作れそうな気がしてきたぞ?


 まぁ応用方法を考えるのは今じゃなくていいや。とりあえずハーレさんの要望通り、アーチ状に水の形を変えてみよう。別に極端に難しい操作でもないから、特に負担なく操作は出来るね。


「おー! ガラス張りっぽく見える不動種の並木アーケードが完成なのです!」


 はしゃいでいるハーレさんが、思いっきり動き回りながらスクショを撮りまくってるな。てか、他にも同じように動きまくってる人もいるし、どう見てもサファリ系プレイヤーの人達だろうね。


「本部と支部に連絡を回せ! 珍しいスクショを撮り損ねるぞ!」

「もう連絡済み! 手が空いてる人、こっちに来るって!」

「灰のサファリ同盟が、この光景を逃すはずもないよなー!」

「……これって、他の属性を演出用に鍛えるのもあり!? 属性次第で、色々と景色が変えられそう!」

「はっ! それは確かに!?」

「くっ! どの属性にすべきだ!?」

「氷属性では霧みたいに出来るって話だもんね! 次のスクショコンテストに向けて、構想を考えないと!」

「うっわ、すっげ!?」

「わー! これはちゃんと撮っとかないと!」


 なんか、下にどんどん人が増えてきてるんですけどー!? マサキの方から飛んできている人も結構いるし、他の並木からも来てない!?


「……人が……増えてきた?」

「まぁそうなるよなー」

「それはいいんだが……適度なところで切り上げろよ、ケイ」

「って、ベスタ!?」

「……ベスタさん?」


 気付けば、すぐ横にベスタが出てきたんだけど!? 近くまでコケ付きの小石を飛ばして、コケ渡りで瞬間移動をしてきたっぽいね。その小石を足場にして、空中でいる状態かー。


「えーと、トーナメント戦の準備をしてるんじゃ?」

「それは開始の直前で止めている。この状態で始められる訳もないだろう」

「ですよねー!」

「……それは……そう」


 どう考えても、検証用のトーナメント戦の実況を開始する状況にはなってないし! いや、解説役の俺がトーナメント戦の開始を遅らせてどうすんの!? でも、こっちの検証を優先だとも言われたし……。


「ケイ、これは生成量の切り替えが出来るという話だったな?」

「あ、それはそうだけど……この状態で解除はしにくい!」


 ハーレさんの要望に応えてのアーチ状の水を作ったけど、それ目当てにスクショを撮ってる人が大量だしなー。下手に解除すれば、ガッカリされそうだし……かといって、このサイズのままでは実況席には出来ない――


「いや、別に展開し直せばいいだけだろう。『移動操作制御Ⅰ』と『移動操作制御Ⅱ』の同時展開が可能かどうかも試してもらいたいからな」

「あ、そういやそういう手があった!」


 なんか微妙に冷静さを欠いてるな、今の俺! ちょっと考えれば分かる内容じゃん! なんでそこを見落としてた!?


「……なんだか今日は妙だな。ケイ、何かあったのか?」

「いや、そう言われても特に何もないはずだけど……」


 うーん、普段なら自分で思い当たりそうな事を思いっきり見落としまくってるよな? 昨日の夜、中々寝付けなくてしっかりと寝れていなかったから、寝不足が地味にあるのかも。


「……まぁいい。とりあえず、同じ『移動操作制御Ⅱ』で生成量の使い分けの実演を頼む。そこまで済めば、この件の検証は終わりでいい」

「あー、取得条件の方は?」

「聞いている限り、ほぼ確実に『移動操作制御Ⅰ』に『水の操作Lv10』の登録した事だろうな。大体の推測は出来ているなら、後は誰かがLv10の操作系スキルの登録を試せば再現は可能だ」

「ですよねー!」


 『移動操作制御Ⅱ』が取得になった瞬間はびっくりしたけど、今回のはそれほど複雑な条件にはなり得ないか。スキル強化の種を温存していればLv10のスキルを手に入れる事は難しくなくなってる状態だし、既に操作系スキルLv10にしている人もいるはず。再現自体は、そこまで難易度は高くない! ……いや、そうでもないか。


「……とりあえず……一旦解除?」

「だなー」

「集まっている人達、聞いてくれ! 一旦この水は解除するが、仕様上で問題がなければ再発動は行う! 検証用のトーナメント戦の開始がズレ込んでいるから、スクショを撮るのは後にしてくれ!」


 あ、解除する前にベスタが説明してくれたね。ふぅ、微妙に調子が狂ってるみたいだから、これは助かる! ……この調子で解説役、大丈夫か?


「あ、ベスタさんが来てる!?」

「そういやトーナメント戦だよ、トーナメント戦!」

「そっちの検証があるんだった!?」

「スクショは後にしろー! 再発動するなら、その後で!」

「元々の予定の検証に戻るから、スクショを撮ってる人は一旦中断!」

「それもそうだな」

「再発動するなら、それでもいっか!」


 下の騒めき自体は大きくなってるけど、内容としてはスクショの撮影の中断を呼びかけと、それに応じている声だね。これなら解除しても大丈夫そうだ。


<『移動操作制御Ⅱ』の発動を解除したため、行動値上限が元に戻ります> 行動値 125/125 → 125/127


 という事で、大量の水は消滅! ん? 少し暗くなったように感じたのはなんでだ? あ、曲がった水が日光を普通より集めてたのかも? というか、いつの間にか少し雲が出て暗くはなってるのか。ふむふむ、集光効果もあったとはね。


「ケイ、普段通りに使えるかの確認を頼むぞ」

「ほいよっと!」


 さーて、大事なのはここから! 多分、大量に生成する状態で固定するのであればこれまでの『移動操作制御Ⅰ』でも出来るだろうし、任意で変化させられるかどうかというのが重要になってくる! スキルの説明的には出来るはずだけど、そこは実際に試してみないとね!


<行動値上限を使用して『移動操作制御Ⅱ』を発動します>  行動値 125/127 → 125/125(上限値使用:2)


 改めて発動し直して……うん、やっぱりここで水の生成量をどうするかの確認は出てきた。さて、今回は普段通りの規模での生成でいこう! まぁこっちは慣れたヤツだから、特に驚きはないだろうけど……。


「よし、いつも通りの水のカーペットだな!」

「『強爪撃』!」


<ダメージ判定が発生しました。あと2回の発生で『移動操作制御Ⅱ』は強制解除になります>


 ちょ!? いきなりベスタが水のカーペットに攻撃してきたんだけど!? これ、どう考えてもこのメッセージが出るかどうかの確認が目的だよな!?


「……ベスタ、やるならやるで先に言ってくれない? 確かに確かめたい内容だろうけどさ」

「その言葉、そっくりそのまま返していいか?」

「いやいや、『移動操作制御Ⅱ』の取得は俺もビックリしたから!? 予想出来ないって、あれは!」

「予想は出来なくても、すぐには言わず後からという事も出来ただろう?」

「……そりゃそうだけど、ベスタ、なんか怒ってるか?」

「別に怒っているとまではいかんが……検証だけならまだしも撮影会まで始まっていたらな?」

「ですよねー!?」


 怒ってないとは言ってるけど、ここまで来てベスタは仕切り始めた時点で脱線を戻そうとしてるよなー! くっ、ハーレさんの要望にあっさりと応え過ぎたか!?

 いや、ベスタの言う通り、後から言うって方法もあったんだから、ここは俺の反省点だな。元々、これから別件の検証があるのは分かってたんだしさ……。


「おし、さっさと戻してトーナメント戦での検証だな!」

「頼むぞ、ケイ。俺はエンまで戻るからな」

「ほいよっと!」


 さーて、これ以上の脱線はなしだ! 手早く済ませて、大真面目に解説役をやっていこう! その為にも、まずはこれ!


<『移動操作制御Ⅱ』の発動を解除したため、行動値上限が元に戻ります> 行動値 125/125 → 125/127


 普通の水のカーペットは解除して……。


<行動値上限を使用して『移動操作制御Ⅱ』を発動します>  行動値 125/127 → 125/125(上限値使用:2)


 改めて、さっき作ったアーチ状の水を生成! おー、やっぱりちょっと明るくなったから、太陽光を集めているっぽいねー。まぁ流石に火は着くほどではないだろうし、火事の心配はいらないはず!


 さて、問題は……ここから同時に使えるかだな。確認せずにベスタは戻っていったけど、飛行鎧と水のカーペットが同時に展開出来るんだし、スキルの説明でも無理とか書いてなかったからいけるはず!


<行動値上限を使用して『移動操作制御Ⅰ』を発動します>  行動値 125/125 → 123/123(上限値使用:4)


 よし、ちゃんと同時に発動出来た! ふむふむ、これって実質的に枠が1枠増えた事にもなるのか。今は水のカーペットの登録が2つになってるけど、この辺に工夫の余地はあるかも?


「……同時に……2つの展開……上手くいった!」

「だなー! 風音さん、水のカーペットに乗ってくれ。このまま下に降りて、そのまま実況席にするから」

「……うん!」


 黒い龍の手で掴んでいた俺のロブスターを水のカーペットに下ろしてくれたし、風音さん自身も乗ったのを確認! 上にアーチ状の水を固定しても特に負担はないし、これはいい感じだな!


「ハーレさん、乗ってこい! トーナメント戦が始まり次第、実況を始めるぞ!」

「はーい! 『略:傘展開』『略:ウィンドボール』!」


 ハーレさんも水のカーペットの上に乗ってきたし、1.5メートルくらいの高さに浮かせて停止も完了! あんまり高くし過ぎると多くの人が見上げる形になるから、このくらいでいいだろ。

 サヤとヨッシさんは桜花さんのすぐ隣でいる状態だけど、2人は実況には加わらないからそれでいい。さーて、後はトーナメント戦が始まれば実況開始だな!

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