第1231話 場所を移して


 リアルの人間関係の繋がりが妙な事になってるのが判明したけども、もうそこは極端にアイルさんと仲良くし過ぎない程度に抑えるという事にしていこう。

 ハーレさんが警戒してた理由も分かったし、その理由にも納得。アイルさん自身が悪い訳じゃなくとも、距離を取っておきたい相手である事は間違いないか。


 うーん、俺自身がアイルさんとの距離感をどうするか……悩むとこだな。俺自身が警戒心を剥き出しにして対応してしまったし、普通に仲良くって感じになりそうもない。結局、明日の学校での心配も変わらないし……って、あれ?

 ハーレさんがリアルの方で俺に話そうとしなかったのはなんでだ? あー、みんなで揃った時にまとめて話をしたかったからとかか? まぁいつまでも脱線してても仕方ないし、そこはいいや。


 ケイ   : まぁリアルの話はそれくらいにしておくとして……ちょっと、例の群集への不満を持ってる集団の件で別の思惑の可能性を思いついたんだけど、意見をもらえない?

 ハーレ  : おー!? そんなのがあるの!?

 サヤ   : それならどこかで合流して話す? 私達だけじゃなくて、他の人の意見もあった方が良くないかな?

 ケイ   : あー、まぁそれもそうか。

 ヨッシ  : 今なら多分、桜花さんのとこに人が集まってると思うし、そこに行く? サヤとの模擬戦って暇つぶしの意味合いもあったんだけど、桜花さんから頼まれた事でもあってね?

 ケイ   : ん? 桜花さんから何を頼まれたんだ?


 桜花さんの所に人が集まっているのであれば意見を聞くのには丁度いいけど、サヤとヨッシさんに頼まれる模擬戦の内容ってなんだ?

 パッと思いつく内容としては……あぁ、近接での状態異常の防ぎ方とか? もしくは、上手く状態異常を当てる方法もあり得るな。両方を兼ねてる可能性もある?


 サヤ   : えっと、何か成熟体で使える進化の軌跡が手に入らないかと思って訪ねたら、交換条件で模擬戦を頼まれた感じかな。どちらかというと、その場にいた人達に。

 ヨッシ  : 近接戦闘と状態異常の攻防戦の参考にしたかったんだって。それでケイさんかハーレが来るまでって約束でやってた感じだよ。

 ハーレ  : おー!? そうなんだ!

 ケイ   : やっぱり内容的にそんなもんか。って事は、何か進化の軌跡が貰える事になってる?

 サヤ   : 1戦する毎に1個って約束かな! 属性は在庫のあるもの次第?

 ヨッシ  : 2戦したし、2個は貰えるね。

 ハーレ  : どう使いますか!?

 サヤ   : 時間があれば何か応用連携スキルを取りたかったけど……流石に時間が厳しそうかな?

 ヨッシ  : これから進化の軌跡自体を受け取りにいかないとだしね。

 ハーレ  : それは仕方ないのです……。

 ケイ   : だなー。


 俺とハーレさんが遅くなったから時間がないんだけど、それがあったからこそ桜花さんから進化の軌跡を貰える状況にもなっている。それを考えたら、ここで謝るというのも少し違うよな。


 ハーレ  : とりあえず、そういう事なら桜花さんの所に集合なのさー!

 ケイ   : それがいいだろうけど……みんな、今の現在地は? 俺はエンの前。

 ヨッシ  : 私とサヤもエンの前だね。模擬戦を終えて出てきたとこだし。

 サヤ   : 多分、近くにいるかな?

 ハーレ  : 私だけミヤ・マサの森林なのさー!? すぐに行くから、待ってて下さい!

 ケイ   : ほいよっと。


 タイミング的にサヤとヨッシさんが近くにいそうな気がしたけど、やっぱり正解か。ハーレさんは俺がログインした場所とほぼ同じだろうから、転移のもそんなに時間はかからないだろ。

 さーて、ハーレさんが到着するのが先か、俺がサヤ達に見つかるのが先か、俺がサヤとヨッシさんを見つけるのが――


「ケイを発見かな!」

「おっ、流石はサヤ。見つけるのが早いなー」

「すぐ近くにいるのが分かれば早いかな!」

「ハーレはまだみたいだね?」

「まぁすぐに来るだろ。さてと、今は俺が移動役をやっていきますか!」


 今の時間帯はアルがいないんだし、ここは水のカーペットの出番だな。


<行動値上限を2使用して『移動操作制御Ⅰ』を発動します>  行動値 123/123 → 118/121(上限値使用:2)


 みんなが乗れるように水のカーペットを展開! Lvが上がった時の行動値の増加量が増えてるから、どんどん行動値は増えていきますなー。

 そろそろ並列制御がLv2に上がるのを想定され始めてたり? 使ってみたいとこだけど、そこは実際に上がってみないと分からないか。


「ケイ、ありがとかな!」

「折角だから乗せてもらうね」

「どういたしましてっと。……そういや『移動操作制御Ⅰ』の方も『移動操作制御Ⅱ』はどうなってるんだろうな?」

「その辺ってどうなんだろうね?」

「『Ⅰ』がある以上は少なくとも『Ⅱ』はあるんだろうけど、どういう風に変化が出るのかな?」

「そもそも取得条件が謎だしなー」


 うーん、実は進化ポイントで取れるようになってたりしない? あー、確認するにしても今すぐにって訳にもいかないか。後だ、後!

 操作系スキルのLv10の取得情報も気になるし、こりゃ桜花さんの所へ行った後は情報収集……いや、場合によってはサヤとヨッシさんが確認済みの可能性もあるのか。


「サヤとヨッシさんは、最新情報の確認はした?」

「昨日のあの後に何かあったか確認した程度かな」

「色々と騒動自体はあったみたいだよ?」

「あー、やっぱり何も無しって訳でもなかったのか。具体的には――」

「えいや! 到着なのです!」


 ちょ!? 上からハーレさんが水のカーペットに飛び降りてきて少し跳ねて再着地したけど、結構な高さから落ちてきたな!? 移動判定の範疇で強制解除にはなってないけど、エンのすぐ側でこれって事は……。


「……わざわざエンによじ登ってくる必要はなくね?」

「サヤに気付かれないように、こっそりと動いてみたのです! でも、見られてた気がするのさー!?」

「転移してきた直後にエンに登ってたのには気付いたけど、何やってるんだろうって思ってたかな?」

「あぅ……まだまだなのさー」

「……ハーレはそんな事をしてたんだ?」

「えっへん! あれ? もしかして何か邪魔しちゃった?」

「サヤとヨッシさんが、昨日、俺らがログアウトした後の事を確認してたからその辺の話を聞こうとしてたんだよ……」

「あぅ!? 思いっきり邪魔してたのさー!?」

「まぁその辺は桜花さんの所まで行く途中で聞くとして、すぐに移動するぞ」

「はーい!」


 まったく無意味に水のカーペットが強制解除にならなくて済んでよかった……って、あれ? 今何か、妙に引っ掛かったぞ。何だ? 何に引っ掛かった?


「ケイ、どうしたのかな?」

「なんか今ので少し考え事をしてたら妙な違和感があったんだけど……それが何かが分からん!」

「今の流れで違和感って、何があるんだろ?」

「『移動操作制御Ⅰ』に関係してるのかな?」

「そういえば『移動操作制御Ⅱ』って、ないんですか!?」

「その辺、さっき話題に出てたとこだからなー。全く不明って結論だけど」

「そうだったの!?」

「まぁその辺は後でじっくり考えてみるわ。とりあえず今は桜花さんのとこまで移動で!」

「はーい!」


 という事で、改めて移動開始! さっきの違和感はタイミング的に『移動操作制御Ⅱ』に関係してそうな気はするけど、どうなんだろうな? この辺って俺の勘でしかないし、誰かに明示されたものじゃないから確定とはいえない。

 ただ、俺が何に違和感を覚えたのかは後で考えとこ。少なくとも、俺自身が変に思う事があったからこその違和感だしなー。


「すぐに桜花さんのとこに辿り着くだろうし、手短に話すかな。えっと、昨日の夜は案の定、ケイの閃光に対して文句が出てたみたい」

「あー、やっぱりそういう感じか。それでその後はどうなった?」

「何を今更って感じで総スルーだったらしいよ。変に相手をするのは時間の無駄って判断したみたい? 折角の祝勝会を台無しにされたくなかったみたいだし、峡谷エリアで使った遮音対策を駆使して声を遮断してたってさ」

「おぉ!? 問答無用のスルーっぷりなのです!」

「雑な対応になるような気はしてたけど、遮音してたのか」


 まさかの峡谷エリアでの音対策のまぁその手段が活躍する日が来るとはねー。まぁそこで本格的に相手をする意味もないし、折角の祝勝会を台無しにするような動きは無視でいい。

 もしそれがあの連中と関係なくても、群集としての勝ちに水を差すなら排除でいい。あれだけの大乱戦で、味方への巻き込みを一切無しで勝ち筋を作れって方が無茶だしな! 

 

「あの連中、嫌な手段を使ってくるのさー! 今日は絶対にぶっ倒すのです!」

「少なくとも、他の群集以上に負けたくはないかな!」

「あはは、まぁそりゃ良い気分にはなれないよね。……内輪揉めを狙ってるんだろうけど、そこまでする狙いってなんだろ?」

「その辺で考えてる事があるから、みんなの意見を聞きたいとこでなー」


 多分だけど、内輪揉めも狙いではあるはず。でも、俺が思ってる可能性が合っていたとすると……前提となる動機の部分から全く違ってくるんだよな。……だからこそ、他の人の意見が欲しい。


「とにかく、急ぐぞー!」

「「「おー!」」」


 とはいえ、もう既に桜花さんの桜の木は見えてきているけどね。そういや今回の競争クエストが全て終わったら、初期の森林深部エリアから移動を検討中なんだっけ?

 確か新規さんの不動種向けに、初期エリアの場所を空けていこうって話が出てるって聞いた気がする。3rdも作れるようになってるし、その辺も色々とあるんだろうなー。



 ◇ ◇ ◇



 それからすぐに桜花さんの桜の木まで移動完了。あ、そういや昨日の羅刹と北斗さんと一緒に騒動を収めるのに動いてくれた件のお礼も言っとかないとなー。フラムから聞いたけど、桜花さん達が動いてくれたのは大きかったみたいだしね。

 という事で、桜花さんの樹洞の中へと突入! おー、結構な人が集まってますなー。知ってる人がいるかの確認は……まぁ後でいいや。先に桜花さんへ話を通さないとね。それとサヤとヨッシさんがしていた模擬戦への報酬もか。


「桜花さん、こんにちはー!」

「おっ、ハーレさんか。それにケイさんもログインしたんだな」

「おっす、桜花さん! 昨日の件はありがとな!」

「ん? 俺も灰の群集なんだし、お礼を言われる事でもねぇよ! 戦闘は任せっきりなんだから、ああいうとこで動かなくてどうするってんだ!」

「あー、まぁそりゃそうか」


 桜花さんだって灰の群集の味方なんだから、変に乱れるような状況は作りたくないのは当然だよな。

 むしろ、温存しておきたかった羅刹の姿を晒させてしまった事の方を気にした方がいいのか……。羅刹と北斗さんとはどこかで話をしておきたいけど――


「そういうのは、あっちの2人に言ってやれ」

「来たな、ケイさん」

「よう、昨日ぶりだな。防衛戦、お疲れ様と言っておくか」

「羅刹! 北斗さんも! 昨日はありがとな!」


 小さくなってる羅刹のティラノと、同じく小さくなっている翼竜の北斗さんが近くにやってきた。ははっ、まさかここにいるとはね。まぁ今は灰の群集傭兵になってるんだし、その辺は不思議でもなんでもないか。


「ケイさん、先に言っとくが青の群集へ俺の存在を隠し切れなくなった件は気にしなくていいからな。もう青の群集に対してのみのアドバンテージに意味はねぇ」

「……それは了解」


 どうもまた声に出てたっぽい……。まぁ状況が変わり過ぎてるのもあるし、青の群集とも共闘する可能性もあるしね。……青の群集に対してのみの限定的なアドバンテージよりも、昨日の一件の価値の方が高いか。


「まぁ俺や羅刹の昨日の件はいいとしてだ。何か例の連中に対して、何か別の思惑がある可能性で意見が聞きたいそうだな?」

「ん? あれ、それって俺はまだ伝えて……あ、サヤかヨッシさんが伝えてた?」

「うん、共同体のチャットで会話しながら私がフレンドコールで伝えておいたかな! あ、桜花さん、さっき言ってた通りの物でお願いね」

「あいよ! 『進化の軌跡・火の結晶』を2個、ご要望通りの報酬だ! いやー、模擬戦は助かったぜ」

「どういたしましてかな!」


 なるほど、既に色々と話はついた後だったのか。というか、羅刹や北斗さんがいるの知ってたから、サヤはここで話す事を提案したのかも?


「確かに気になる話だよな、別の思惑ってやつはなー」

「僕は対人戦には参加はしないけど、これだけ競争クエストとは直接は関係してこない部分にも手を出してくるなら無視は出来ないよね」

「紅焔さんとソラさんもいたのか!」


 あ、よく見たら他にもチラホラと桜花さんのとこでよく見る人が結構いるよ。そりゃ他の思惑の可能性の話をして、意見が欲しいって言ったらこうなるよなー!?


「ケイさん、今の俺の樹洞の中は俺が信用してる相手だけに限定してるからな。変に他所に情報が漏れる心配は無いと思ってくれていいぞ」

「それは助かる!」


 今考えている可能性は、あくまで推測のもの。だけど、もし考えている通りのものなら……根本的な前提がひっくり返る。下手すれば、内輪揉めを引き起こそうとしている動き自体が本命の偽装の可能性すらあるからなー。

 読み違えたら痛いけど、見落としている方が更に手痛い事態になりかねないし、どこから話していくのがいいのやら……。

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