第1213話 状況の打開策


 青の群集から無視されているのかと思えば、この場から動けないように監視が入っている状況。強行策で打開を狙うけど……おそらく、それに対する動きはある可能性は高い。

 でも膠着状態を続けていても埒があかないし、そもそも風雷コンビが素で我慢の限界だったっぽいから、これ以上は状況の維持も無理。辛うじてPT会話が成立するくらいの小声では話せてるから、何かを話し合ってるのは気付かれてたとしても具体的に聞き取れはしてないはず。


 だからこそ、制御下の置ける範疇でかつ、他の場所の状況を探る為の動きに出るのみ! さーて、なんとかベスタまで連絡がつけばいいんだけど、どうなるやら……。既にそうなってはいるけど、出たとこ勝負だ!


「やってくれ、風雷コンビ」

「「青の群集、いい加減に出てこい! 『エレクトロディヒュース』!」」


 ちょ!? 一気に飛び上がってからの、まさかのどっちの龍でも電気魔法Lv8!? いや、電気に拘ってる風雷コンビならこれくらいはあり得るか! 周囲に電気がバチバチと広がって……そういや、この組み合わせで複合魔法にはなるんだろうか?

 あー、重なったけど複合魔法にはなった様子はない……って、のんびり見てる場合じゃない! これを演技だと察せられないように、風雷コンビの暴走だと思わせて……素で驚いたのが、地味に役立ちそう?


「風雷コンビ! 勝手な真似は――」

「わっはっは、青の群集がいたぞ! なぁ、疾風の! 『エレクトロインパクト』!」

「コソコソ隠れてたのが、何人かいたみてぇだな! なぁ、迅雷の! 『エレクトロインパクト』!」


 あ、マジで隠れてた人が何人かいたっぽい。葉っぱみたいな蝶だったり、カメレオンだったり、花っぽいカマキリもいるのか。ふむ、風雷コンビの攻撃で擬態が破れたのは合計で3人ほど。

 これを多いと考えるべきか、少ないと考えるべきか……。どの人も出てきた部分を考えるとそれぞれの位置はそれなりに離れてる上に、木の影に隠れて死角になっていた場所だな。


「逃しはせん! 鬱憤を晴らさせてもらおうか! なぁ、疾風の! 『エレクトロクリエイト』!」

「大暴れするつもりで、なんでこんなに焦らされなきゃいけねぇんだよ! なぁ、迅雷の! 『エレクトロクリエイト』!」

「ちょ!? いくらなんでも昇華魔法は待――」

「「死にやがれ! 【サンダーボルト】!」」

「ちょ、待っ!? 麻痺して、動けん!?」


 さっきのエレクトロインパクトを躱せずに麻痺になってたカメレオンの人が、盛大に風雷コンビの昇華魔法のサンダーボルトの直撃を受けてポリゴンとなって砕け散っていった。

 あっという間に無くなったHPの削れ方から見て、Lv差がかなりあるか、物理型で魔法に弱い感じもするけど……2人だけでやり過ぎ。あー、くっそ! 1人倒すのに、2人分の魔力値を空っぽにしてどうする! てか、これって本当に暴走してない!?

 

「ちっ! 例のコンビが暴走か!」

「だー!? そこはちゃんと抑えとけよ、灰の暴走種!」

「もう結果オーライって事で、敵をみんなで倒すぞ! 風雷コンビは下がってろ!」

「暴れ足りぬわ! なぁ、疾風の! 『魔力集中』『強爪撃』!」

「また隠れようってのは、させるかよ! なぁ、迅雷の! 『魔力集中』『強爪撃』!」

「暴走する奴らのちゃんと手綱は握れ!」

「赤の群集のネコ夫婦を見習えよ!」

「そんなの知るか!」


 敵ながら好き勝手な事を言ってくれる! てか、また姿を隠そうとしてるっぽいけど……思いっきり風雷コンビがその辺の木々を吹っ飛ばしてるよ。逃げに徹してるから、正面から戦う気は全くないのか?

 これだけ滅茶苦茶に景色が変わっていく中で、この迷いのない動き。どこからならどういう風に死角になるのかを把握し切って、その上で慎重に隠れてたっぽいね。

 こりゃ浄化の要所を制圧する作戦は、青の群集も考えてたのかもな。その上で、俺らが制圧するのをジェイさん達が確認して、監視体制を整えたってとこか。……風雷コンビが森を破壊してる事で、逆に死角を増やしてるような気もするんだけど、大丈夫か?


 作戦通りのようでいて、地味にここまでハッキリと敵の様子が判明したのは作戦外だけど、ここは全力で誤魔化していくしかない。富岳さん、情報収集は任せた!

 とはいえ、この風雷コンビの本当の暴走と、逃げに徹してる相手の対処はどうしたものか……。撃破した方がいいのは間違いないけど、そっちに戦力を回し過ぎるのも危険だぞ。


「ケイ殿、拙者達のPTは増援が来る可能性を考えて、そっちの警戒に回るのである! 風雷コンビは制御不能であるが、だからこそ他は気を引き締めるのであるよ!」

「ほいよっと、刹那さんのとこがそう動いてくれ! ツキノワさん、そっちのPTの指示は任せた!」

「了解だ、ケイさん! 黒曜と俺でそれぞれ1人ずつ抑えていくぞ! 俺はカマキリの方へ行く! レナさん、居場所を捕捉し続けてくれ! アリス、モコモコ、シオカラは後方から支援! 鬼ごっこといこうじゃねぇか! 『自己強化』『ウィンドクリエイト』『操作属性付与』!」

「了解だよ。『自己強化』『ウィンドクリエイト』『操作属性付与』!」

「それは任されたけど、とりあえず風雷コンビは止まりなさーい! 死角を増やしてどうするの!?」

「だったら、跡形もなくすまでだ! なぁ、疾風の! 『双翼斬舞』!」

「おうともよ! なぁ、迅雷の! 『双翼斬舞』!」

「ちょ!? 待っ!?」

「ここまで急変し過ぎると隠れる場所が!?」


 あー、うん。なんだろう? 風雷コンビがますます森を破壊していって、どんどん木片へと変わっていく木々が大量に……まぁ敵が隠れられなくなって困惑してるし、これは結果オーライか?

 何気に刹那さんの判断で、風雷コンビを除く4人はその場を動かなくても不自然ではない状況になってるしね。……さて、俺らも動くか。


「サヤ、ハーレさん、狙撃を目視で警戒してくれ! ヨッシさん、強化統率で氷属性の統率個体を防衛行動で1体生成! 危機察知回避の狙撃に効果があるかは分からないけど、念の為!」

「了解! 『強化統率』! ハチ1号、『防衛行動』!」

「見つけたら、自分で対処すればいいかな?」

「迎撃よりも、攻撃方向の割り出しを頼む! それで見つけたら、狙撃には狙撃で対応するまで! 頼むぞ、ハーレさん」

「おぉ、私の出番なのさー!」


 危機察知回避の手段自体は分かっているから、不完全ではあるけどそれをちょっと魔改造して使わせてもらおうか! ヨッシさんの氷塊の操作でレールを作って、それっぽく攻撃すれば警戒もしてくれるだろ。

 って、それはあくまでもおまけの部分だ。どちらかというとこの俺らの動きに対して、青の群集がどう動いてくるかが重要に――


「ん? あ、ベスタからのフレンドコールか!」

「どんどんいくぞ、疾風の!」

「おうともよ、迅雷の!」

「「『双翼斬舞』!」」

「「おわっ!」」

「風雷コンビ、どんどん切り刻んで死角を増やすんじゃなーい! 風音さん、邪魔なの除けて!」

「……分かった。……『ブラックホール』」

「ありがと! それとこの木片達は使わせてもらうよ! 『連脚撃』!」

「げっ!? 吸い込まれる!? しかも木片を蹴り飛ばしてくるのかよ!?」

「闇魔法にはこれだっての! 『レイ』!」

「……抜けられた!」

「いいや、これだけやってくれれば充分だ! いくぜ、黒曜!  『連強衝打』!」

「逃げ回るのもここまでだよ。『連爪回蹴撃』!」

「「なっ!?」」

「俺と黒曜を巻き込んでいいから、テンペストで一気に仕留めろ、モコモコ、シオカラ!」

「了解! いくよ、モコモコ! 『ウィンドクリエイト』!」

「うん、やるよ、シオカラ! 『エレクトロクリエイト』!」

「「ぎゃー!」」


 なんかベスタからの連絡が来て喜んでたけど、その直後に昇華魔法で監視役の撃破が完了したんだけど……2人を倒す為にちょっと消耗し過ぎな気もする。いや、完全に逃げに徹していたし、時間稼ぎの可能性を考えたらこれでいいか。


 とりあえず富岳さんに頼んだ事に意味はあったからこそ、ベスタからのフレンドコールが来てるんだし、すぐに出ないと!

 色々な状況を確認しないとどうしようもないし……でも、出来るだけ落ち着いて慌てずにというのも大事! よし、状況的にも出て大丈夫だな。


「ベスタ、今の状況はどうなってるんだ? なんで誰も増援に来ない?」

「ケイ、その件はすまん。ようやくこっちへの攻勢が片付いたとこでな」

「え、そっちが攻め込まれたのか!?」

「あぁ、何人かリーダー役に指名していた奴が、例の危機察知を掻い潜った狙撃で同時にやられてな。白の刻印:剛力で威力を上げて魔法型をピンポイントで狙ってきたようで、即死させられた。その直後に状態異常狙いの昇華魔法を数発叩き込まれた事で少し指揮系統の混乱が生じて、俺が離れる訳にもいかなくなっていてな……」

「……マジか」


 開始位置ではそんな攻撃を一気に受けてたのか……。てか、危機察知回避の狙撃はこっちにもいるはずだけど……ここも、初期位置も両方を狙える位置に陣取っている? いや、そこはハッキリとは分からないか。そもそもあれが出来る人が何人いるのか不明だし……でも、1人だけじゃない事は分かってるんだよな。

 それにしても白の刻印で威力を強化して即死を狙った上に、状態異常狙いの昇華魔法の連発ね。となると、雷属性や氷属性の入った昇華魔法か。ふむ、総合して考えると指揮系統の混乱を狙った攻撃……?


 これって、あの場に俺らを残さないようにしておくのがジェイさんの本当の狙いか! だから、初手から俺らが追いかけてくるような大々的な動き方をした上に、情報の確認をまともに出来ない緊張状態を維持させたのかも……。

 くそっ! 推測でしかないけど、ここまでは青の群集の狙い通りに動かされてる可能性が高いのかよ! 他の役割の人達、大丈夫だよな!? 全然動かせてないとか、そんな最悪な状況は勘弁してくれよ!


「ベスタ、他の役割で動いてる人達はどうなってる!?」

「あぁ、それは今はもう大丈夫だ。下手に固まっている方が危険だったからすぐにあちに散らせて、既に作戦通りに動き始めている。1番支障が出てるのは俺らの役割の部分だ。……ケイ、聞かれている可能性が高いという話だったが、その声量は大丈夫なのか?」

「あー、近くに隠れてたのは排除したはずだから、多分大丈夫なはず。これで聞かれてたら、ちょっといくらなんでも範囲が広過ぎるし……」

「対処出来た後なら、それでいい。すまんな、多少は様子を見てから動くつもりだったが、そっちの状況が分からなさ過ぎて連絡しかねていた。富岳からの競争クエスト情報板への連絡は助かったぞ」

「こっちとしても博打だったけど、成功してよかったよ」


 ベスタとしても、下手に俺やここにいるみんなに連絡を取る事自体にリスクを感じてたんだな。まぁそりゃ状況を伝えられないまま警戒態勢に移行してしまって、そこから動けなくなってたんだからキッツいわ。


 それにしても、青の群集の狙いは指揮系統の混乱か。今回はこれまでの反省点としてのベスタに依存しない指揮系統の確立だったはずなのに、ベスタでないと収められない状況を作り出してくるとはね……。

 まんまと俺らはそこから切り離されて、孤立状態も作られもしたか。変に警戒し過ぎず、すぐに何か動いてた方が正解だった? ……それを考え出しても結果論にしかならないし、やめとこ。それよりもこれからの事だ!

 

「えーと、ベスタはこっちの状況はどの程度把握してる?」

「富岳から軽くだが、ある程度の状況は聞いている。……まさか初手であれだけ動いた上で、監視以上の事は何もせず放置で来るとはな。貫通狙撃はないようだが、危機察知回避の狙撃もありだと集中力は大丈夫か?」

「……風雷コンビは、もう我慢出来なくなって大暴れしたな。他のみんなは、まぁ一応は大丈夫だとは思うけど、これ以上続くと流石にキツい……」

「風雷コンビについては……まぁ、この連絡をする隙を作った分だけいいとするしかないか。もう動けるようにはなったから、すぐに2班――」

「アルさん、真上に旋回で!」

「ケイ、しがみついてかな!」

「ちっ! 『旋回』!」

「おわっ!?」

 

 急にアルの上下が入れ替わる勢いで旋回をして、慌ててハーレさんの巣を掴んだけど、これは何事!? って、銀光を放つ小石がすっ飛んでいった!? うっわ、危な!?


「ケイ、どうした!?」

「あー、例の危機察知回避の狙撃に狙われた。銀光ありだったから、本格的に仕掛けてきたっぽい……って、爆発音!?」


 ちょ、なんかまた初手でジェイさんが仕掛けてきてたような爆発音が聞こえてくるのかよ! しかも、群集の初期エリアがある東側じゃなくて、反対の西側から!?


「すまん、ベスタ! 今は周囲の確認を優先させてくれ!」

「あぁ、わかった。しばらくこのまま繋いでおくから、可能な範囲で状況は伝えてくれ」

「ほいよっと! みんな、今の爆音は何か分かるか!?」

「……音だけだったかな?」

「何かが吹っ飛んでくる様子は無いのです!」

「んー、ちょっと土煙は上がってる感じだけど……それだけっぽいね? わたし達を狙ったものじゃなくて、他の場所での戦闘の音が聞こえてきただけかも?」

「……そうか。とりあえず、アル、方向を戻して下に降りてくれ。今は再使用時間になってるだろうけど、また危機察知回避で狙われたら堪らん!」

「流石にこの状況で空にいるには危険か。了解だ」

「風音さんと風雷コンビも降りてきてくれ! そのままじゃ格好の的だ!」

「ふははははは! 的だろうが構うまい! なぁ、疾風の! 『高速飛翔』!」

「当てられるものなら、当ててみやがれってんだ! なぁ、迅雷の! 『高速飛翔』!」

「……ただいま」


 風音さんは普通に降りてきてくれたけど、風雷コンビは上空を速度を上げて飛び回ってるんだけど!? あー、でもこれならあの危機察知回避の狙撃を当てるのは難しいか?

 どっちにしても、もう完全に俺の指示を聞いてくれなくなってる風雷コンビをどうにかする手段がないから放置するしかないか。まぁ敵の意識を散らしてくれる役目にはなりそうだし、戦力としては除外して考えよ。

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